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文化祭の最後を飾る後夜祭。校庭からは、人気バンドの曲に合わせて盛り上がる生徒たちの地響きのような歓声が聞こえてくる。でも、私はその喧騒から逃げるように、一人で静まり返った北校舎の渡り廊下に立っていた。
さっき、グラウンドの隅でミナトが他の女の子たちと楽しそうに笑っているのを見てしまった。幼馴染だから、あいつが人気者なのは知ってる。でも、私が一人で背景パネルを仕上げていた時、あいつは一度も顔を出してくれなかった。
キララ:「……バカみたい。期待してた私が、一番バカだ」
ポツリとこぼした独り言が、冷たい夜風に消えていく。目元が熱くなって、視界が滲んだその時だった。
ユウキ:「……あ、やっぱりここにいた」
穏やかな、それでいて私の心を落ち着かせるような声。振り返ると、そこにはクラスメイトのユウキくんが立っていた。彼はいつものように整った制服の着こなしで、優しく微笑んでいる。
ユウキ:「キララさん。ずっと探してたんだよ。後夜祭、一緒に行かない?」
キララ:「(慌てて涙を拭って)ユウキくん……。ごめんね、ちょっと疲れちゃって。ここで休んでたの」
ユウキ:「(隣に並んで、私と同じように夜空を見上げて)キララさんは、頑張りすぎだよ。あのパネル、本当にかっこよかった。君のセンス、僕は尊敬してる。……でも、そんな君が一人で泣いてるのを見るのは、すごく胸が痛い」
キララ:「(ドキッとして)……泣いてなんて……」
ユウキ:「(私の目を見つめて、少し真剣なトーンで)隠さなくていいよ。僕は、君のことずっと見てたから。……ねえ、キララさん。僕に、君を笑顔にさせてくれないかな」
ユウキくんが、私の冷たくなった手をそっと両手で包み込んだ。ミナトのゴツゴツした手とは違う、柔らかくて、でも不思議と安心する温もり。
ユウキ:「僕は、君が誰を想っているのかも知ってる。でも、君を悲しませるあいつより、僕の方が君を大切にできる。……キララさん。僕と、付き合ってください。君の隣で、君を一番に応援させてほしいんだ」
真っ直ぐな言葉だった。今まで、誰かにこんなに真っ正面から「必要だ」と言われたことがあっただろうか。ミナトに振り回されてばかりだった私の心に、ユウキくんの言葉が染み渡っていく。ミナトへの執着が、嘘みたいにさらさらと崩れていくのを感じた。
目の前にいるユウキくんは、私の全部を認めて、包み込んでくれようとしている。この温もりを、私は手放したくないと思った。
キララ:「(ユウキくんの手をぎゅっと握り返して)……ユウキくん。私のこと、そんなふうに思ってくれてたんだね」
ユウキ:「(嬉しそうに目を細めて)ああ。ずっと前からだよ」
私は深呼吸をして、滲んでいた涙を笑顔に変えた。ミナトのいない世界は、こんなにも優しくて穏やかなんだ。
キララ:「(頬を赤く染めながら、しっかりと彼の目を見て)……はい。……こんな私で良ければ、お願いします!」
私が答えた瞬間、ユウキくんの顔がパッと明るくなった。彼は感極まったように、私の手を自分の胸元に引き寄せた。
ユウキ:「ありがとう、キララ。絶対に後悔させない。君を世界で一番幸せにするから」
遠くで後夜祭のクライマックスを告げる花火が上がった。
でも、私の目にはユウキくんの優しい笑顔しか映っていなかった。
私はすごく嬉しかった!
つづく