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ーーーこの話は、他者の体験談にも関わるので、関係者の語り手様や体験者様以外での語りはご遠慮下さい。




私はよく、朝の身支度や料理の最中に心霊体験談を聞いている。もちろんただの趣味である。


ただし稀に、話の内容によって霊は電波や水に乗って来ることがある。


今回は「他者の体験談の後日談が出来てしまった」という話。







ある語り手さんが、YouTubeで人伝に聞いた心霊体験談を語っていた。


その語り手さんとはSNSを通じて知り合い、心霊体験を共有する際にご本人様のYouTubeのアカウントを教えていただき、最近は時間を見つけてはしょっちゅう聞いていた。


その体験談を聞いていた日はGWの真っ只中で、朝から夫と夫の親友、そして娘と一緒に映画に行く約束をしていた。


毎年このメンバーで観に行く恒例行事である。年に1度の映画を楽しみに化粧をしていると、偶然その話が耳に入ってきた。


今回語っていた内容としては、某所の滝で子供を探している女の霊を拾ってしまって怖い思いをした、というものだった。


話の中での女は、体験者からすると悪霊のような存在感で、ずぶ濡れの真っ黒な容姿だという。


まあ本来、幽霊は悪さをして生者の反応を楽しむか、見聞きできる人を頼って自身の心残りを解決してくれと頼んでくるかの大体2パターンである。


この話は後者だなと聞きながら思い、アイラインやアイシャドウを塗る。


すると、話が終わる頃急に部屋の温度が下がった。一気に寒くなったと感じた瞬間、背後で滝の轟音が聞こえた。


瞬時に「あぁ、これは聞いた人の元へ動けるタイプか…」と悟った。


背後から冷たいミストがかかる感触がある。鏡越しに、髪の長いずぶ濡れの白い容姿の女が見えた。随分と顔の距離が近い。


轟音が大き過ぎて、YouTubeの音が聞こえない。女が口を開き、何かを言った。しかし轟音に負けて聞こえない。


かろうじて聞き取れたのは「探して」の一言。


ただこういった心霊体験は慣れているので、私はふざけてアイブロウペンシルを握って「私は眉毛を探しているよ」などと言った。


すると、女は口を噤んで顔を離した。今まで自分を認知した人はここで叫んでいたのだろうなと、反応から容易に悟る。


向こうからしたら、心拍数も上がらなければ手も止めずに返答したのが意外だったのか。


その後、女は轟音と共に姿を消した。もしかしたら後者ではなく前者だったのか?と少し疑った。




その後は特に何も無く、映画館に到着して席に座る。


面白そうな予告が次々に流れ、数分が経過した。やがて、そろそろ始まるであろう雰囲気で画面が暗転した。


しかし次に画面が明るくなると同時に、顔にぶわっとミストが舞った。一瞬、入る部屋を間違えて4DXの部屋に入ったのかと思うほど、私の顔面が濡れた。リアリティのある水飛沫に、やめろ!化粧が落ちる!とちょこっとだけ思った。


