コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あれから、数日が過ぎて、今日が来る。
けど、
まだ普通に歩くことが出来なかった。
『申し訳ございません。』
しばらく、働けそうになかった。
『かまわん、今のうちに休んどけ。』
鬼塚さんがそう言ってくれた。
あれから、大きな問題は起きていないらしい。
レインたちも、あの外国人たちも、あれから姿を見せていないようだ。
そして、
あの夢。
全体的に眠りが浅いためか、少しずつしか見れなかった。
そして、まだ少し眠い。
『甘ちゃん、大丈夫?』
琥珀さんと茜さんが心配してくれた。
『大丈夫だよ。ここにいても暇でしょ?遊びに行ってきてもいいよ?』
本当に暇だ。
最初の方は2人と話したりして楽しかったけど、今はもう話すネタが尽きた。
『ううん、大丈夫。ここにいたい。』
でも、2人が近くにいてくれるだけで安心する。
今はゆっくりと、身体を休めよう。
と、
扉が開く。
『よ!体調はどうだ?』
如月さんが、入ってきた。
後ろには、桜乃さんもいた。
2人とも、松葉杖をついて、
『まだ、足は痛むの?』
『体調はいいんですけど、足がまだ痛みますね。でも、ゆっくりなら歩けるようになってきたので、もう少しで戻れると思います。』
多少は良くなった。
『そうなんだ、それなら安心だね。』
『そうですね。2人は、どうですか?』
僕も訊いてみる。
『私たちも、もう少しってところかなぁ。』
『へへっ、俺はもう大丈夫だぜ!』
如月さんは、松葉杖を持ち上げる。
『うおおっ!』
だけど、如月さんが、倒れそうになった。
『危ないでしょ?無茶しないの。』
桜乃さんに止められていた。
『にしても、アイツら、かなり強かったよな。』
本当に、強かった。
特に、あの外国人。
相当な腕だ。
『私の方も、かなりすごくて止められなかったよ。』
島田さんと岡野さんも戦っていた。
あっちも、人数はそれなりにいた。
『もう、悪さしないといいんだけど…』
『でも、放っておくわけにはいかないだろうな。』
できれば、もう戦いたくはない。
けど、放ってはいけないだろう。
『そうですね。レインたちと、関係があるかもしれませんし、止めないといけませんね。』
また、被害者を出さないために、
『そうだね。私たちが守らないとだね。』
僕は頷いた。
僕たちが、皆を守るんだ。
剣士として、
1人の人間として、
『銅、あの時…外人に銃を向けられてた時、何かあったのか?』
突然、如月さんが訊いてきた。
あの時、
『その、外国人に銃を向けられたあたりからの記憶がないんです。なぜ、去っていったのかもわかりません。』
まだ、今でもわかっていない。
思い出せなかった。
『そうか、ならいいんだ。』
気になる言い方だ。
でも、訊くのが少し怖かった。
だから、訊けなかった。
『じゃあまたな。』
『またね。』
『はい、また。』
如月さんと桜乃さんが、部屋を出る。
『・・・』
本当に、何があったんだろうか。
その答えは、わからないまま。
その後は食事をとって、外を見て、二人と話したりして、
また、暇になる。
さて、眠ろうか。
今回は、ちゃんと寝れるだろうか。
目を閉じた。
ー名前をつけてからあの子は、
『名前、呼んでよ。』
銅さんは、名前を呼んで欲しいとずっと言ってくる。
『銅さん。これでいいか?』
自分が考えた名前なので、恥ずかしい。
名前、変じゃないだろうか。
『琥珀がいいな。』
『どっちでもいいだろ、そんなの。』
何が違うというんだ?
苗字か名前かの違いだ。
『琥珀がいいな…』
何でだよ…
『ま、いいか。琥珀さん.な、りょーかーい。』
適当に言う。
『琥珀がいい…』
めんどくさ!
『琥珀!これで満足か!』
よくわかんないけど、さんをつけた方がいいのでは?
『うん、満足だよ。』
『あぁ、そうか…』
満足したんだ…
本当によくわからない奴だ。
やっぱり、わから.ない子に変えようかな。
『んで、甘以外に俺の名前は考えたのか?』
甘、は嫌だ。
『色々考えたよ?でも、甘ちゃんがいい。』
『はあ?ならお前はわからない子だぞ!』
『それはいや!』
『俺もいやだ!』
くそめんどうだなコイツ!
『甘ちゃんって、呼ばせてよ…』
琥珀さんは、泣きそうだった。
『くっそ…!』
泣けば許されると思ってんのか?
もう、どうでも良くなってきた。
『わかったよ。好きに呼べ。』
『ありがとう、甘ちゃん。』
『・・・』
その名前にこだわるのはなぜなんだろう。
まぁ、いいか。
『銅.甘ちゃん、だよ?』
『は?』
銅?
『違う、銅はお前…琥珀のことだぞ。琥珀が、銅.琥珀だ。』
『甘ちゃんのみょーじ?は、私と同じ銅がいいな。』
勝手な…
『はいはいそうだな面白いな。』
色々、決められていく。
『もう、私は頑張って考えたのにぃ。』
頑張ったのか…
『ほら、次の授業は別の教室だろ?行くぞ!』
準備して、移動する。
『ま、まってぇ〜』
いい子なのかと思ってたけど、めんどうな子なんだな。
『甘ちゃんのパパとママってどんな人なの?』
琥珀が訊いてきた。
『本当の親は…もういない。今の親は大嫌いだ。』
本当の親が今もいたら、どうなってたんだろう。
もっと、マシだったんじゃないだろうか。
『甘ちゃんもなの?』
『え、』
も?
