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第二十二章 溶けないもん
「ねぇ走っちゃダメだって……」
自動ドアの前で立ち止まる。
手を広げて振ってみる。見えてる?
オレノコト――
「何してるの?ふふっ自動ドアに挨拶?」
蓮が横に並んで扉が開いた。
蓮の肘を掴んで後ろから、連れられるように歩いた。
飲み物の棚に反射する姿が怖くて下を俯いて歩いた。
深夜のコンビニは人がまばらで、アイスが並んだ冷凍庫に頭半分突っ込んで……「翔太やめなさい」と言われれば、それが返って嬉しくって、ついついわざとらしく振る舞った。
「だって……一応ね溶けてないか確認」
「俺がちゃんと仕舞うって言ったでしょ」
背中をぽん、と軽く叩かれて、素直に一歩下がる。
寒そうに並んだアイスたちは、全部美味しそうで、どれを選べばいいのか分からなくなった。
「いつも何食べてたの?」
「……買ってたけど、ひとりだと、なんか違くて」
「そっか」
それ以上、蓮は聞かなかった。
俺の代わりみたいに冷凍ケースを覗き込んで、俺が好きな2種類のアイスを掴んだ。
「じゃあ今日は、二人分ね」
「……うん」
カゴに入れられたアイスが二つ。それだけで胸の奥が、じんとする。レジに向かう途中、袖の長い上着の中で、蓮の指が俺の手を探した。絡めるでもなく、ただ触れているだけ。
「離れないでね」
「迷子じゃないもん」
「じゃあ、俺が迷子にならないように……ねっ?」
そんなことを言って、指に少し力が入る。
会計を済ませて外に出ると、夜の空気が静かに待っていたみたいに広がっていた。
コンビニの灯りが背中に遠ざかっていく。
「ちゃんと溶けてない」
「うん、合格」
袋を揺らさないように気をつけながら歩く。
この道を、また一緒に歩けるなんて思ってなかった。
だから、何度も確かめるみたいに、
袖の中の手を、ぎゅっと握り返した。
「小走りは?いい?」
「そんなにすぐには溶けないよ?」
月明かりに照らされて短い影が並んだ。
「影が二つだね……アイスも二人分」
「可愛いこと言わないの///やっぱり小走りで帰ろう」
走るなって言ったのに変なやつ……首を傾げる俺の耳元に唇を近づけた蓮は
「溶けちゃう前に早く、翔太は新鮮なうちに食べなきゃね」
「俺は食いもんじゃないぞ、溶けないもん……無くならないもん」
〝無くならない〟
世界が俺を拒もうとも、俺はずっと蓮の隣に――
蓮 side
袖の中で握り返してくる手が、思っていたより軽い。
指先が離れそうになるたび、翔太くんの方から、また絡め直してくる。
風に煽られないように、さりげなく肩を抱き寄せた。
袋の中でアイスが触れ合って、小さく音を立てる。
「走らなくていいよ。溶けないから」
「……うん」
そう返事はするのに、翔太くんは歩幅を少しだけ速める。
「……でも、やっぱり早く帰りたい」
そう小さく言って、肩に額を擦り寄せてきて、息を吸った。
手の温度が逃げないように、指を絡めた。逃がさないみたいな力じゃなくて、確かめるみたいな触れ方だった。
隣にいる。
ちゃんと重みがある。
それでも何度でも確かめたくなる。
街灯に照らされた横顔は、どこか透明で、触れていないと消えてしまいそうだった。
「ねぇ翔太くん」
「なに?」
「明日の朝ごはん、約束だからね」
「……うん」
「アイス、冷凍庫の一番奥に仕舞おう」
「忘れない?」
「忘れないよ。君がいることと同じくらい。
起きたら、最初に顔見せて」
小さく息を呑む気配が伝わる。
握った手に、ほんの少し力が戻った。
マンションの灯りが見えてくる。
さっき開かなかった自動ドアの前で、翔太くんが一瞬だけ立ち止まった。
今度は何も言わずに、俺の腕に体重を預けて、指先でシャツの裾を掴んだ。
自動ドアは、静かに開いた。
――ちゃんと、ここにいる。
バルコニーに出てアイスを頬張った。わざとゆっくり食べていると、いつものように翔太が小さな口を目一杯開けた。
「ん」
溶け始めたアイスを差し出すと、
翔太くんは一口かじって、悪戯っぽく笑った。
「半分こね」
そう言って、俺の方を見上げた。
「あっ!蓮流れ星!」
そう言って、もう一口、俺のアイスを狙ってきた。
「ひどいよ翔太……信頼を失いそうだ」
「油断してるからだよ」なんて笑いながら、寒そうに肩を窄めて風に靡く横髪を、耳にかけながら艶っぽく微笑んだ。
「今夜も月が綺麗ですね」
なんて言いながら、口に含んだアイスを口移しすると、うっとりと見つめ返した翔太は踵を上げた。
「月の光を辿ってどこへでも会いにいくよ」
なんちゃって――
青黒い瞳が揺れている。〝なんちゃって〟と言いながら真っ直ぐ見つめる君の瞳に、俺は返す言葉がなかった。
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ふわふわと実体のないしょぴが可愛くて健気で、でも不確かで悲しいから、早く🖤帰国しないかなぁ