そして、目の前に朝の女が現れた。


「探して」


今度は轟音はなく、女の声だけがやけにはっきりと聞こえる。


「探して 探して 探して 探して 探して」


ミストを纏う女は何度も同じ言葉を繰り返す。その背後で、楽しみにしていた映画が始まった。


水飛沫は霊障だったようで、拭うとファンデーションだけが手の甲についた。思わず、取れちまったじゃねえか!と悪態をついた。


映画が始まっても女は耳元で囁き続ける。ただ、私は霊との波長を無理矢理ずらして映画に集中することを選んだ。




映画も無事終わり、席を立つ。今作も面白かった!と満足して部屋を出ようとして、また「探して」と声がした。ぶわっとミストがかかる。


随分としつこいなと思いながらもこの後のドライブを満喫し、気付けば早3時間。女は後部座席に乗り込んで、未だに「探して」を連呼する。


あまりのしつこさに、小さく「うるせえ分かったよ!」と言ってしまった。


しかし運転の邪魔をする訳でもなく、ただ連呼するだけであって特に害はない。


何処に行くとも決めておらず、雨予報が外れて晴れたので、お昼ご飯を兼ねて近郊でドライブがてらに見つけた面白そうなお店に入ろうという流れになった。


その後、某所のアンティークショップに着いた。初めて訪れる店で、多くの年代物が沢山並ぶ。


2階には古い家具が展示され、箪笥の前でふと女が「上から3番目の引き出しを開けて」と言葉を変えてきた。


え?と思って箪笥の引き出しを開ける。


開けた瞬間、何か黒い霧が飛び出してきた。私を避けるように瞬時に迂回して、逃げて行った。早過ぎて何が何だか分からなかった。


中には何十年も前の古びた新聞が沢山入っていた。


今のはなんだったのだろうと、黒い霧が逃げた方を辿っていくと、窓があった。


ここは廃校をお店にアレンジした場所で、窓が多く存在する。周囲には雑木林があり、その林の中に、真っ黒でずぶ濡れの髪の長い女の姿があった。その姿は悪霊そのものである。