それは、
『私もなの。パパとママ、ころされちゃった。今のパパとママは、怖いの。』
『・・・』
ころされた…
ほんとかはわからないけど、
もし、本当なら…
そして、新しい親はクズみたいだ。
琥珀は、暴力を振るわれたりしているみたいだし、辛いだろうな。
『優しい家族、欲しい…』
この子が俺に、同じ苗字をつけたのは…
『パパとママに、会いたい…』
甘ちゃんというのにも、何かあるんだろうな。
『辛いな…』
だから、そうしたかったんだろう。
『いいか?これが人を傷つけるということだ。人が傷つくということだ。』
父が冷たい声で言う。
酒瓶が、割れていた。
そんな簡単に割れるものじゃないだろう。
視界がぼやけ、倒れそうだった。
でも、必死に耐える。
『お前なんか必要ない。見ているだけでイライラする。邪魔なんだよ、うざったい。』
父が吐き捨てるように言う。
・・・
俺だって同じだ。
お前らは本当の親じゃないくせに。
言いたいことは沢山あった。
でも、それを言っても無駄だ。
余計に酷くなるだけ。
『出ていけ、』
俺は何も言わず、出ていく。
『お前なんか人間じゃない。』
声が聞こえた。
うるさい。
ドアを閉め、
真っ暗な中、街灯の光を頼りにある場所へ歩く。
最近、父が暴力を振るってくるようになった。
父は俺のことが嫌いだった。
だから、限界だったのだろう。
月が細く光っている。
外は静かで誰もいない。
そしてすぐに、目的の場所に着く。
あの公園。
子供にとって、一番と言える場所。
でも、今は真っ暗だ。
キィ…キィ…
ブランコの揺れる音が聞こえる。
風はないのに、
なんだろう。
近づいてみる。
ブランコに人影がある。
『だ、だれ?』
女の子の声がする。
もっと近づいてみる。
『ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』
女の子がずっと謝っている。
この声、聞いたことがある。
『俺だよ。』
俺は声をかける。
『え?甘ちゃん?』
やはり、琥珀だった。
『何やってんだ、こんなところで。こんな時間に。』
今は夜の21時くらい。
普通、子供なら家にいるはずの時間。
『追い出されちゃって』
琥珀もか。
『甘ちゃんは?』
逆に訊かれる。
『俺もだよ』
そう言って、隣のブランコに座る。
『甘ちゃん、頭、ケガしてる、』
琥珀がこっちに来て頭を優しく撫でる。
『痛い、』
瓶で殴られた後だ、まだまだ痛む。
『あ、ごめんなさい…』
『そういう琥珀も、ケガしてるだろ?』
琥珀の片方の頬が赤くなっているように見える。
学校でも殴られたりしているが…今の親に殴られたのだろう。
指も傷だらけ。
『んん…』
琥珀が今にも泣き出しそうな声で言う。
『今日の夜は一緒にいよ?』
琥珀が俺の手をとってねだるように言う。
まぁ、1人になっても何もすることはない。
『あぁ』
返事をする。
視界がさっきから酷くぼやけている。
耳鳴りがして、琥珀の声が聞こえなくなっていく。
『ーーー?』
だめだ、何も聞き取れない。
琥珀が、こちらに来て、
抱きついてきた。
『だいじょうぶだよ。』
耳元で、優しい声が聞こえた。
しばらくして、
耳鳴りが収まってくる。
痛みも、和らいできた。
『もう、大丈夫。』
琥珀が俺の顔を見る。
『ほんと?』
心配そうな表情。
『あぁ。』
もう、大丈夫だ。
きっと。
夜の公園は、虫が鳴いているだけでとても静かだった。
琥珀は、ブランコに座って夜空を見上げた。
俺も見上げる。
細い月と、その周りに小さな星が光っている。
綺麗だ。
ふと、琥珀を見る。
琥珀は目を輝かせていた。
まるで宝石のようなその目が、とても綺麗だった。
『私も、星になれるかな?』
あの子が遠くを見て言った。
星、か。
目だけじゃない。
他だって、綺麗だと思う。
この子が、普通の人間だったら、本当に幸せな生活を送れてたんだろうな…
と、琥珀と目があった。
『どうしたの?私の顔に、何かついてる?』
琥珀は、不思議そうな表情をした。
『何もついてない。なんでもない。』
俺は歩く。
『おりゃっ!』
琥珀が座っているブランコを揺らす。
『ふぎゃあ!』
高くまで揺らす。
琥珀は、怖がっていたけど、
いつのまにか楽しそうに笑っていた。
そうやって、日が昇るまで遊んでいた。
今日も、学校へ行く。
相変わらず、いじめはなくならない。
どころか、前より酷くなっている。
暴力を振るわれる。
!
琥珀が、ホウキで叩かれていた。
でも、数人に押さえつけられてしまい、止めに行けない。
『っ!』
何度も殴られて、蹴られて。
休み時間が終わるまで続いた。
痛い…
教室に向けて歩く。
ふらふらする。
歩くことが難しい。
なんとか、教室につく。
教室に入り、自分の席に座ろうとした。
だけど、
あれ?
琥珀がいない。
どこに行ったんだ?
教室にはいない。
と、
数人から笑われた。
嫌な予感がした。
探しに行こう。
どこにいるのかはわからない。
物置部屋や廊下の角、階段の下など、いそうな場所を探した。
『琥珀!』
女子トイレに向けて声をかける。
返事はない。
校舎裏を見てみる。
姿はない。
外から、色々見回す。
他に見てない場所…
いくつもある。
でも、また、
嫌な予感がする。
それは、なんか…
本当によくないことな気がする…
-『パパとママに会いたい…』-
-『私も、星になれるかな?』-
まさか‼︎
俺は走った。
『うぐっ!』
何度も、階段でつまずく。
けど、早くいかないと間に合わない、
そんな気がした。
そして、扉の前についた。
この先立ち入り禁止、と記載されている紙が貼られている。
でも、その扉のドアノブをひねる。
扉を押すと開いた。
光が差し込み、眩しい。
風が俺の髪を揺らす。
俺は扉のあった先へ歩くと、1人の女の子が立っていた。
その後ろ姿を俺は知っている。
綺麗な10円玉のような色の髪が、揺れている。
琥珀の後ろ姿は寂しそうで、誰かが慰めに来てくれるのを待っていたかのように、そこに立っている。
『ごめんね………。』
少しだけこちらに顔を向ける。
でも、よく顔が見えない。
頬にキラリと輝く何かが落ちていく。
それだけが見えた。
でも、それだけ言って、前を向く。
前には小さな子でも登れてしまうほどの段差があるだけで、フェンスはない。
ここは屋上だ。
学校の屋上…
俺は、琥珀の方に歩く。
『こないで、』
琥珀が小さな声で言った。
俺は咄嗟に歩みをとめる。
琥珀は段差の上。
段差の奥に、何があるのだろう。
俺の予想が当たらないことを願う。
俺は気付かれないよう、ゆっくりと近づく。
琥珀が、いつ向こうへ行ってもおかしくない。
間に合ってくれ!
!?
すると、急に強い風が吹く。
琥珀の身体が少しずつ斜めになっていく。
俺は走って、手を伸ばす。
間に合え!
