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「エスカミオ政府は、新政府エンドア帝国を承認すること」
「東エンドア会社の株式、五一パーセントを
カルド商会へ譲渡すること」
「さらに――」
「ウォーレン・ヘースティングズ、
ジョブ・チャーノック
両名は経営から退き、以後一切関与しないこと」
あまりにも一方的な条件だった。
だが――
チャーノックとエスカミオ政府は、
それを受け入れた。
迷いは、ほとんどなかった。
それだけ、追い詰められていたのだ。
反乱は終結した。
新生エンドア帝国は、ナーナー国王と宰相トーペーのもとに樹立され、
各地の藩王国も次々と復活していった。
ラクシュミーはジャンシーの新王とともに帰還する。
戦いは終わった。
――だが、カルドにはまだ仕事が残っていた。
東エンドア会社の“解体”である。
「親分、接収した食料、どうします?」
「戦争の迷惑料だ。全部配っちまえ」
「……それ、商売なんすか?」
カルドは笑った。
「商売なんだよ。配っちまえ」
戦争と飢饉で疲弊した民衆のあいだで、噂が広がる。
――エスカミオ人のバロン・カルドのもとへ行けば、食料が手に入る。
各地で暴動はなお続いていた。
だが一部の港町では、カルド商会を守るための自警団まで組織されたという。
「俺たちはな、儲けて税金を払う側の人間なんだよ」
「……なんで税金で金儲けするんだよ、おかしいだろ」
カルドは徴税システムそのものを、
人員ごと新政府へ譲り渡した。
「奴隷? なんでそんな効率の悪いことやってんだよ」
「お前、自分が奴隷だったら、
“今日も頑張ろう”なんて思えるか?」
「全部、証文燃やせ」
「仕事をあっせんして、住む場所を用意して、
家賃取れ。それで回る」
カルドは少し考え込み――
「……知らないだけか」
と呟いた。
宰相トーペーは、その様子を黙って見ていた。
(言っていることは無茶苦茶だが……)
(やっていることは、すべて理にかなっている)
ある日、珍しくカルドのほうから訪ねてきた。
「学校が作りたい」
トーペーは即座に首を振る。
「まだ復興の途中だ。金がない」
カルドは肩をすくめた。
「金か?」
そして、いつもの調子で言った。
「金はな――稼いで回すもんだ」
「蔵にためとくもんじゃねえよ」
すべてのカルド商会のそばに、
読み書きと計算を教える小さな学校が設けられた。
子供たちだけではない。
近所の主婦や港湾の労働者たちも、真剣な目で机に向かう。
やがて学校は夜間も開かれるようになった。
ときおり――
「カルド先生の特別講座」が開かれるらしい。
ある日。
一通の封筒に、カルドは目をとめた。
そして――
大きく目を見開いた。
「……大変だ!」
二階から駆け下りる。
「客が来る!」
「すぐに準備しろ!」
その日から、カルドは落ち着きを失った。
当日。
カルドは、かなり前から玄関口に立っていた。
隣には、港町時代からの古参、ジミー。
「なにも、こんな早くから待たなくても――」
「うるせえ。嫌なら帰れ」
「そんなこと言ってねえですよ……」
「――来た!」
遠くから、馬車が近づいてくる。
見覚えのある紋章の旗。
やがて止まり――
一人の少年が、二人の大人を従えて降りてきた。
「見えねえな。何が見える?」
カルドは目に涙を浮かべ
声は、わずかに震えていた。
ジミーは目を細める。
「あっし、あの丘の屋敷に何度か行ったことがありやす」
「あの方、普段はむっとして怖え顔なんですが――」
「笑うと、なかなか愛嬌がありましてね」
「……ほら、目元なんて、そっくりだ」
少年は、まっすぐ歩いてくる。
そして、丁寧に一礼した。
「はじめまして。リチャードと申します」
「カルド男爵にお会いできて光栄です」
「本日は母の言いつけで、父の手紙をお届けに参りました」
カルドは、しばらく言葉を失った。
それから、ようやく口を開く。
「……遠路、大変でしたな」
「おいくつになられました?」
「十一になりました」
カルドは、かすかに笑った。
「そうですか」
「私があなたのお父上に初めてお会いしたのも――」
「同じ十一のときでした」
「海の見える港の丘で」
「……どうぞ、中へ」
カルドは、涙を拭こうともしなかった。