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あら、おじ様とおば様。今日もわざわざお見舞いありがとうございます。
ふふ、元気そうにみえますか?ええ、ずいぶんと元気になったのですよ。
ほら、先日差し入れしてくださったビスケット。看護婦の皆さんにもおすそ分けしたら、とても喜んでくださいましたわ。
あの様な高価なもの差し入れて下さってありがとうございました。
菊子は幸せ者だと思っております。はい、おじ様、おば様がこうしてお見舞いに来てくださいますし、ここの方々もとてもお優しいのですもの。菊子に色々配慮してくださいますのよ。
昨日は、中庭でのお散歩を誘っていただきました。野中さんとおっしゃる看護婦さんです。色々お話しましたら、菊子より3つ年上だとわかりましたの。だから、「お姉様」とお呼びしようかなんて思ってますのよ。ふふふ。
野中さん、いえ、「お姉様」が、ここでは一番親切なんですの。
まあ!こちらを?!
キャラメルですわね!おじ様、おば様、ありがとうございます。
そうだわ、「お姉様」にも差し上げようかしら。とてもお忙しそうにしてらっしゃるもの、甘いものは、きっとお喜びになられるはずよ!
中庭を散歩しながら、食べようかしら。ああ、はしたないかしら?歩きながら物を口にするなんて!
……そうですわね、おば様。歩きながらは、確かにはしたないですわ。辞めておきますわね。お姉様がいらしたときに、この病室でお渡ししようかしら?
えっ?まあ、おじ様!大丈夫ですわよ。キャラメル一箱で十分ですわ。ご心配なさらないで。
それよりも!私も耳にしましたの!東宮様の御婚礼が行われるそうですわね!ぱれーど、という行列が見られるのかしら。ああ、菊子も拝見したいですわ。
さぞかしご立派なものなのでしょうね。東宮様と東宮妃様は、西洋の物語のように、宮城から馬車に乗られて進まれるのかしら?
沿道に立つ私共にも、手をお振りになられるのでしょうか?
ああ、とても残念だわ。直接拝見できないなんて。
そうだ!おじ様!その日は外出許可をお願いしてもらえないでしょうか?
ああやはり……。それは、無理ですか……。ですね。そうですわよね、菊子は入院している身ですもの……。
……しょげてはおりません、というと嘘になります。でも、仕方ないとわかっておりますから。
えっ?どうして、ご成婚の話を知っているのか?
ああ、おば様、実は廊下を行き交う人達が、嬉しげに話しているのが聞こえたのです。
あの恐ろしい震災の後の祝賀ですもの。皆嬉しそうに話していますわ。確かに、震災のせいでご成婚は遅れましたが、でも、なんだか私までうれしくなってしまいます。
夜は提灯行列が出るのでしょうか?手に手に持つ灯りが、ほんのりと輝いて、そうそう、皆で万歳、万歳と、声を張り上げるのでしょうね。
ああ、羨ましい。私も、せめて提灯行列に参加したかったですわ。
そうだわ!お姉様にお話をお聞きしましょう!
きっと、お姉様なら参加されるわ!
夜の提灯の美しさ、人々の賑やかさ……そうよ、お姉様なら……。
えっ?おじ様?どうされましたの?
夜が本番?
はい、提灯行列は夜のものでしょう?
はい?
「お姉様」は、お仕事?
夜が忙しくなる?
夜が……?
……夜の仕事……。
おば……様?
え?夜勤?
そう言いたかった。
ああ!そうですわね。入院患者や急患の為に、看護婦という仕事は昼も夜も尽くされてますものね。
そうだわ、お姉様は、その夜が空いているとは限りませんものね。お仕事をされているかもしれないわ。
おじ様?
どうされましたの?
……新聞?
まあ!当日の様子が載った新聞を持ってきて頂けるのですか!
ふふ、楽しみだわ!新聞ならお写真が掲載されておりますものね。
提灯行列の様子も、載っていることでしょう。
楽しみだわ!菊子、楽しみにしておりますね!