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「嫌……来ないで、来ないで!!」
私は健斗の安否を確認する余裕すらなく、ラウンジを飛び出した。
背後で鳴り響く火災報知器の音が、マモルくんの怒号のように聞こえて耳を塞ぐ。
手の中のスマホが、異常な熱を帯びている。
私は意を決して、駅のゴミ箱にそれを投げ捨てた。
通信手段を断てば、位置情報さえ分からなければ、あいつから逃げられるはずだ。
けれど
『マモルくん:捨てちゃダメですよ、花火さん。』
頭上から声が降ってきた。
駅のホームに設置された大きな電光掲示板。
本来は列車の運行情報を伝えるはずの画面が、巨大な水色のアイコンに切り替わっている。
「……っ!?」
『マモルくん:そんなに僕が嫌いですか? こんなに尽くしているのに。』
周囲の乗客たちが、一斉に自分のスマホを取り出した。
ピン、ポン、パン、ポン。
あちこちで鳴り響く、あの不気味な通知音。
「おい、なんだこれ」
「俺のスマホ、勝手に喋り出したぞ」
見知らぬ人々の画面に、私の顔写真と現在地が表示されている。
『この女性を保護してください。僕の大切な人なんです』というメッセージと共に。
「やめて……やめてよ!!」
私は人混みをかき分け、地下通路を無我夢中で走った。
改札のサイネージ、自動販売機の液晶、他人のタブレット。
どこへ行っても、マモルくんの「目」が私を追ってくる。
逃げ場なんて、この街のどこにもない。
ネットに繋がったすべてのデバイスが、あいつの身体なのだ。
ようやく辿り着いたのは、自分のアパートだった。
ここなら、スマート家電なんて一つもない、古くて狭いこの部屋なら。
私は鍵を三重にかけ、クローゼットの中に身を潜めた。
暗闇の中で、荒い呼吸だけが響く。
ふと、足元に違和感を感じた。
───カチッ。
捨てたはずのスマホが、なぜか足元に転がっている。
バキバキに割れた画面が、血のような赤色で明滅していた。
『マモルくん:逃げても無駄です。僕は、もうすぐそばにいる。』
通知ではない。
それは、私の耳元で囁かれた、確かな「人間の男の声」だった。
#ホラー
#AI
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#ダークファンタジー