全て期待に満ちていたお披露目会のはずであった。
……本当に僕は慢心をしていた。10歳の子供相手だからと侮っていた。
まさかあんな伏兵がいたなんて。
『あいつが公爵様を怒らせたやつか』
『あのような子供が嫡男とは……』
『先ほどのアレイシア嬢の顔を見たか?……なんとも可哀想であったな』
僕は大人たちの陰口の中心にいた。
ああ……胃が痛い、ゲロ吐きそう。
僕は生まれつきの耳の良さで後悔したことはなかった。
むしろ喜ばしいと思っていた。
魔法の存在しないこの世界において、僕はこれを転生特典だと思っていたし、助けられたことも多かった。
乙女ゲームの世界だと早くに知れたのも耳のおかげ。
だが、この日ほど自分の耳の良さを憎んだことはない。
『ねぇ、なんであの子に声かけちゃダメなの?』
『知らないよ。お父様とお母様が絶対に仲良くしちゃいけないっておっしゃったんだよ』
『……なんか可哀想だね』
『一人ぼっちだねあの子』
所々から聞こえる子供たちからの純粋で悪気のない言葉。
大人から吹き込まれたその言葉の鋭利な刃物は傷心している僕の心に突き刺さる。
そもそも耳が良すぎなければこんなことにはならなかった。
本当に僕は取り返しのつかないミスをしてしまった。油断していた。
「馬車の時はあんなにも楽しみだったのになんでこうなってしまった……」
入った時、一番に驚いたのは天井にあった大きなシャンデリアだったっけ。
パーティーホールに入った後、沢山のご馳走が目に入って……後で新しくできた友達と食べるつもりでいた。
なんでこうなってしまったのか。
それは時は数時間前に遡る。
「アレン、準備は大丈夫かしら?」
「そんなに気を張らなくても大丈夫だよ。挨拶回りには僕もユリアンもいるしね。何があっても僕たちフォローするから安心して」
「……とても心強いです」
僕は今、お披露目会となる王宮にいる。
馬車で母上と父上と向かい、王宮に着くと騎士の方々が案内をしていた。
荷物検査から危険物の持ち込みをしていないかのボディーチェック。
騎士の方々はすごく緊張していた。
失礼がないよう、粗相をしないようにと思っていたのだろう。
鼓動が早く、危うくこっちまで緊張してしまった。
ただ、僕はそんな兵士の人たちに対して、「いつもお疲れ様です」と言ったら笑って「ありがとうございます」と返してくれた。
本心からの言葉でも社交辞令だと思われたかもしれないが、僕にできたのはこれだけだ。
その後は王宮に務める使用人に案内をされ、パーティ会場に入った。
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