こうしてここに立っているとキミのことを何度でも思い出せる。
楽しかったこと、笑ったこと、辛かったこと、全部全部。
それもキミといたから。あの夏にキミと出会えたから。
その全ての綺麗な思い出を胸に、
私は静かに水面へと入っていった___
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
余命宣告の三年前の真夏の日、私はキミと出会った。
最初は海辺だったよね。
私が親の束縛が辛くて海に身を投げようとした時、キミが止めてくれた。
それからたくさん話して、仲良くなったよね。
夏休みの特別な思い出。
今思えばあれは一目惚れだったんだと思う。
思い出を綺麗にするためのラッピングじゃないよ、笑
本当にそうだったの。
優しくて、かっこよくて。そんなキミをいつの間にか好きになっていた。
でも認めたくなかった。
今まで綺麗にしてきた自分の身を汚しているようで。
あの時、親に全ての主導権を握られていた私は恋をすることすら許されなかった。
文化祭の時はハラハラしたよ、キミが私を連れて一緒に回るって言うんだから。
お母さんに分かってしまわないか緊張してた。
でも、それ以上に良い思い出だったと思う。
お母さんにバレそうになった時、2人で抜け駆けして、この場所に来ただよね。
なんか面白くって、笑っちゃった。
最初の思い出はそれだった。
キミと出会って初めてのバレンタイン。
キミが他の子にあげた、って言う変な噂が広まって私、絶望の底に落とされてた気がする。
その時、自分が初めて人を好きになった、ってやっと分かって。
キミに想いを伝えたくて、急いでキミをこの場所に呼んで、気持ちを届けた。
そしたら両思いなんだからびっくりしたよ。
一方的な恋心とばかり思っていた。
それから私たちは付き合った。
静かな恋だった。ただひたすらに純愛なの。
ロマンティックさにも程があるって?
そうよね、私もびっくりしちゃう。
でも、本当にそうだったの。
高ニは1番楽しかったかもしれない。
夏休みにこの場所で何度も話をした。
飽きることなんてなかった。
夕方になるまでいくらでも話せた。
ほんの少しの間もなかった。2人とも話したいことがたくさんあった。
夏休みが終わってもその熱は冷めなかった。
9月は2人で綺麗な月を見たよね、この場所で。
月のアイボリーの色は今でも覚えてる。
綺麗だったよねぇ、
黒い空にぽっかり浮かんだ月が、とっても綺麗だった。
私たちも、黒い空と月と同じように、離れられない存在なのかもしれない。
でもそれも長くは持たなかった。
お母さんが気づいてしまったの。
それからどうしようか、って。
話し合った結果、私たちは駆け落ちすることにした。
とんでもない非行だけど、それでよかった。
あなたと居れるなら、なんでもよかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私たちは若くして結婚した。
キミの親にサインをもらって、結婚できた。
これで愛し合える、そう思えたのも束の間。
キミが、余命宣告を受けた。余命二ヶ月。
辛かった。
せっかくキミとこうしていられるのに。
どうしてだろう。
私、何か悪いことしたの?
ただ好きな人と幸せでいたい。私はそれすらも叶わないの?
神様なんて、いないのかもしれない。
本気でそう思った。
余命宣告を受けた後の思い出は、もう
二ヶ月後、キミは亡くなった。
どうして?どうして神様はこんなに私の幸せを取ろうとするの?
好きな人と愛し合いたい。それは普通のことでしょ?
誰もがそう思ってる。でもなんで私だけ?
キミがいなきゃ何にもできない。仕事も手につかない。
なんでいなくなったの?やめてよ、なんで?
どうして…
彼がいないなら、私は…
そう思った。
だから…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私はこうして、ここに立っている。
ありがとう、亜凪。
あなたのお陰で素晴らしい人生を送れた。
今から会いに行くよ。
亜凪。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!