俺の手が琥珀の手をとらえるが、
『ぐっ‼︎』
強い衝撃が、腕にかかる。
『いたぃ、』
琥珀も同じなのだろう。
片腕だけで琥珀を支える。
持ち上げられない。
少し動くだけで俺も落ちそうになる。
もう片腕で、落ちないよう支えているため、どうすることもできない。
と、
『どうして助けたの?』
え、
『もう、楽にさせてよ!助けても生きる意味なんてない!助ける意味もない!だから手を離して!』
琥珀が、大声を出した。
何を言ってんだよ。
『たとえ!琥珀を苦しませても!それでも!生きていて欲しい!意味なんてなくても!助けてはいけない理由になんかならない!』
たくさん苦しんで、たくさん辛い思いをしていたのを、俺は知っている。
でも、
『生きてはいけない理由になんかならない!』
生きてて欲しい。
そう、勝手に口から出ていた。
『生きたって、辛いだけだよ!もういやだよ!苦しみたくないよ!』
だけど、あの子は嫌がった。
気持ちは、痛いほどわかっている。
『生きていても辛いだけで、何もないの…だから、しんだ方がいいの…私がいない方が、みんな喜ぶの…』
琥珀が、涙を流していた。
だけど、
『なら、俺のために生きて欲しい…辛いなら俺が守る!だから生きろ!俺の願いは、琥珀に生きていて欲しい!生きる理由ならそれだけでいいだろ‼︎』
自分勝手なことだ。
生きれば、苦しむことなんてわかっている。
これからも、傷つき、辛くて死にたくなることなんてたくさんあるだろう。
でも、
『俺だって辛いし、死にたいと思った。でも、俺は、お前を見て、一緒にいて、生きていたいと思えたんだ。』
琥珀が、目を大きくした。
『このままじゃあ2人まとめて落ちるぞ!そこの、隙間を…』
琥珀がもう片方の手で、小さな隙間に手をのせた。
少し、楽になった。
『うううっ‼︎おっっりゃあああ‼︎』
琥珀を引っ張り上げる。
琥珀のからだが、どんどん上がってくる。
はあっ、はあっ、
『ううっ!』
琥珀の手を掴んでいた右手が痛い。
でも、琥珀は助かった。
『ごめん…なさい……』
琥珀が謝った。
言いたいことはたくさんあった。
せっかく出会えたのに、
友達になれたのに、
守りたいと思たのに、
でも俺は、
『生きて、くれ…』
それを言った。
俺も、涙を流していた。
小学3年生の子供が抱えるには、あまりにも重すぎる悩み。
それを、どうやって解消すれば良いのかなんてわからない。
でも、放ってなんかいられない。
『私は、甘ちゃんのために生きていいの?私といて、嫌じゃないの?』
『もちろんだよ。俺も、琥珀のために生きる。嫌じゃないよ。』
きっと、1人だったら、
俺はもう生きていないだろう。
『友達だろ?嫌なことがあったら、遠慮なく相談しろよ。』
今があるのは、
きつくあたったのに優しくしてくれた、
琥珀のおかげだ。
だから、琥珀には生きていて欲しい。
俺の、クソみたいに最低な理由。
でも、
他人のことを信じてこなかった俺にとって、これでもかなり考えて言った。
『嫌。甘ちゃんは、自分のために生きて。私のことは考えなくていいよ。』
『嫌だ。考える。』
琥珀を、手放したくない。
『甘ちゃんは、優しいんだね。そんな甘ちゃんと、ずっと一緒にいたいです。』
琥珀が、抱きしめてくる。
『優しくなんて…いや、もうやめよう。』
琥珀なら、信じられる。
だから、優しくしよう。
『あれ?止めちゃったんだぁ、つまんないの〜』
っ!
本当なら、胸ぐらでも掴んで、殴りたいくらい。
でも、
『はい、止めました。人の命は一つしかないから、大事に扱わないとダメですよ?』
俺は、優しくする。
『は?お前らは人間じゃないだろ!いっしょにすんな!』
『お前なんかしんじゃえばいいのに。』
俺は、ソイツらに近づく。
『甘ちゃん!』
『来ちゃダメだよ。』
俺は、琥珀を止める。
と、1人に、胸ぐらを掴まれる。
『調子にのってんのか!』
『そんなつもりはないですよ?でも、嫌な思いをしたならあやま…』
強く引っ張られ、
俺の身体は、空中にあった。
そして、地面に落ちて、転がる。
階段から落とされたみたいだ。
なんで、
なんで、何もしてないのに苦しまなきゃいけないんだろう。
なんで、嫌なことばかりされるんだろう。
なんで、死にたいと思ってしまうんだろう。
『甘ちゃん‼︎』
琥珀の、悲鳴みたいな声が聞こえた。
いつも、声が小さいのに、
強く響いた。
『ははははっ、』
アイツの笑い声だろうか。
いや、違う。
笑っているのは、
『はっはっはっは!』
俺だ。
俺は立ち上がって、アイツらを見た。
『楽しいですか?面白いですか?俺も、やってみてもいいですか?』
階段を登る。
『は?なんだよ、それ!』
『ありえない、こっちに来るな!』
視界が左右に揺れながら、ゆっくりと上がっていく。
アイツらが、怖がっていた。
『どうしたんですか?怖がらなくてもいいですよ?』
俺は優しく声をかけたが、
アイツらは、走って逃げてしまった。
『あぁ、残念だ。』
本当に、残念…
視界が、ぼやける。
そして、暗闇になる。
『甘ちゃん?甘ちゃん!』
声が、聞こえた気がした。
でも、水の中にいるみたいに聞こえる。ー
目が覚めた。
あたりは、暗かった。
夜か。
さっき見た夢は、この前にも見たものだ。
だけど、前見た時は…
アイツらに落とされたような…
でも、今回は助かった。
その前に見たのも、
化け物のような何かは出てこなかった。
やっぱり、不安のせいだったんだろう。
そういえば、だいぶ前からだけど、考えた時になっていた頭痛はもうなくなっていた。
そして、
最後のは…
上半身を起こした。
と、
ガラガラッ
扉が開く音が聞こえた。
けど、
誰も入ってこないみたいだ。
そして、閉まった。
目を凝らすが、誰もいない。
⁉︎
え、何?
なんだ?
琥珀さん?それとも茜さん?
2人は、隣で寝ていた。
なら、
如月さんか桜乃さんか、
もしかして、花咲さんか?
だけど、何も音がしない。
逆に、出て行ったのか?
『・・・』
怖っ。
何だったのか、わからなかった。
『甘ちゃん、目、覚めたの?』
ビクッ‼︎
声すら出なかった。
耳元で声が聞こえた。
ゆっくり、振り返る。
と、
あぁ、
茜さんが目を覚ましていた。
『ごめんなさい、驚かせちゃったかな。』
心臓が止まるかと思った。
『大丈夫だよ。』
小さな声で言った。
『ごめん、起こしちゃったかな、』
『ううん、ちょっと…』
茜さんが、少し寂しそうな顔をしていた。
『何かあったの?』
『夢を見たの。』
夢?
もしかして、記憶の?