朝憑いてしまったミスト女とは別物かと思い、何だか変なのを解放したかもしれないと考えながら、その時は放置した。


箪笥の中の新聞を綺麗に戻して、1階で素敵なポットを買った。しばれ硝子のアンティークポットで、この間買ったミントに水やりする時とても重宝しそうだ。


その後は女のことなど忘れるようにして、お洒落なカフェで美味しい物を食べてダーツに行き、GWの休日を4人で満喫した。


夜遅くに帰宅して、シャワーを順に回す。


最後に自分の番がきて、シャンプーをしていると、左の耳元で「さ が し て」と念を押すような言葉が聞こえた。


今回のは本当に、随分としつこい。


今度は部外者もいないので、はっきりとこちらも声に出して言った。


「すまん、今日は出掛けて疲れているからその件は明日にしてくれ」


すると女はミストを撒き散らした後、引っ込むようにして姿を消した。


案外、普通に意思疎通ができる奴なんだと若干嬉しく思い、その夜はこれといった怖い脅しを受けることもなくシャワーを終えて、呆気なく就寝した。


寝ている間も干渉せず、夜中に起きてもただ部屋が寒いくらいで特に害もなく、黒兎も女の存在には気付いている様子だが足ダンはしない。


やがて朝を迎え、昨日投げたダーツでの筋肉痛に苦しみながら起きた私を覗き込む、真っ黒な女と目が合った。


あれ、これは…廃校で見かけた奴…?と回らぬ頭で考える。でも肌身で感じる感覚的には、昨日のミストを振り撒くあの女にとても似ている。


見た目は悪霊だが、こちらに対しての殺意がない。珍しいタイプもいるものだと、冷静に考える。


少し状況を整理しよう、と目を閉じた。


女が私の肩を掴んだのを察した。しかし痛くはない。押さえ付ける感じでもない。ただ、私の肩に手を置いたような感覚だ。


昨日聞いたYouTubeでの女の霊は、どんな容姿だったか。確認の為に枕元の携帯でもう1度再生した。


「ーーー髪は床につくほど長くて、真っ黒な女だったんですって」

「体験者は女の長い髪を、強く握っていたんですって」


パッと目を開くと、目の前が黒い。なんだかモシャモシャする。ぺぺっと手で払い除けると、女の長過ぎる髪の毛が、覗き込むことによって私の顔の上にこんもりと乗っていた。


長時間濡れた髪の毛から、雑巾のような臭いがした。


女は顔をゆっくりと近付けてくる。外見こそ悪霊のような色だが、どちらかというと無機質で恨みの籠った目という印象はなかった。


目と鼻の先に顔が寄ってきた刹那、ぶわっとあのミストが舞った。滝の轟音が急に聞こえ、振り出しに戻るかのように「探して」と女が言った。


そこで私は初めて気付いた。


廃校で遠巻きに見た女と、ミストを振り撒く白い女が同一人物だと。


白く見えていたのは、ミストのせいだった。あまりにも至近距離だったせいで、滝の水飛沫が邪魔をして全体的に白い容姿だと思い込んでいたのだ。


よく見れば、肩に置かれていたのは手ではなく、長い濡れた髪だった。


「その女の霊は、子供を亡くした親だそうでーーー」


動画の音声と共に、触れた髪の毛からビジョンが見えた。


この霊は、幼い我が子を探している。


「私の息子を、探して」


その時初めてはっきりと、主語が聞き取れた。


この霊は一心不乱に我が子の行方を捜索していて、動画で上がった話のように見聞きできる人に話を聞いて我が子を探してもらいたかったんだとビジョンを見て確信した。


しかし、男の子が行方不明になったのはおそらくもう何十年も前。アンティークショップの箪笥の中にあった新聞にも何かの手がかりがあるかと思い目を通したが、当時の新聞に行方不明者の事件の話は載っていなかった。


夫が「どうしたの?普段新聞なんて一切見ないのに」と、食い入るように新聞を読む私を不思議そうに見て言っていた。


彼の親友も「そんな面白い記事でもあった?」と聞くが、そもそも面白いネタを探しているわけではない。


娘は娘で、近くに飾られていたキーホルダーに夢中だったようだ。


結局2人がずっとそばにいたので、内容はざっくりしか読めなかった。政治と流行病の話が主だった。


あれが昭和初期の新聞であったことも踏まえて、私は女がこの年代に生きていたと仮定して幾つかの提示を行うことにした。


・死後、今でも現場の滝周辺にさまよってるが偶然遭遇していないだけ

・もうとっくに成仏していてこちらにいない

・事故?の後、実は子供だけ助かっていて、成長しておりもう見た目じゃ分からない

・既に亡くなっていて、滝の周辺にいた強いのに食われてる


「私が探せるのは、探知できた場合のみだよ。上にいても下にいても、存在が認知できたら分かるけど…強いのに食われてる場合はごめん。諦めて欲しい。食ったのを助け出すのは流石にできないし、仮に生きていたらもっと探すのは困難」


