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最初からしんみりしてしまった談話室。といっても、しんみりしているのは王族だけで、客人であるミューゼ達は困惑状態である。
そこへ、ピアーニャからの解説と苦情が入った。
「いまアリエッタがこんなジョウタイなのは、カジョウなきせかえのせいだ。ちょうじかんのきせかえを、なんどもされたせいで、トラウマをかかえてしまってな。さきほども、おきたばかりでメイドたちにおそわれて、ココロがおれたらしい」
これには王族3人平謝りである。事情を唯一聞かされ、今回特別に控えていた年配のメイドも慌てて頭を下げていた。
3人を着替えさせたのは形式上というのもあるが、必ずしも必要なわけでは無い行為だった。なんとなく楽しくて着せ替えるという、王家とメイド達によるドッキリ企画で、こんな事になるとは思わなかったのである。
アリエッタが着せ替えられる現場にいたパフィも、本来はアリエッタの着替えだけ断るか、1着だけで終わらせる予定でいたのだが、拘束という強引な手段には手も足も出なかった。
「本当に申し訳ないわ。少しでも助けようと思って会ってみたのに、まさか最初から危害を加えてしまうなんて」
「私はもう完全に愚王だな」
「いえいえ! 大丈夫ですから! 生きてますから! そんなに気になさらないでください!」
ミューゼが慌ててフォローしようとするが、目の前の子供1人救えていないと落ち込むばかりである。
「テリアとちがって、今のディオはマジメだからな。きにするなとゆーほうがムリだろ」
「ぐっ」
「今のとか言われてますよ、あなた」
「わたくしと違ってってどーゆー意味!?」
ネフテリアの父であるガルディオは、今と昔を同時に揶揄われ、巻き添えを食ったテリアは抗議する。ピアーニャは王家をなんでもないように、手玉にとっていた。
「総長って凄いのよ……」
「相手は王様だよ?」
「わちにとっては、こいつはただのワカゾウだ」
「もう若造扱いはやめてくださいよ、先生」
『先生!?』
ピアーニャがロンデルの祖父の代から付き合いがあるのならば、当然少し年上の王の祖父の代から知っている事になる。その可能性を考えずにいたのと、先生と呼ばれている事へのショックで、大きな声で叫んでしまう。
「コイツがうまれるまえからのつきあいでな。カテイキョウシなどをしていたのだ。ディオのちいさいコロは、スナオでゲンキで、しろのナカをはしりまわっていてな。たまーにソウコのなかにかくれては、こわくなって、なき──」
「わ゛あぁぁぁぁ!! いきなり何を暴露してるんですかぁっ!!」
唐突な恥ずかしい過去話に、王は叫び、ミューゼとパフィは笑うに笑えず困った顔で俯いた。そして、ネフテリアと王妃は、目を輝かせてピアーニャを見る。
「ピアーニャ……その話、詳しく!」
「うむ」
「やめてくれえぇぇぇぇ!!」
親や夫の恥ずかしい過去話は、最高の世間話のネタである。特に城から出る事が少ない王妃は、魔法で王を縛り付けて、少しの間食い入るように話を聞いていた。
こうして、心が折れた抜け殻が2人に増えた。
「ふっ、カタキはとってやったぞ、アリエッタ」
「結局ここには何しにきたのよ……」
王が不能になった為、王妃が代わりに話を進める事になった。
「……そうですか。多くのリージョンが集まるこのエインデルブルグで、アリエッタちゃんの何かが分かれば……ですが、何も無かったのですね」
「もともとテサグリなのだ。それにグラウレスタで、であったコトからかんがえても、かのうせいはひくいからな」
ピアーニャの言葉に、王妃は少し考える。
「人がいないと思っていたリージョンに、こういった隠れ住んでいる人々がいる可能性がありますね。ピアーニャ先生、後日リージョンシーカーと会議を行いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、チョウサもすすむから、ケッカはどうあれムダにはなるまい」
ピアーニャと王妃が考えたのは、リージョンシーカーと王都の兵士による各リージョンの再調査と、未発見や未開拓リージョンの調査の強化である。
アリエッタの存在がきっかけとなって、世界が大きく動く程の案件が勃発したが、もちろん当の本人には関係無い。ミューゼとパフィも、そしてネフテリアも、話についていく事は出来なかった。