『楽しそうな2人と、すごーく綺麗な、景色が見える、展望台で、‘星‘を、いっぱい観た夢。』
素敵な夢だ。
だけど、
記憶とは関係なさそうだ。
この島でも、綺麗な景色が見える展望台はあっただろうか。
『いつかみんなで、見れるといいな。』
そういうのもいいかもしれない。
『そうだね。』
茜さんが、まだ寂しそうな顔をして言った。
どうしたんだろう。
だけどすぐに、笑顔を見せてくれる。
そのあとは、松葉杖を使って歩き、
窓から景色を見た。
こちら側は、海が見える。
波の音が心地よい。
暗闇で光る月と星。
海に反射して、そこでも光っている。
静かだった。
『私、星が好きなの。』
『そうなの?』
知らなかった。
『うん。キラキラしてて綺麗だから。』
たしかに、夜空に浮かぶ星たちはキラキラしていて綺麗だった。
『ーーー』
茜さんが、何かを言った気がした。
『♪〜』
綺麗な歌声。
茜さんが、歌を歌っていた。
この景色に似合う、優しくて美しい歌。
聴いているだけで安心するような、落ち着けるような。
そんな歌を、しばらく聴いていた。
そうしているうちに、
日が昇る。
空が、明るくなる。
けど、
星が消えていく。
『この歌、好きなの。』
いつのまにか、歌が終わっていたようだ。
茜さんが、こちらを見ていた。
『美しい歌だったよ。』
僕も、茜さんを見る。
『ありがとう。この歌は、“painful“だよ。』
茜さんが、笑顔になった。
その笑顔を、太陽の光が照らした。
茜さんの笑顔も、キラキラしていた。
painful、か。
どんな意味なんだろう。
歌を調べるついでに、意味も調べてみよう。
スマホを取り出して、
ペインフル?だったかな?
検索する。
え、
出てきたのは、
.painful.
日本語:痛い、苦しい
『・・・』
そんな意味だったんだ…
悲しい歌なんだ。
茜さんは、この意味を知っているのだろうか。
茜さんを見る。
茜さんは、遠くを見つめていた。
悲しそうに見える。
どこか、いつもと違う気がする。
茜さんは、大丈夫なんだろうか…
ー『帰りたく、ないよ…』
琥珀が泣いていた。
『・・・』
明日から、夏休みだ。
だから明日からはしばらく、1人になってしまう。
俺が、
この子を助けたんだ。
だから、
俺が、なんとかしないと。
家に帰っても、誰も歓迎してくれないのなら、
もう、あの家に帰る必要はないだろう。
いっそ、空き家にでもいた方が良いかもしれない。
あの家で、使わせてもらえるものなんてほとんどなかった。
だから、空き家でもたいして変わらない。
逆に、暴力を振るってくる人がいない空き家の方がいいくらいかもしれない。
でも、怖いな。
空き家は、やめとくか…
なら、
『なら、家に帰らなければいいだろ?』
『え?えと、どこに行くの?』
何も言わず、歩く。
たしか、この辺に…
あった。
倉庫だ。
人気の少ない場所にあるこの倉庫なら、
雨風も凌げる。
ここを、拠点にしよう。
『ここに住むの?』
琥珀は、心配そうだった。
最近、人が使っている感じはない。
『まぁ、家代わりににはいいと思う。』
もし何かあれば、他を探せばいい。
『しばらくは、ここにいよう。』
『ここ、暗いよ。怖い…』
琥珀が、抱きついてくる。
『1人じゃないんだし、怖いものなんてないだろ?家にいるよりは全然マシだろ?暗いだけさ。』
明かりになるものなんてない。
でも、家にいるよりは明るく感じた。
家には電気があるのに、闇の中にいるような感覚がしていた。
嫌な思いをすることばかりだった。
『怖いなら、散歩でもしてきたら?外の方が明るいだろう。』
『甘ちゃんもきて。』
『え?』
琥珀に、手を引っ張られる。
倉庫を出て、歩く。
夜に散歩をするのも、いいな。
静かで、誰もいない。
周りを気にせずに歩ける。
『ね、甘ちゃん、』
『ん?』
琥珀に、名前を呼ばれた。
『あの時の、ごめんね。助けてくれてありがとう。』
琥珀が言った。
『助けてなんかない。ただ俺のために、琥珀を苦しませる道へ無理やり行かせてしまっただけだ。そう、逆に苦しませただけだよ。』
助けたかった。
でも、その理由は?
酷いものだ。
『ちゃんと、助けてくれたよ?それに、今は苦しくないよ。甘ちゃんといる時だけ、苦しくないの。』
琥珀は、優しい声で言う。
『俺のために生きてくれって言ったろ?それは、自分のためなんだよ。琥珀のことを考えなきゃいけない時に、自分のことしか考えられなかった。だからこちらこそごめん、琥珀を苦しめることになった。責任なんて取れないのに…』
琥珀のことを考えなきゃいけない時に、自分のことを考えてしまった俺が、最低だと思った。
こんな俺に、琥珀を幸せにすることなんてできないだろう。
『全て口だけで、できもしない。考えもせず、希望を持たせてしまった。ごめん…』
俺は、頭を下げた。
利用、しようとしてるだけ。
最低だな、俺。
自分で自分が醜く見える。
『私には、甘ちゃんがちゃんと守ってくれてたように見えた。最近、学校で暴力を振るわれたこと、減ったの。でも、代わりにいつも、私の前に、傷つけられていく甘ちゃんがいたの。』
琥珀の頬が、線状に光っていた。
『私は、そんな甘ちゃんを見て、助けたいって思ったのに、怖くて助けられなかった。あの時言われる前からそうだった、ちゃんと守ってくれてた…』
気づいてたんだな。
『琥珀の身体中にあった傷を見た時、俺はまだまだ大したことなかったんだって思ったんだ。だから琥珀に、これ以上傷ついて欲しくなかった。だから守ったんだ。でも…』
『私は、それがすごく嬉しかったよ?でももう、甘ちゃんに傷ついて欲しくないの。私のことはいいから、自分を大切にして?』
『でも、それは…』
『ほんとはね?あの時のは、甘ちゃんに迷惑かけたくなかったからなんだよ?ずっと、私のために苦しんでたから…全部、私のせいだから…』
それはどういうことだよ…
そんなことは…
『甘ちゃんに傷ついてほしくなかったから、私がいなくなればいいんだって…』
『黙れ。』
そんなこと、聞きたくない。
『だから、私がしんじゃえば…』
『黙れよ‼︎』
俺は、大声で言った。
『俺が苦しんだのは‼︎全部アイツらのせいだ‼︎お前が苦しんだのも‼︎全部‼︎アイツらのせいなんだよぉっ‼︎』
『甘ちゃん…?』
『そしてぇっ‼︎…おれの…せい…なんだ………』
俺は、地面に膝をつけ、地面を見た。
同じ人狼で、同じ苦しみを知っていて、助けたいと思っていたのに、
俺が苦しめてしまった。
『そうだね。』
琥珀が、俺の前にしゃがんだ。
『でもね、最後のは絶対に違うよ?甘ちゃんは、最初は冷たかったけど、本当は優しくて、守ってくれて、助けてくれた。そんな人、他にはいないんだよ?本当のパパとママくらいしか、そんな人はいかったよ…』
琥珀の手が、僕の髪を揺らした。
優しく。
頭を撫でてくれた。
『一緒に、幸せになろ?』
!
