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#ミステリー
鬼霧宗作
686
みおん
5,211
俺はそのまま千葉の銚子駅まで向かった。東京からは3時間ぐらいかかるから、もう夕方だ。
徒歩30分ぐらいで屏風ヶ浦という絶壁がある。
大久保からでも遠いが、ここの景色が好きで1人でも、家族でも、バンドメンバーとも行った思い出の地だ。
夕方が特に綺麗だ。
海と絶壁が夕日で綺麗に照らされる。
俺は夕日に照らされる海を見ながら、タバコに火をつけた。
昔のことを思い出す。
ここで色々話をした。
バンドメンバーはこれからどうしていきたいかを……。
綾葉は千葉から出たい。
学は旅館を継ぐ。
武はミュージシャンになる。
父さんと母さんはこれからも幸せに暮らしていきたい。
沙和子は……みんな幸せになれますようにって言ってたんだよな。
何も知らなかったあの頃に戻りたいって何度思ったことだろう。
だから占いや神に頼ったことがあったんだ。
でも何も変えられないんだ。
いくら後悔したところで過去は変えられない。
それはどの人間にも共通することだ。
過去を変えられないからこれから起こる未来を変えようと皆、生きているのだ。
でも……。
全員が全員幸せになれるわけじゃない。
何か改善しようともそれが全て上手くいくとは限らない。
俺は知りすぎてしまったんだ。
人間は誰であろうと平気で嘘を吐き、裏切る。
時には自分勝手な理由で逃げ出して、他人を見捨てる。
こんな世界でこれから生きていても本当の幸せを感じることができるのか?
俺の周りは偽りだらけだった。
浮気をしていた綾葉。
表向きは親友を演じていた学。
自作自演で俺に良い顔をしていた武。
俺を守ろうとした家族だって……。
罪を犯していたんだ……。
楽しかった思い出も今となっては苦しみにしかならない。
俺には何も残っていない。
1番信用していた人達に裏切られ、黒い感情を隠していたことを知った俺が、誰を信用して生きていけばいいかわからない。
そして俺も……。
時には自分を守るために嘘をついたこともあった。
人の本心も知ろうとしなかった。
いや……。
知ろうとしなかったんじゃない。
父さんや母さんのことだって……。
俺は何かある度に家で愚痴をこぼしていた。
それからそんなに時間が経たないうちに、そいつらに不幸が起こった。
沙和子が東京に来たときだって……。
綾葉が沙和子の買い物とかに付き合ったのだって綾葉から進んで付き合ったわけじゃない。
沙和子がお願いして綾葉が渋々付き合ってたんだ。
沙和子は綾葉のことに詳しかった……。
そして綾葉は殺された。
そう……。
気づけるタイミングはあった。
でも俺は……。
気づかないふりをしていたのかもしれない。
俺は一歩進むことができなくなっていただけだ。
真実を知ることが怖くて、一歩踏み込む勇気の無い臆病者だ。
知ろうとしなかったんじゃなくてただ逃げていただけなんだ。
それに俺は思ってたんだ。
殺された奴らのことを……。
死んでよかったと思っていたんだ。
今回の事件では心の奥底では感謝していたんだ。
殺してくれてありがとうって……。
そう……。
俺にだって黒い感情はあるんだ。
俺も醜くて弱い人間の1人。
俺がこの世で1番嫌いなのは自分自身だ。
マリーゴールド……。
変わらない愛か……。
大谷は良い花言葉を教えてくれたけど、調べてみたら実は別の意味があった。
嫉妬、絶望、悲観。
俺は思ったんだ。
全てにおいて悲観的に考えて、自分より優れていると思う人物に嫉妬し、自分にも他人にも絶望する。
まさに俺に当てはまった花言葉だと思う。
だけどこの花は他の人間にも例えられることだと思う。
見た目が綺麗で表では良く見えるかもしれない。
でも裏では黒い部分を隠し持っている。
皆、黒い感情を隠しながら生きているんだ。
外見がいくら綺麗であっても………。
俺のこの傷は二度と治ることはないだろう。
人間が負った心の傷は負ってしまったら治せないんだ。
この傷を背負ったまま俺はどう生きていけばいいんだろう?
生きていてもまた傷が増えるだけじゃないのか……。
なぜならこの世界は……。
偽りに満ち溢れているから……。
ずっと傷つくのなら……。
こんな世界に……。
生まれてこなければよかった。
俺は夕日に照らされてる空を見ながら思う。
その時、咥えていたタバコがフィルターまでいき、灰が落ちた。
それと同時に、俺の頬からも一粒の涙がこぼれ落ちた。
fin
コメント
3件
第67話「終幕 マリーゴールド」、読み終わりました……。 銚子の屏風ヶ浦で夕日を見ながら回想するシーン、とても美しくて切なかったです。マリーゴールドの花言葉——「変わらない愛」という表の意味と、「嫉妬」「絶望」「悲観」という裏の意味を重ねて、「自分にも他人にも嘘をつきながら生きる人間の性」を描いたのが心に刺さりました。 「知ろうとしなかったんじゃなくて、ただ逃げていた」という気づきのシーン、それまでの回想が伏線として回収されていく手触りが心地よかったです。最後のタバコの灰とともに落ちる涙、いい絵面でした。 まだ続くんですよね? ここからどう立ち直るのか、あるいは別の選択をするのか、続きが気になります。お疲れ様です、Augusteさん。