テラーノベル
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最近、涼ちゃんの様子がおかしい。
最初はただの疲れだと思ってた。
ライブも続いてたし、収録も多かったし、
まあ誰でも一回くらいは落ちるだろみたいな。
でも——違った。
遅刻はしないし、仕事も来る。
やることは全部ちゃんとやる。
ただ、その全部が“空っぽ”になってる。
音楽も、笑いも、会話も。
ちゃんとしてるのに、
中身だけどっか抜け落ちてる感じ
長く一緒にいると、そういうのは嫌でも分かる。
元貴も気づいてる。
でもあいつはあいつで、変に空気壊さないようにしてるっぽい。
俺も——正直、どうしていいか分かんなかった。
⸻
決定的だったのは、あの日。
リハ終わりで、誰もいないスタジオに戻ったとき。
涼ちゃんが、ソファに座ってた。
電気もつけずに。
スマホも見てなくて、ただぼーっと前見てるだけ。
「……何してんの」
って声かけたら、
「んー、分かんない」
って返ってきた。
ああ、これやばいなって思った。
それから何回か、タイミング見て声かけたけど。
全部、同じだった。
「大丈夫」
「平気」
「なんでもない」
——全部、壁。
しかも柔らかい壁じゃない。
押してもびくともしないやつ。
⸻
元貴は元貴で、空気変えようとしてる。
わざと明るくしたり、話振ったり。
でも涼ちゃんは、ちゃんと乗る。
ちゃんと笑う。
ちゃんと返す。
だから余計に、厄介だった。
外から見たら“いつも通り”だから。
でも中身は、多分どんどん沈んでる。
⸻
正直、焦った。
このままじゃ本当にいなくなるんじゃないかって。
物理的にとかじゃなくて。
“涼ちゃん”が消える感じ。
⸻
でも——
何しても、変わらなかった。
隣に座っても、
帰り誘っても、
どうでもいい話振っても、
全部、表面だけ。
それ以上、絶対に入らせない。
⸻
ある日、帰り道。
「送るわ」って言ったら、
「いい、一人で帰れる」
って、珍しくはっきり断られた。
その言い方が、妙に距離あって。
ああ、これもうダメなとこまで行ってるなって思った。
⸻
それでも、放っとく気はなかった。
何もしないのは、一番ダメな気がしたから。
でも、無理にこじ開けるのも違う。
下手に触ったら、完全に閉じる。
だから——
何も変えないことにした。
距離も、態度も、全部そのまま。
ただ、
“いなくならない”だけ。
⸻
話しかけても、返事が薄い日もある。
目も合わない日もある。
隣に座っても、少しだけ距離取られる時もある。
それでも、やめなかった。
⸻
多分、意味ない。
今のところは、全部意味ない。
何も変わってない。
涼ちゃんは相変わらず沈んでるし、
戻る気配もない。
⸻
でも、それでいいと思った。
ここで諦めたら、
あいつ本当に一人になる。
⸻
ある日。
スタジオで、ふと横見たら。
涼ちゃんが、ほんの一瞬だけ、
こっち見てた。
すぐ逸らされたけど。
⸻
それだけ。
たったそれだけ。
でも、多分あれが限界だったんだと思う。
今の涼ちゃんの。
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だから、焦るのやめた。
引っ張り上げるのもやめた。
どうせ無理だし。
⸻
その代わり、
沈んでるなら、その近くにいる。
底まで落ちるなら、
見える位置にい続ける。
⸻
助けるとかじゃない。
そんな大したことできない。
ただ、
完全に見えなくなる前に、
そこにいるって分かる位置にいるだけ。
⸻
「若井」
久しぶりに、名前呼ばれた。
それだけで少し驚く。
「ん?」
振り返ると、
涼ちゃんが少しだけ迷った顔してた。
でも結局、
「……なんでもない」
って、いつも通り引っ込める。
⸻
それでもいい。
今は、それでいい。
⸻
簡単に開かないのは分かってる。
時間かかるのも分かってる。
もしかしたら、このままかもしれない。
⸻
それでも、
閉じきるまでは、
こっちが諦めなきゃいいだけだろ。
⸻
別に救うつもりもないし、
変えるつもりもない。
⸻
ただ、
いなくなるなよって、
それだけ思ってる。
#病み
蓬川
コメント
1件
わぁ〜い新連載ありがとうございます💗