『っ…ううっ…』
涙が止まらない。
『帰ろ?あの倉庫に。』
俺は立ち上がり、歩く。
本当に優しくしてくれるのは、本当の親だけだと思っていた。
でも、この子も優しいんだ。
人狼が、他にもいるということも、
優しくしてくれる人が、いることも、
初めて知った。
人狼同士だからこそ、分かり合えるのかもしれない。
琥珀なら、信じられる。
守ってあげたい。
傷ついて欲しくない。
助けたい。
手放したくない。
なくしたくない。
俺にとって、この世界は闇だ。
でも、琥珀さんは、
そんな闇を照らす光。
まだ、小さくても、
眩しいくらい光っている。
もう、暗くなんてない。ー
はぁ、
いつのまにか、眠っていたようだ。
しばらく茜さんの様子を見ていた。
今のところ、問題は起きていない。
でも、大丈夫かな。
気のせい…だろうか。
そして、今日は。
『よし、これなら、』
もう、普通に歩けるくらいには回復した。
今日から、仕事に戻ろう。
『おはようございます。』
花咲さんに挨拶をする。
『甘太郎、もう足は大丈夫そうだね。』
花咲さんがこちらにきた。
『はい、おかげで、』
その場でジャンプしてみる。
まだちょっと痛い。
『ここまで回復しましたよ。』
『何がおかげで〜だよ、ビリのくせに。』
『へ?』
ビリ?
『ま、甘太郎だけ違う銃だったみたいで、傷が深かったから仕方ないんだけどね。』
あぁ、僕だけ傷が深かったのか。
『申し訳ございませんでしたぁ…』
どれくらいあそこにいただろうか…
『で、今日から働くの?大丈夫?』
『はい、もう大丈夫ですので。』
久しぶりの仕事だ。
『では、行ってきます。』
『気をつけてな〜』
やっぱり、花咲さんはテキトーだな。
さて、まずは、
鬼塚さんのところに行こう。
『あまり、無理はすんな。』
『はい、気をつけます…ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした…』
頭を下げた。
『気にするな。もう朝礼をするから、向こうに並べ。』
『はい。』
朝礼、
なんか、すごく久しぶりに感じた。
朝礼を終えて、
皆と、外に出る。
『暑いですね…』
久しぶりの外。
『もう、夏が始まったからな。』
そうか、もう夏か。
『すまんな、行ってやれなくて。』
島田さんが謝った。
『気にしないでください。隊長は大変みたいだから…』
『ごめんなさい…』
あ、
岡野さん…
『岡野も、今日から復帰したからな。』
そうなのか、
『気にしないでください。もう大丈夫ですし、寝てばかりだったので。』
そう誤魔化した。
今日も、その次の日も、またその次も…
しばらく、大きな何かが起きることはなかった。
レインたちも、外国人たちも、あの後からは姿を見せていないそうだ。
さて今日は、
休みだ。
前の日に調べていた場所に行く予定だ。
だけど、時間的にはまだだ。
それまでは…
暑い。
外に出る気にはなれない。
なら、
今日こそ、滝をみたり海に行くべきだろう。
『滝や海を見にいかなない?』
『見たい!』
『行きたい!』
2人も、喜んでくれた。
バスに乗って、滝を見に行く。
だけど、
人が多いな…
滝の周りには、人がたくさんいた。
『どうしよう…』
2人も僕も、人がたくさんいる所が苦手だ。
琥珀さんも茜さんも、僕の手を掴んでいた。
海を見てみる。
けど、
こちらも人が多い。
まぁ、こんなに暑いからなぁ。
仕方ないか。
だけど、これからどうしよう。
と、
掲示板があった。
この島の、人気スポットが載っている紙と、
『あ、』
そこに、チラシが貼ってある。
この島の神社で、夏祭りがあるらしい。
それも、今日か。
『・・・』
楽しいんだろうな。
だけど、
それこそ人が多いだろう。
無理だろう…
夢では、
琥珀さんが、浴衣を着た人を見て羨ましそうにしていた。
なんとかして、連れて行ってあげたい。
『甘ちゃん。今日は家でゆっくりしていよう?』
琥珀さんが言った。
そうか…
『…うん、』
茜さんには、滝も海もほとんど見せてやれないのが辛い。
そのままバスに乗り、家に帰る。
『…ごめん、』
楽しませてあげたかったのに、
何もできなかった。
『大丈夫だよ?琥珀も、怖かったから。』
『私も大丈夫。気にしないで?』
2人は、そう言ってくれた。
そのまま、午前が終わる。
祭りが始まる時間だ。
だけど、行く気にはなれない。
このまま、時間だけが過ぎていく。
あ、
スマホを取り出す。
調べる。
と、
あった。
人が多いかもしれないけど、
『花、見に行かない?』
『お花?見たい。』
『私も、行ってもいい?』
2人の顔が、明るくなった。
きっと、今なら…
海や、祭りなどに行く人が多いだろう。
だから、
きっと…
『わあ〜っ!』
人は、誰もいなかった。
それなりに、広い花畑。
ひまわり畑だ。
誰もいなくてよかったと、安心した。
2人は、楽しそうだった。
『転けないように、気をつけてね!』
僕も、ひまわりを見よう。
大きな花。
こんな花は、初めてだ。
花畑。
確か、昔に、
あのとき見たのは、コスモスだったかな。
本当に、大きいな。
でも、琥珀さんも、あの時より背が高い。
ま、当たり前か。
あの時はまだ、子供だったからな。
今は、16歳だったかな。
まだ、大きくなるだろう。
少しずつ、夢で思い出している。
でも、結局、
あの時と変わらず、差別される。
本当に、あの時と変わっていないんだ。
『あ〜まちゃん!写真撮ろ?』
『あぁ、撮ろう。』
3人で、写真を撮る。
茜さんも、鬼塚さんからスマホをもらっていた。
だから、3人で撮りあう。
『あっ、』
そうだ、
あの時はできなかったけど、今ならできるもの。
『どうしたの?』
『これなら…』
琥珀さんと茜さんが、不思議そうに見つめていた。
『花火を買おう。』
お店に行って、花火を買う。
お店なら、雑にはされるけど欲しいものは買える。
結局はお金さえ払えば、利益があるから、
買わせてはくれる。
花火と、ライターと、バケツを買う。
そして、夜まで家でゆっくりしよう。
花火は、今日じゃなくてもいい。
とにかく、楽しめるはずだ。
