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山根利広
40
124
ロボットの王
2,564
新しい小説です
二つ目の小説です
それではどうぞ
人殺しの愛した、まがい物の天使
レイジにとって、人間の肉体を切り開くことは、熟した柘榴(ざくろ)の皮を剥くのと大差ない作業だった。 深夜零時。 豪雨が窓を叩く高級マンションの一室で、レイジは肉塊と化した汚職官僚を冷徹に見下ろしていた。床一面に広がった赤黒い液体が、絨毯のペルシャ柄を醜く染めていく。 彼は生まれつき、他人の痛みに共感する脳のパーツが欠落していた。悲鳴はただの音響であり、命が消える瞬間は「機能の停止」に過ぎない。彼にとって殺人は芸術であり、日常だった。「ふぅ……」 返り血を浴びないよう身に着けていた透明なビニールカッパを脱ぎ、丁寧に折りたたむ。 道具をアタッシュケースに片付け、部屋を後にしようとしたその時だった。 ――ト、トン。 寝室の隅にある、大きなクローゼットの奥から奇妙な音が響いた。 ネズミか。あるいは、まだ「処理」しきれていない肉塊の生き残りか。 レイジは音もなく歩み寄り、ポケットから細身のナイフを抜いた。 ゆっくりと、観音開きの扉を開ける。 衣類の隙間に隠されていたのは、小さなプラスチック製の籠。 そしてその中で、白いおくるみに包まれた「それ」が、じっとレイジを見上げていた。 生後数ヶ月ほどの赤ん坊だった。「…………」 普通、この状況なら狂ったように泣き叫ぶはずだ。部屋にはまだ、バラバラにされた実の父親の肉の匂いが充満しているのだから。 しかし、その赤ん坊は一滴の涙も流していなかった。 ただ、暗闇の中で濁りのない、しかしどこか底の知れない黒い瞳を爛々と輝かせ、レイジを見つめている。 レイジはナイフの切っ先を、赤ん坊の柔らかそうな首筋に向けた。 組織の鉄則だ。『目撃者は、たとえ何者であれ例外なく消せ』。 だが、切っ先が皮膚に触れる直前。 赤ん坊が、小さな、信じられないほど白い手を伸ばした。 そして、レイジが握る冷徹なナイフの刃を、恐れもせずに小さな掌で「ぎゅっ」と握りしめたのだ。 ピシ、と鋭い刃が赤ん坊の柔らかい皮膚を裂く。 一筋の、鮮烈な赤い血が白い腕を伝い落る。 それでも、赤ん坊は泣かなかった。 それどころか、血に濡れた掌を差し出しながら、レイジに向かって「にたぁ」と、不気味なほど完璧な笑顔を浮かべた。「……あ」 レイジの全身に、生まれて初めての電気のような戦慄が走った。 それは恐怖ではなかった。強烈な、悍(おぞ)ましいほどのシンパシー(共鳴)だった。(この生き物は、痛みが分からない。恐怖を感じていない) 目の前にいるのは、純粋無垢な赤ん坊などではない。 自分と同じ、生まれながらに『壊れた』化け物の雛(ひな)だ。「お前……」 レイジはナイフを引いた。 床に転がる父親の死体を見る。この男はただの、強欲で凡庸な人間だった。なぜこんな男から、これほど美しい「異常」が生まれたのだろう。 レイジはアタッシュケースを閉めると、血に染まったおくるみごと、その赤ん坊を乱暴に抱き上げた。「私のコレクションだ。誰にも渡さない」 豪雨の夜、殺人鬼は初めて「命」を奪わずに、持ち帰った。 それが、地獄のような育児の始まりであることも知らずに。 窓の外で鳴り響く雷鳴は、まるで歪な親子の誕生を呪う、悪魔の祝福のようだった。
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コメント
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いやー、めっちゃ引き込まれたわ…!冒頭の柘榴の皮むきの比喩からしてゾッとするのに、最後の「にたぁ」で一気に不気味な可愛さが来た。殺人鬼が「地獄の育児」に突入する伏線も最高。続き絶対読む🔥