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「私のやっていることを早急に理解し、己を差し出すその姿に敬服してやる」
「喜んで自分を差し出したつもりは、毛頭ありません」
「聡いおまえを使ってやろうと思っていたのに、その態度はいただけないじゃないか」
創造主の口調で、なぜだか牧野を思い出し、高橋の表情がますます気難しいものになった。
「頭の中に浮かんだ男のことが、そんなに憎いのか?」
「憎いですよ。それこそ、死んでしまえばいいのにと思うくらいに。俺をここに連れてくる力があるのなら、アイツを殺すなんて造作のないことなんでしょうね」
思考を読まれたのをきっかけに、創造主が牧野を殺してくれないだろうかと、さりげなく自分の希望を伝えた。
「ふふっ。残念ながら、あの男は殺さない」
弾んだ声で告げたのは、自分を苛立たせるためなのか。あるいはお楽しみはあとに取っておくという意味で笑ったのか、高橋は理解に苦しんだ。
「後者だ。おまえをこれ以上、虐めるつもりはない」
「アイツがお楽しみって、どこら辺が楽しいんですか?」
「牧野という男が、悪事に手を染めれば染めるほどに、彼奴の持つ魂がどんどん穢れたものになるであろう。そうなれば私の仕事は、自動的に減ることになるのだよ。死んだときに地獄に向かって、真っ逆さまに落ちていくのだから」
(それって、適度に悪いことをしていた俺は、中途半端なタイミングで死にかけたから、ここに連れてこられたっていうのか?)
「おまえも生き長らえていたら、同じく地獄に落ちていたであろうな。彼奴の悪事に加担している罪は、大きいものになる」
「ここに連れて来られて良かったです。それで、俺は何をすればいいのでしょうか?」
憎らしい牧野のことで盛り上がるのが嫌だったので、さっさと話をぶった切ってやった。
「夢の番人になって、善人が見ている悪夢を消し去るのがおまえの仕事だ」
「夢の番人?」
聞き慣れない言葉に、高橋は唖然とした。
「覚えはないか? 悪夢を見ている最中に、ハッと目覚めることがあるだろう?」
「あります。危ないところで、目が覚めてしまう感じというか」
「おまえがまだ善人だった頃に、夢の番人がその夢を断ち切って助けたから、目が覚めたのだ」
告げられた言葉を理解するのに、暫しの時間を有した。夢の番人は、善人の悪夢を消し去るのが仕事――悪夢を消し去ることで、善人を助けるとは、どういうことなのだろうか? 一般的には悪夢を見ることによって、日頃の脳の疲れをとると言われてるのに。
「人の体の作りはそうなのかもしれないが、悪夢を見ることによって魂が穢れ、善人でいられなくなる。それを防ぐのに夢の番人を使わせて、悪夢をなきものにしているのだ」
思考を読んで補足した創造主に、高橋は首を傾げた。
「善人が多いと、創造主様の仕事が増えるのでは?」
「何を言い出すかと思えば……今頃私に『様』をつけて持ち上げても、おまえの立場は良くならんぞ」
高橋の質問を無視するなり、ふたたび笑い出す。
「わかりましたよ、その夢の番人とやらになってやります!」
「素直で宜しい。ではおまえが望む姿形にしてやろうか。背が高く、顔立ちは――ふむ、この男に似た者にしてみるか」
救世主が独り言を呟くなり、目の前にある月から眩いばかりの光を浴びせられた。目をぎゅっと閉じて、何とかそれをやり過ごす。目を閉じても浴びせられる明るさがわかるくらい、鬱陶しい眩しさだった。