狼影の足音が止んだ。
この樹に着いたようだ。
僕は樹の上からその姿を見下ろす。
狼影は脚をおり、抱えていた花束を樹の根元に置いた。
割れ物を扱うかの如く、その花束を置いた狼影の顔はどこか悲しげで、それでいて優しく微笑んでいた。
「いつまでもメソメソしてちゃダメなのは分かってる…分かってるんだ。」
突然話し始めた狼影の声は微かに震えており、目には薄く涙を浮かべていた。
「でも、今だけはお前に縋ることを許してくれ。」
優しい…優しい声だった。
いきなりだった。
「すまない…すまないなぁ。俺が力足らずだったばかりに…」
突然吹いた風によって狼影の声がかき消され、この先は聴き取ることができなかった。
「ここにいるとお前が見守ってくれてる様な気がするんだ。」
泣き腫らした目と、涙の跡のある顔が真っ直ぐこっちを見つめてきた。
いや、見つめてきた様な気がした。
「だから俺はまた歩き出せる。」
そう言って子供の様な無邪気な顔で笑った。
「いつまでだって愛してる。この身が朽ち果てるまで俺はお前を思い続ける。」
「いつか必ずお前を迎えに来る。それまで待っててくれ。」
そう言うとこの樹に背を向け、着た道を引き返して行く。
そこで俺は静かに頬を伝うものに気づいた。
あぁ涙で目が霞んでいく。
霞む視界でその姿を目で追っていると、俺の意識が少しずつ意識が遠のいていった。
俺はほぼ無意識に言った。
「俺もお前を愛してる。」
届く筈もない言葉を微風が運んでいく。
そこで俺の意識は途切れた。
コメント
3件
今年最後の作品です。皆さんお世話になりました。来年もよろしくお願いします。良いお年をお迎えください。☺️