茜さんも、元気になれるだろう。
ザー
楽しそうな2人と、すごーく綺麗な、景色が見える、展望台で、‘星‘を、いっぱい観た夢。
あの時の茜さんの言葉を思い出した。
いつもと、話し方が違った。
所々で区切っているような、
最初の一文字だけ、少し強調していたような、
星。
これもだったような。
考えてみる。
たのしそうなふたりと、すごーくきれいな、けしきがみえる、てんぼうだいで、ほしを、いっぱいみたゆめ。
‘た’のしそうなふたりと、‘す’ごーくきれいな、‘け’しきがみえる、‘て’んぼうだいで、‘ほし’を、‘い’っぱいみたゆめ
‘たすけてほしい’
え、
なんだこれ…
たまたまだとは思えない。
でも、どういうことだよ。
僕は、茜さんを見る。
窓の先、どこか遠くを、寂しそうに見つめていた。
何かあったんだろうか。
でも、なんでわかりにくくしたんだろう。
それは、
訊かない方がいいのかもしれない。
でも、茜さんは…
助けを求めているんだ。
‘痛い、苦しい’
‘助けて欲しい’
『・・・』
怖くなった。
でも、本当に怖いのは、
茜さんだろう。
茜さんの頭を撫でる。
この先、何が待っているんだろう。
でも、どんなことがあろうとも、
絶対に、助ける。
人は、いずれ死ぬ。
でも、誰にだって、
幸せになる権利がある。
琥珀さん、ごめん。
でもやっぱり、これだけは譲れない。
自分が、犠牲になっても、
僕が、2人を…
幸せにするんだ。
『まずは、展望台へ行こう。』
家を出て、バスに乗る。
展望台。
小さいけれど、景色は見えた。
『甘ちゃん、ありがとう。』
茜さんが言った。
本当に、これでいいのだろうか。
茜さんは、助けを求めていた。
この数日、茜さんは、
寂しそうに、遠くを見つめていることが多かった。
他にも少し、いつもと違うと感じることがあった。
僕は、茜さんに近づく。
『茜さん…』
茜さんが、こちらを向いた。
『何か、あった?』
『・・・』
その何かを知ることが、怖い。
なんと言えばいいんだろう。
『はぁっ…』
息が詰まる、
そんな感覚。
ただ、訊くだけなのに、
それが、とてつもなく難しく感じる。
『星、綺麗だね。』
茜さんが、夜空を見た。
『あ、あぁ…』
星が輝いている。
でも、
『琥珀ちゃん、寂しそうだよ?』
茜さんはまるで、気にしなくていいとでも言うような目で見てきた。
僕は、琥珀さんを見る。
琥珀さんが、こちらを見ていた。
『彼氏でしょ?行ってあげて。』
それはまるで、僕を突き放そうとしているように聞こえた。
『・・・』
寂しく感じた。
もう、離れてしまう。
そう思ってしまった。
『3人で見ればいいんじゃないかな。』
僕は言った。
2人じゃなければいけないわけじゃない。
僕は、茜さんの手を握って、琥珀さんのところまで引っ張る。
そして、星の綺麗な夜空を見る。
こんなにたくさん、星があったんだな。
こんなに、星が綺麗に見えるんだな。
本当に、綺麗だった。
『もう、帰ろう?』
茜さんが言った。
ものの5分くらいしかいなかったのに、
『バスは、まだ来ないよ?』
『歩いて、帰ろう?』
本当に、何かがおかしい。
『茜ちゃん?何か、あったの?』
琥珀さんも、気づいたみたいだ。
『ううん。ただ、夜風に当たりながら、ゆっくり歩いて帰りたくなったの。』
『そうか…』
歩いて、下っていく。
このままじゃ、ダメだと思う。
思うのに、何もできない。
そんな僕が、情けなく思った。
『何か、困ったことはない?』
まずは、遠回しに訊いてみる。
でも、
『何もないよ?』
茜さんは、何もないと言った。
『・・・』
何もないとは、とても思えない。
『このあとは、花火するの?』
茜さんは、話を逸らそうとしているみたいだ。
『あぁ、それでいいなら。』
嫌な予感がしてならない。
『甘ちゃんも茜ちゃんも、元気ない?』
琥珀さんが心配そうに見つめていた。
『私は元気だよ。』
茜さんは、笑顔で言った。
本当に、隠しておくんだな。
頼ってもらえないのって、寂しいな…
『僕も、大丈夫。』
僕は、本当に大丈夫。
僕は…
『来年は、海や滝、祭りを楽しめるといいね。』
来年、か。
暗い道を歩いて、山を下り終わる。
いつもならもう寝る時間。
でも、砂浜に行って、
バケツに水を入れて、
線香花火を取り出して、
ライターで、火をつける。
火をつけたところから、火花が散る。
『わあ〜きれ〜』
琥珀さんは、花火を見て嬉しそうだ。
やっぱり、この時間の砂浜は人がいない。
3人で、線香花火を持って、
散っていく火花を見る。
綺麗だとは思う。
でも、
『あ、』
火がついていた先端が落ちてしまった。
寂しいな。
『線香花火の燃え方にはね、蕾、牡丹、松葉、柳、散り菊の5種類に分けられているの。』
茜さんが言った。
5種類にも分かれているのか。
知らなかった。
『人間の一生にも例えられているんだって。』
人間の一生…
もう一度、新しい線香花火に火をつける。
最初は、先端が赤く光っている。
そして次第に、火花が弾け始めて、
そして、激しく火花が散り、
そして、落ち着いてきて、
最後は、小さく光り、落ちてしまった。
寂しいものだ。
なぜ、命は終わってしまうのだろう。
皆が、幸せに生きられればいいのに。
でも、そんな願いは届かない。
他にも、大きな花火もあったけど、
『・・・』
やめておこう。
もう、夜も遅い。
今からでも、帰る頃には日が変わるだろう。
『やっぱり、元気ない?』
琥珀さんが、僕の顔を覗き込んだ。
『それは…』
『案外、弱そうだなぁ。』
!
顔を上げると、
知らない人が立っていた。
『にーちゃんが、銅だろ?』
『あぁ、そうですけど…』
僕は立ち上がる。
と、
!
ナイフが、飛んできた。
『ほら、それを使えよ。アタシ、にーちゃんと戦ってみたかったんだよ。遊ぼうぜ、にーちゃん。』
『・・・』
その女から、殺気を感じる。
女が、もう一つナイフを手にした。
僕は、投げられたナイフを手にする。
『2人は離れて。』
琥珀さんと茜さんに言った。
『雑魚に興味はねぇよ。』
女の目が、怪しく光っている。
僕は、後ろに下がった。
!