そう伝えると、女は顔を離した。周囲に立っていた守護のDくんが、珍しく咳払いをする。


その時ふと、名案を思い付いた。


「あっ、ねえちょっと。Dくん、鏡貸して」


うちの守護はそれぞれに得意分野があり、中でもDくんは鉄壁の守りに特化している。


その守り方も特殊で、自身が鏡であることから、受けるダメージを反射するものだった。


時に鏡は、望むものを映すこともできる。


「息子さん、探せない?」


ダメ元で聞けば、Dくんは淡白に「できる」と言って待っていましたと言わんばかりに手鏡を見せてきた。


鏡には、綺麗な空間で幼い男の子が遊んでいる、そんな姿が映っていた。


女がはっとしたように鏡を掴んだ。反応からして、探し人で間違いなかったようだ。


「私達が『上』と呼んでる場所にいるみたいだね。とっくに成仏はしてたみたいだよ。良かった、食われてなくて。上でお母さんのこと待ってたんだね」


女は鏡を凝視したまま動かない。


「どうする?子供の所に行く?」と聞けば、視線がこちらを向いた。


大きく頷いたのを確認して、私は女の腕を掴んだ。酷く冷たい腕だった。強く握ると崩れそうなほど、脆く見える。


「雑な握り方…」とDくんがボソッと言う。うるせえなと思った。


片方の手でDくんの鏡に触れて、点と点を繋ぐように結ぶ。個人的にこうすると、道を作りやすい。念仏を聞かせて上に上げるのは、得意ではない。


「もう未練はないね?」


念の為最後の確認を行うと、女は再び頷いた。その時に少しだけ、答え合わせのように幾つかの会話をした。


箪笥を指さした件は、自分の件とは全く無関係だったらしい。ただ、カタカタと音がしているから「何かいるよ」という意味で指さしたそうだ。紛らわしい。


ただ、言われた通りに箪笥を開けた行動力から、私が手助けできるタイプなのだと向こうも確信したらしい。それは余計なことをした。


結局、何を解き放ったのかは不明。途中まで女がそれを追いかけたので、窓越しに林の中で黒い女(全身)が立っているのを私が遠目で見かけた、という流れになったそうだ。


一通り、昨日からの出来事の答え合わせが終わった。


「…んじゃあ、さよならだね。長きに渡る捜索、お疲れ様。まずはゆっくり休んだらいい。向こうでお子さんと仲良くね」


そう伝えてから、女の魂を我が子の元へ送り届けた。


送り方は霊能者によって様々だと思う。神様の使いを寄越して連れて行ってもらうやり方もある。


私も仏壇奥の姉御達に頼んで使いを寄越してもらい、連れて行ってもらうこともできるが、最近それすら彼女達は手伝ってくれないので、自力で物理干渉した方が早い。


これでもう、某所の滝であの女の霊は出ないだろう。怪異として存在を残した彼女は、無事に成仏したとここに記す。


あ。女に伝えるの忘れてた。今まで心霊体験として脅かした人達には、向こうの世界でいつか会ったら一応謝った方がいいかも、と。彼女の外見が怖いが為に恐怖したであろう皆様には、安心していただきたい。彼女は、子を探すことに必死だっただけで、本当は無害。


母親としての本能で動いていたんだろうなって。でもまずは自分の存在を認知してくれないと頼めないので、恐怖体験として印象付けたんだろう。


YouTubeの語りの最後で「体験者は神社にお祓いに行った」とあったが、その時に神社の前で女は体験者から離れて再び滝に戻ったそうだ。


神社でお祓いを受けた時に成仏もできたようだが、女はそれを選ばなかったそう。


そりゃそうだろう。まだ見つかってなかったもん我が子。


神社の人も、ちゃんと探してあげれば良かったのにね。ただ「上に行け」と言われたって困るよね。行く気はあっても未練の解決にはなってないし。


今回珍しく、霊の頼みをちゃんと聞いて解決する方を選んだのは、女が睡眠を邪魔したり首を絞めるなどの危害を与えてこなかったからである。初手から攻撃的なら問答無用で殴って消し炭にしていた。


ひとまず、手伝ってくれたことに対してお礼言ったら、Dくんに「解決策を考えるのも修行のひとつ。今回は考案したものを相談しに来たから応じたまで。来なければ言いに来るまで放置していた」と素直に暴露されてキェェェェとなった。


やっぱり全部拳でぶん殴って消した方がいいかもしれないと、内心思う。


しかも「頼みが来てから1日経っている。もっと早くできたはず。事によっては数時間で片付けないと危害を与えてくる奴もいる。次はその日のうちに解決するように」と余計な追い討ちも、はー、まじありがとよ。


最近こういった霊の成仏や強制除霊に関して、守護達はできるのにやってくれなくなった。総じて「自力でやれ」「お前も修行しろ」と言ってくる。


今までは百鬼の中にいる巫女が、来た霊の話を聞いてどうにか対応してくれていたのだけど、これではダメだと会議でなったらしい。


何の為の守護だよおめーら!私の今世の安寧の為じゃねーのかよ!とブチ切れながらも、今後はこういう案件も対応していかないといけないんだなって腹をくくった出来事だった。


ただ、やはり無償でやらないといけない暗黙のルールはあるらしい。


こちらの疲労と比べたら割に合わねえよと思いつつ、次回も仕方ないからやってやんよ。もちろん、期待はしないで欲しいけど。

私が死に呼ばれるまで。

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