テラーノベル
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すたぁと!
チャイムの音が遠くから響く。
でも、校舎裏はまだ静かで、午後の光が薄く差し込んでいた。
おらふくんは、手に持ったハンカチをぎゅっと握った。
傷は少し乾いてきているけれど、まだじんわり痛む。
「……行く?」
おんりーの声が、少し近くに感じた。
振り返ると、背が高くて、制服もきちんと整っている。
でも、その目だけは、昨日と同じ、優しく静かなものだった。
おらふくんは、首を小さく振る。
「もう少し、ここにいたい……」
おんりーは、それ以上何も言わず、少し離れたところにしゃがむ。
距離は近すぎず、遠すぎず――ちょうどいい。
風が通って、髪が頬にかかる。
目を閉じると、雨の日の家の中の静けさと似ていて、泣きたくなるけど泣けない。
「……名前、なんて言うんだっけ」
おらふくんは、びくっとした。
突然の質問。でも、答えられない。
「……覚えてない」
声が震えて、言葉が小さくなる。
おんりーは首をかしげたけれど、眉も下げず、ただ黙っている。
しばらく、二人は言葉を交わさなかった。
ただ、座っているだけ。
風の音、葉の揺れる音、遠くの笑い声。
それだけが、校舎裏にあった。
「……また来る?」
おんりーが、立ち上がりかけて聞く。
手を差し伸べるわけでも、離れるわけでもない。
その問いは、ただ静かに漂う。
おらふくんは、小さくうなずく。
「……うん」
おんりーは、少しだけ笑った。
それだけで、胸の奥が温かくなる。
チャイムが二度鳴って、現実が戻る。
おんりーは、何も言わず去っていった。
手の中のハンカチを握りしめながら、おらふくんは思った。
――名前も知らない、思い出せない人。
それでも、ここにいてもいいんだと思える瞬間は、存在するんだ、と。
校舎裏の空気は、今日も静かで、ちょっと優しかった。
次の日も、昼休みが終わるころ、おらふくんはいつもの場所に向かった。
誰も見ていない裏庭の片隅。
ベンチはなく、冷たいコンクリートだけど、それでも昨日より少し安心できる。
しゃがみ込んで、制服の袖で顔を拭く。
ひざの傷は少し治ってきて、もうじんわりと痛む程度。
でも、心の傷はまだ痛む。
「……またここ?」
背後から声がして、体がびくっとなる。
振り返ると、昨日と同じおんりーが立っていた。
少し距離を置いて、でも確かに見てくれている。
「……うん」
おらふくんは答える。
今日は声が少しだけ、昨日よりも大きかった。
おんりーは、座ることもせず立ったまま、少し首をかしげる。
「……傷、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
小さな嘘をつく。
でも、おんりーは無理に触ろうとはせず、ただ静かにうなずく。
その距離感が、不思議と安心できる。
二人は黙ったまま、少し風に吹かれて座っていた。
遠くで誰かが笑う声が聞こえるけど、ここだけは切り取られたように静かだった。
「……名前、思い出した?」
おんりーが、やわらかく、でも少し気になるように聞く。
おらふくんは一瞬止まる。
答えられない。覚えていないから。
「……まだ」
小さく答えると、おんりーは少しだけ肩をすくめて、でも顔は笑っていた。
「そっか……でも、いいんだ。今でもここに来る理由はわかるから」
その言葉に、胸の奥がきゅっとなる。
知らないはずの人に、こんな風に言われるのは、初めてだった。
風に揺れる木の葉。
光の角度が少し変わる。
それだけの変化でも、今日は少しだけ世界が柔らかく見えた。
「……明日も来る?」
おんりーは立ち上がる前に、小さく問いかけた。
おらふくんは、迷うことなくうなずいた。
「うん……」
おんりーは笑わず、でも安心したようにうなずいて、校舎の方へ歩いていった。
足音が遠ざかると、おらふくんはまだ少しだけ、座り込んでいた。
校舎裏の空気は、今日も静かで、少しだけ温かかった。
いっきにだせた!
コメント
7件
言葉で...うまく...なんていうんだろう...すごい...(はっきり喋りましょうよ? この人)
ことばだけでじょうけいがはっきりうかんでくる!! てんさいすぎ!!✨
こいつ図工さぼってます!!