王妃がボーっとしている3人に気付くと、慌てて話を戻し始める。
「ごめんなさい。今はアリエッタちゃんの方が大事ですわね」
「い、いえ。お気遣いなく……」
「王家としては個人に関わり続けるのは難しいですが、何かありましたらピアーニャ先生を通して、出来る限りの事をしましょう」
結局、話の中心人物と、最高権力者の2人が始終脱落状態で、この話の場は終わりを迎えた。
最後に王妃が、基本的な事を思い出す。
「そういえば、アリエッタちゃんの事は聞いていましたが、お互い名乗りもしていませんでしたね。わたくしはフレア・エインデル・エルトナイト。こちらで燃え尽きているガルディオの妻で、ネフテリアの母です」
「えっ、あっ、ミューゼオラ・フェリスクベルです……」
「私はパフィ・ストレヴェリーなのよ」
お互い名乗り、会釈を──
「ストレヴェリー……? えっ?」
したまま王妃が凍り付いた。
「ええっ!? もしかして、パフィさんって伝説の『食天使』の関係者!?」
「なななな、なんだとぉっ!?」
「うわ起きた!?」
つい最近聞いたような単語に、パフィがたじろぎ、王が目覚める。ピアーニャもその事を思い出す。
ラスィーテに行った時に知った、パフィの母親であるサンディ・ストレヴェリーの二つ名『食天使サンディちゃん』。その名は、城内でしっかりと語り継がれていたのだった。
「まさかあの方のご息女だったとは……」
「そうだったのか……もはや運命を感じるな」
王はしみじみと呟き、これまで涼しい顔で話していた王妃が、明らかにソワソワし始めた。そして立ち上がり、ゆっくりとパフィの傍へとやってくる。
「あの……握手してくださいませ!」
「なんでなのよ!?」
唐突な要望に、思わず王妃に対してツッコミを入れてしまうパフィ。
他の王以外の3人は目が点になっている。
「わ、わたくし『食天使サンディちゃん』にずっと憧れていまして……同年代なのにあれほどの料理を開発していらして……ラスィーテに戻られたと聞いた時は、20日程泣いていましたわ」
「長いのよ!?」
「思えばあれが初恋だったのでしょう。まさかそのご息女にこうして会えるだなんて」
「お、お母様……?」
王妃からのまさかの同性愛発言に、娘のネフテリアはちょっと引いている。姉になりたいと思っているだけで、本人の恋愛観はノーマルだった。
「ちなみに、ディオもサンディちゃんが初恋の相手でしたの。わたくし達が一緒になったのも、甘酸っぱい失恋を分かち合えたからなのです」
「そんな微妙な馴れ初め、聞きたくなかったよ!」
なんとも言えない告白に、ネフテリアが頭を抱えて絶叫。王は恥ずかしそうに顔を背けている。
一方、王族にモテモテな母を持っていた事に、心底リアクションに困るパフィ。これ以上王城にいたくないと思い始めていた。
こうして、本来アリエッタの事で真面目に話をしようとしていた王族からの招待は、暴露トークで盛り上がり続けていたのだった。
「折角だから、アリエッタちゃんを休ませるついでに、お城を案内してあげる!」
王族との話を終え、談話室から出て、もう帰ろう…と思っていた矢先、一緒に出てきたネフテリアから声がかかった。
「……えっ」
「いやあの……」
ミューゼとパフィは、もう帰って意識の無いアリエッタを正気に戻そうと思っており、ネフテリアの言葉に困惑する。
どうやって断ろうかと考える暇もなく、さらに別の所から声がかかる。
「それでは、わたくしはパフィさんを案内させていただきましょう。サンディちゃんの娘さんならば、放っておく事など出来ません。テリアはアリエッタちゃんを休ませてあげるのですよ」
「はい!」
「えっ!? ちょっと、えっ!? これはどういう事なのよぉぉ~~……」
先程までのおしとやかな雰囲気はどこへやら。王妃はパフィの腕を掴むと、嬉しそうに走り出した。パフィは王妃を振りほどく事など出来ず、困惑しながら城のどこかへと連れ去られていく。
「それじゃ、わたくし達も行きましょうか。早くアリエッタちゃんを元に戻してあげたいし」
「お、お手柔らかにお願いします……」
もう諦めるしかないと悟ったミューゼは、ピアーニャと手を繋いでいるアリエッタのもう片方の手を取り、その感触に少しだけ癒されながら、大人しくネフテリアについていく事にしたのだった。