ここまでの件(くだり)を説明しなければなるまい、そんな風に思ってしまう私、観察者の話を聞いて頂きたい。
そもそも、善悪の子分、ゼパルとベレトとカイムは共に魔王種に名を連ねる最上級魔族である。
戦後間もない頃、現世(うつしよ)にフラフラ顕現した所を当時の『聖女』トシ子と修行中だった娘のツミコのタッグに祓(はら)われた悪魔であった。
その後、『聖女』がツミコに引き継がれた後はツミコの使い魔として力を貸してきたのだ。
ツミコが世界を巡る旅に出かけるタイミングで善悪の父、清濁(きよおみ)(ハワイ在住)に請(こ)われて、当時ちょっと気が弱くて大人しかった善悪の守護者として貸し出された、所謂(いわゆる)善悪君係り(がかり)なのである。
因み(ちなみ)に本体である魔核は、万が一の叛意(ほんい)に備える為に、見て頂いたように最初の主、トシ子が持っていたのだ。
加えて言えば、コユキがマーガレッタ王女に見えたのは『情』の悪魔ゼパルの人の姿を自由自在に変身させる能力であり、カラスたちに見事なダンスを躍らせたのは、『答』の悪魔カイムの力、生物と会話し使役できるスキルに依る物であった。
最後にトシ子の興味がカラスに変更された理由は『騙』の悪魔ベレトである。
ベレトは人間の興味、目的、関心を強引に別の物に移し変えてしまうのである。
それに加えて、善悪が緩く友達ぃとか思っているガープは大魔王っぽい存在なのであった。
ガープは人の求める欲、その顕現した姿その物であり、美しくも醜い、その美醜を司る、諦観(ていかん)、諦めの儚さ、美しさを象徴する存在であったのだから……
『病』の悪魔であるガープは人をあらゆる病に陥らせ絶望を抱かせてしまう、結構エグイ能力を持つ。
一瞬であれば意識を奪う事なんかも出来ちゃう彼は(見た目は女性)、幼いコユキを襲った際に偶然その場に現れた少年善悪に倒され、以来忠実な使い魔として幸福寺を守っていたのである。
オルクス達との邂逅(かいこう)によって、依り代と融合する事で悪魔たちの能力が上がる事を知った善悪は、幼い日から手元にあったガープにも新たな肉体、フィギュアを与えたのである。
善悪の部屋にある大量のフィギュアの中からガープが選び出したのは、世界中の女児の心を捉えて離さない、ザキヤマ似の女芸人と同じ愛称を持つバーバラちゃんの着せ替え人形であった。
依り代と同化したガープは早速自身の美しいプラチナブロンドの髪を根こそぎ剃り上げてしまった。
何十年もの間、仲良く過ごし続けてきた善悪に対するリスペクトのつもりだったのかもしれないが、見た目的には非常に残念な結果と言わざるを得ない。
そういう意味でも美しくて醜いガープならではのセンスと言えるだろう。
彼は歌いつつトシ子婆ちゃんに告げたのである。
「愛しさと、刹那さと、髪の少なさとぉぅ! 喰らえ、ガープ、ハゲフラッシュっ! パカァアン!!」
「か、カハァアッ!! ま、まぶちいぃぃぃ!」
磨き上げられたツルツル頭がハゲしく光り、その恒星の燃え盛るコロナの如き輝きを、まともに目にしてしまったトシ子は思わず顔を手で覆ってしゃがみ込んでしまうのだった……
トシ子を襲ったのは目潰し攻撃だけではなかった、急激に引き上げられる体温は四十度を越え、全身を包んだ|倦怠《けんたい》感と比例するように痛み出す節々、突然感じた呼吸困難と喉の焼ける様な痛みは強烈なインフルエンザの症状そのものであった、恐らくA型だと思われる、やばいヤツだ。
こうなってはもう、終わりなのか? いいやそうではなかった、トシ子は座ったままで声に出した! ガッツが凄い!
「ガイア、ふ、フル、リリース……」
言葉を発した瞬間、トシ子を中心にした周囲の地面が盛り上がり、十二体の土人形へと姿を変えると、放射状に広がりながら、メチャクチャに暴れ出すのであった。
「くっ! な、何よ、こいつらあっ! く、くそうっ! 『散弾(ショット)』!」
「ぬおお! 舐めるな、コレでも食らえ、で、ござるぅっ!」
コユキはショットを発動させ、善悪は法衣の袂(たもと)から取り出したブラックジャックを叩きつけて迫って来た土人形、ゴーレムを破壊していく。
二人とも、神器を使うまでも無い、と、些か(いささか)舐め対応だったのかも知れない……
皮袋に入れた五百円玉の重さもずっしりと、右に振りぬいたブラックジャックが手元に戻るまでの一瞬の隙を付く様に、崩れ落ちるゴーレムの土煙に身を隠していたまた別の土人形、ゴーレムの振り下ろした拳が善悪の後頭部めがけて振り下ろされた。
「ま、マスター! あ、危ないっ!!」
ちいさなバーバラ(ハゲ)が善悪を庇う(かばう)ように土人形の拳を受け止め、次の瞬間吹き飛ばされて本堂の下、犬走りのコンクリートに叩き付けられてしまうのであった。
「が、ガープちんんん!!」
著(いちじる)しく狼狽えてしまった善悪に向かって四体のゴーレムが容赦ない攻撃を繰り出し、最早どうやっても回避不可能だと思われた、さようなら善悪の瞬間、その場に片言の声が響いた。
「イ、イペラスピツォ!!」
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