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「さて、我らも、そろそろ逃げねば……が、問題は……」
「そうですよー!仮にも、内大臣家の御屋敷に、火を放って!これが知れたら、大変なことになりますよ!」
紗奈《さな》が、血相を変え、この始末をどうするつもりだと、崇高《むねたか》を責めた。
「だからじゃ、女童子殿の、力を借りたい。と、髭モジャが、言っておったのだが?」
「えー?!髭モジャがぁーーー!!やですよーーー!!!」
紗奈は、即座に答えた。
「いやー、そこをなんとか。頼む。野次馬を、まとめて欲しいのだ」
「それは、どうゆうことでしょう?下手すれば、妹が、また、何者かに狙われるのではありませんか?」
人々を、先導し、煽れ、と、いうことだろう?と、常春は、崇高へ問いただした。
うっ、と、崇高は答えに詰まり、そういうことにもなりえるか、と、黙ってしまった。
「もう!だから、髭モジャなのよ!人のことなんだと思ってるの!って、いうより、兄様!早く、猫ちゃんに乗って!火の手がっ!!!」
ぼそぼそと、燃えていたものは、もはや、大きく広がって、屋敷の所々から、火柱が立ち上っている。
紗奈は、庭先にいるがために、どうにか、話していられるが、それでも、パチパチと弾ける音と共に、火の粉が降りかかり始めている。
「うん、確かに、危ない!しかしっ!!」
と、常春は、頑として、一の姫猫に股がろうとしない。
「空を飛ばなくても、このまま、走ったらどうなの?」
命の、危機すらありえる状態に、ひたすら、粘ろうとする兄を見た紗奈は、姫猫へ、語りかける。
が。
「できません!」
と、タマが、ハッキリ言い切った。
一の姫猫の姿は、タマの力を分けているからで、それは、紗奈がたまげた、接吻によって、成せる技らしい。つまり、力を、口移し、したという訳なのだが、その、力は、空しか飛べない。
仮に、常春を背に乗せて、歩むと、たちまち、力を失い、一の姫猫は、猫の姿に戻ってしまうらしいのだ。
「って、なんですか?それは、タマ?」
「ですから、そうゆうことなのです!上野様!!」
「わかった!どうゆうことか、さっぱりわからないけど、私が、猫ちゃんに乗る!兄様が、若に、乗って!!」
紗奈が、股がっていた若から、降りた。
「ああ……でもな、紗奈、普通に、ここから、逃げ出せばよいのではないのだろうか?なぜ、若や、一の姫猫に、乗らなければならないのだろう?目立って仕方ないなくはないか?」
あーー、ですよねーーー!
紗奈も、兄が言ったことに、納得した。
わざわざ、巨体の、牛と猫など、使わなくとも、自らの足で逃げた方が、目立たず、そして、素早く敷地外へ、出られるはずだ。
「おお、それな。それは、目印なのだ。屋敷から、飛び出してきた者は、すべて、捕らえる事になっている。だが、牛に乗った者は、身内。そのまま、通せと、張っている者達に命じておるのだ」
どさくさに紛れて、馬で逃げる者もおるだろう。しかし、牛には、誰も股がるまい。と、崇高が、これも、策なのだと言った。
はあーーー。
まあーー、どうせ、髭モジャが、考えたことでしょーー。
常春と、紗奈は、一気に力が抜けた。
「わかった。猫ちゃんはせっかく、大きくなってるし……そうだわ!!崇高様!!この後、検分するのは、崇高ですよね?」
「ああ、上手い具合に、我の、出番日の出来事。そして、偶然、見つけてしまい、とっさに、指揮を取り、そのまま、検分する、と、いうことにしておるが?」
「ならばですよ、当然、出火は、内大臣家の過失、扱いにされるのですよね?」
「いや、過失扱いにすれば、内大臣様の面子やら、後々面倒な事になる。よって、内大臣家は、賊に襲われたことにする。この屋敷にも、琵琶法師の手下が、潜り込んでいると、あれから、新《あらた》が、吐いてな。そこへ、タマが、駆け込んで来て、二人が内大臣家にいると……、慌ててやって来たのよ」
「なるほど、そして、鼻をつまんで、声色を変えたと。紗奈や、わかったか?髭モジャ殿は、賊の仲間のふりをして、火を放つ様に煽ったのだよ」
「えー、唐下がりの香から、逃げる為じゃなかったんだ!」
今度は、常春と崇高が、肩を竦めた。
とはいえ、こんな悠長なことをやっている場合ではない。
火の勢いは、さらに大きくなっている。
「なんじゃ!!!お前らっ!!!まだ、逃げておらなんだのかっ!!!」
庭づたいに、髭モジャが、西門方向からやって来た。
「崇高よ、裏方は、ほとんど、正気を失い、おかしくなっておる。ワシ一人では、どうにもならん。西門に控えさせていた、検非違使達を、使ったぞ!」
皆には、賊に教われ、火を放たれたがために、動揺仕切ってこうなっていると、言いくるめ、外へ担ぎ出した。
経緯を語る髭モジャの衣には、小さな焼け焦げが幾つもできていた。
「皆、西門から、出ろ!正門へいくには、火の手が上がりすぎている!こっちじゃ!」
誘導する髭モジャに、紗奈が待って!!!と、叫んだ。
「いいこと思いついたの!!」
さっと、一の姫猫に股がると、
「猫ちゃん!タマをくわえて!そして、飛ぶのよ!!」
言われて、姫猫は、ニャーと鳴くと、タマをくわえて、たん、と、地面を蹴った。