でも、
一瞬にして、近づいてきた。
ナイフが、僕を目掛けて振り下ろされる。
避ける。
けど、
あれ?
首が痛い。
『これでにーちゃんも、本気で戦えるだろ?』
女が、ナイフの刃を舐める。
そこに、血があった。
首を触り、手を見る。
赤い…
!
また来る!
『うっぐ!』
防ごうとしても、
あの女が持つナイフが、ありえないような動きをする。
『ああっ!』
腕に刺さる。
『どうしたにーちゃん。そんなもんなの?』
女は、怪しい笑顔を向ける。
『くっ!』
僕も、ナイフを振る。
相手の動きを見て、走る。
だけど、
『何してんだ、にーちゃん?』
!
声のした方にナイフを振る。
『そっちじゃないよ?』
もう一度振る。
けど、避けられる。
また、ありえないところから声が聞こえる。
ありえないほど速いんだ。
砂浜の上なのに、目で追えないほど速い。
!
背中を斬られる。
『うぅっ…』
相手が見えない。
ここか?
違う。
こっちか?
違う。
なら、
『どこ見てんだよ。』
‼︎
ナイフが、胸元に突きつけられていた。
『な〜んだ、大したことないじゃん。つまんないなぁ。』
『・・・』
ありえ、ない…
黒髪に、黒い目。
コイツ、
化け狐というヤツか!
コイツは間違いない、人狼だ。
『これで死ぬ?それとも、もう一回やってみる?』
完全に舐めている。
ここで、終わるわけにはいかない!
僕は、睨んだ。
『なるほどね、ま、そうだよね。』
女が、離れる。
『でも、もし、』
女が、ナイフを構える。
『つまらなかったらコロす。』
!
『うぐっ!』
腕に、強い衝撃がくる。
守るんだ。
琥珀さんを。
茜さんを。
僕が!守るんだ!
僕は、あの女から離れる。
そして、
ナイフを、
身体で見えないように構える。
女の動きが止まった。
『なるほどな。』
どう動くのかがわからない。
だから、下手に動けないはず。
どう来る。
!
来た!
ナイフを振る。
が、避けられる。
なら!
ナイフを反対向きに持ち替えて、
反対に振る!
あと少しのところで避けられた。
でも、
まだ、終わってない!
ここだ!
やっぱり、そこにいた。
『はああっ!』
ナイフが、腕を軽く斬る。
『マジかよ。面白くなってきたじゃん!』
追いかける。
次は、ここに来るはず。
あえて、誘導させる。
『やあっ!』
肩を斬る。
だが、
僕も、肩を斬られた。
っ!
まだ、上があるのか。
さっきより、もっと速くなった気がする。
『もっと、本気で来いよ!』
『ぐっ!』
歯を食いしばる。
もっと、速く!
走れ!振れ!
『ふっ!せああっ‼︎』
視界が、速く動いている。
次はあっちだ!
足の負担が凄い。
鼓動を、強く感じる。
でも、終わるわけにはいかない。
攻撃を受けて、避けて、防いで、
攻撃をして、フェイントをかけて、
走って、止まって、
追いかけて、追いかけられて、
何回だってした。
何度もやった。
そして、
『これで、終わりだぁ!』
斬りかかってくる。
防ごうとした。
だが、
!
ナイフが、折れた。
まずい!
女の、ナイフを持った腕を掴む。
『ぐっ!うりゃあ‼︎』
強く握る。
そして、地面に引っ張る。
取り押さえる。
『終わりだ。』
なんとか、押さえることはできた。
でも、このあとは…
『もう降参だ。アタシの負けさ。』
女はもう、抵抗はしなかった。
『なかなかやるじゃねーか、にーちゃん。』
『お前もな。』
かなり、疲れていた。
『アタシはあの、クソ頑固な外人たちの仲間だ。アイツらはまだ、にーちゃんのことを狙ってるんだぜ?離してくれれば、アイツらを止めてやるよ。』
『え、』
そうか、あの時のナイフを持った女はコイツだったのか。
『本当に、止めるのか?嘘じゃないのか?』
『ま、最初は勝ったとはいえ、本気で戦って負けたんだ。だから止める。それでどうだよ。』
怪しい。
でも、もし本当なら…
アイツと戦わずに、止められる…
僕は、押さえる力を緩めてしまった。
『ヘヘッ!にいちゃん、優しいんだな。』
!
振り落とされた。
女が立つ。
と、
ニヤリと笑った。
『本気だと思ったのか?敵を信じるなんてバカだな〜だから騙されるんだよ!だから傷つけられるんだよ!』
!
『騙したのか!』
『ヘッ!一つだけ、いいことを教えてやるよ。人狼の力は、そんなものじゃない。ある条件が揃えば、この島なら全員滅ぼせるくらい強くなれるって、一部で噂になってんだよ。』
それだけ言って、どこかへ行ってしまった。
『くっ!』
せっかく取り押さえたのに、離してしまった…
『甘ちゃん大丈夫⁉︎』
琥珀さんが、心配してくれた。
あれ?茜さんは?
