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それから一週間後。「今日、花火大会だよ」
湊が言ったとき、遥は思わず笑った。
幽霊が花火を楽しむなんて、と。
しかし、湊は真剣な顔で続けた。
「一緒に行こう。…見せたい景色があるんだ」
浴衣に着替え、川沿いの道を歩く。
屋台の提灯が揺れ、綿菓子の甘い匂いと焼きそばの香ばしさが混じる。
不思議なことに、湊の姿は遥にしか見えないらしく、すれ違う人は誰も気づかない。
「こういう賑やかなの、久しぶりだな」
湊は笑ったが、その笑みは少し寂しげだった。
やがて空に一発目の花火が咲く。
その光に照らされるたび、湊の輪郭はかすかに揺らぐ。
「花火って、一瞬で消えるだろう。だから、惹かれるんだ」
湊の目は夜空に向けられていたが、その声は遥の胸の奥に突き刺さった。
終盤、大きな花火が夜空いっぱいに広がった瞬間、湊がぽつりと言う。
「もし、生きてたら…君の手を握ってたかもな」
その言葉は花火の轟音にかき消されそうだったが、遥の心には、はっきりと残った。