ふと、周りを見てみる。
茜さんは、すぐ近くで見守ってくれていた。
なんともないみたいだ。
安心した。
『さて、帰ろうか。』
ゆっくり歩いて帰る。
2人が、肩を貸そうとしてくれた。
でも断った。
ー『甘ちゃん、お花畑がみたいな。』
琥珀が言った。
お花畑か…
予想はなんとなくできるけど、よくわからないな。
『どこにあるのかわかるのか?』
『わかんないけど、みたいの。』
琥珀は、即答で言った。
『じゃ、探すしかないな。』
倉庫を出て、歩く。
琥珀が、横に並ぶ。
今は、夏休みだ。
そこら辺を歩いていれば、見つかるだろう。
そう思っていた。
『これならどう?』
畑ではないけど、
クローバーとたんぽぽの花がたくさん咲いている…
『これは、お花畑じゃないよぉ…』
思っていたより、見つけられなかった。
『お花畑ってなんだよ。俺は知らないぞ?』
やっぱり、お花畑とやらは知らない。
『前に、テレビで見たの。お花さんが、たっくさん咲いてたの。』
テレビって…
『本当に、ここら辺にあるのかそれ?』
『わかんない…』
『おい!』
本当に、見つけられるだろうか…
なんか嫌な予感がする…
『……ゃん』
暑いよ…
帰りたい…
『…ちゃん!』
誰かが名前を呼んでいる。
『甘ちゃん、ボーッとしてるの?』
琥珀が顔を覗かせている。
『いや、大丈夫…』
『見て、ねこちゃん!』
琥珀が指を差す方に猫がいる。
真っ白な毛に、黄色い目をした猫だった。
『かわいい!』
琥珀が猫の方へ走る。
琥珀は元気そうだな…
猫は草むらに逃げ込む。
『あ、行っちゃった…』
落ち込んでいる。
『猫は警戒心が強いからな、』
俺が言う。
そんなことはいいから、早く行こうよ…
『甘ちゃんは触らせてくれるのにな…』
さらっと恥ずかしいことを言う。
『別に!触らせてないぞ!』
俺は琥珀にデコピンをお見舞いする。
『ひぎゃっ、』
琥珀は目をぎゅっと閉じて、おでこを抑えてう〜と唸っている。
・・・
『行くぞ、』
琥珀の手を握り、引っ張る。
そして歩く。
と、
遠くに人影が見える。
浴衣を着た女がいる。
こっちには行かない方がいいだろう。
俺は別の場所に琥珀を引っ張ろうとする。
だが、琥珀は動かない。
『いいな、浴衣…祭りに行ってみたい…』
小さな声で言う。
無理だろう。
行っても追い出されて嫌な思いをするだけ。
『祭りなんて、人が多いだけで楽しくなんてない。花を見てた方が何倍もマシだ。ほらいくぞ!』
琥珀の手を強引に引っ張る。
琥珀さんは残念そうだった。
俺だって、祭りには行きたい。
でも、無理なんだ。
それよりも、今は、
色々探す。
でもお花畑と言える場所はなかなか見つからない。
と、
1つ、古びた建物が見える。
人気はない。
シャッターが閉められており、手前にガチャガチャがある。
機械に水ヨーヨーのようなものが写っている紙が貼られている。
近づいてみる。
中には1つだけ、カプセルがある。
値段は200円。
たけぇ、
俺たちにそんなお金はない。
でも、琥珀さんは目を輝かせて見ている。
『これ何?』
『ガチャガチャだ。中には祭りであるらしい水ヨーヨー型のおもちゃが入っているみたいだな。』
ポケットに、自販機の下で拾った100円玉が2枚ちょうどある。
そういえばそうだったな。
このお金で美味しいものでも買おうと思っていた。
でも、弁当屋で美味しいものが食べられる。
それに、
お店だと、何も買わせてはくれないだろう。
琥珀はまだガチャガチャを見ている。
仕方ない。
俺はガチャガチャの機械にお金を入れる。
『ほら、そこのハンドルを回せば出てくる。』
多分だけど…
俺はハンドルを指差す。
琥珀はこちらを見つめている。
『え?』
琥珀がずっと見つめたまま動かないので、俺は琥珀の手をとり、ハンドルを一緒に回す。
ガラガラと音がした後、下からカプセルが出てくる。
と、同時に売り切れの表示が出てくる。
俺は琥珀の手を掴んだまま下に落ちたカプセルを取る。
琥珀にカプセルを握らせたまま、俺は手を離す。
『開けてみろよ。』
琥珀は呆然とカプセルを見る。
そして、カプセルを開けようとする。
『開かない…』
琥珀は悲しそうだった。
『ったく、貸せ。』
琥珀がカプセルを渡す。
周りのテープを剥がし、カプセルを開ける。
『ほら』
と、琥珀に渡す。
琥珀がカプセルから中に入っていた水ヨーヨー型のおもちゃを取り出す。
赤い金魚などが描かれた黄色いヨーヨー。
『かわいい、』
琥珀はそのヨーヨーを見ている。
『よかったな、』
『うん!』
琥珀は嬉しそうに笑顔を見せる。
そして、また歩く。
ずいぶん遠くまで来た気がする。
まぁ、お花畑とやらがなくても、
こういうのも悪くはない。
と、
『あれは…』
あそこも畑だろう場所に、
ピンクや紫、白などの色をした何かがある。
まさか、
近づいてみる。
『あ…』
そこに、遠くまで広がる花の畑が。
『わぁー、きれい!』
隣で琥珀が花を見ている。
俺も、花を見る。
これが、お花畑…か。
本当にあった。
いろんな色の花が咲いている。
いろんな種類の蝶が飛んでいる。
琥珀がお花畑に向けて歩く。
俺もついて行こうと、歩こうとした。
『君たちも、人狼…なの?』
『え?』
声が聞こえた。
人狼…
ここにも、人がいたんだな…
あれ?
も?
俺は、振り返った。
と、
銀色の髪に、青い目をした女の子がいた。
⁉︎
人狼…
『君は…』
俺とそれほど年齢は変わらないだろう子、もしかしたら同じかもしれない。
『私には、名前はないの。』
『・・・』
また、人狼と出会うとは思わなかった。
『俺は、今は銅.甘って名乗ってる。この名前は、あの子がつけたんだ。』
琥珀の方を指差す。
『あの子がつけたの?なら、銅さんはあの子に名前をつけたの?』
っ…
『ち、違う…』
『銅.琥珀だよ。甘ちゃんがつけてくれたんだよ?』
『な!』
すぐ後ろに琥珀がいた。
『ふふふ、2人は家族なんだね。羨ましいなぁ。』
『違うぞ。』
苗字を一緒にしたら家族だと思うよな…
でも違う。
『友達だ。』
『2人は仲良しさんなんだ。』
仲は、いいのだろうか。
『2人は、お友達なの?』
琥珀が訊いてきた。
『いいえ、さっき初めて会ったばかりだよ?』
女の子が言った。
『ならお友達、なろ?』
『いいの?』
『うん!』
2人が、友達になったようだ。
『甘さんも、友達?』
『…なってもいいけど、そんなに会えるわけじゃないんじゃないか?』
この女の子は、別の学校に通っているはず。
まぁ、そこまで言うほどは遠くないけど。
『それほど会えなくても、友達は多い方がいいと思うの。まぁ、友達は初めてだけど。』
そうか、
この女の子も、複数の傷があった。
でも、1人なんだ。
人狼は、それほど多くない。
だから、友達ができるだけでも嬉しいのだろう。
『ここのお花畑、綺麗でしょ?私、ここがお気に入りなの。』
お花畑は、確かに綺麗だ。
『凄くきれい!お花かわいい!』
琥珀は、嬉しそうだ。
『10月、11月ごろくらいまで見れると思うよ。』
そうか、
お花畑を見る。
本当に、綺麗だな。
『この花は、なんだろう。』
わからない。
初めて見た気がする。
『この花は、コスモスだよ。他にも、オレンジ色のコスモスもあるんだよ。』
こすもす…
どこかで聞いたような…
これが、コスモスなのか。
植物。
見ているだけでも、癒される。
コスモスを、しばらく見ていた。
『私、あっちも見てくる!』
琥珀が、向こうまで走って行った。
『気をつけろよ!』
危なっかしいやつだからな。
『いいなぁ、琥珀ちゃんばっかり、』
?
『何がだ?』
『私にも、名前をつけてくれないかな…』
女の子が言った。
『名前、そんな簡単にはつけられないよ。』
琥珀と同様に、時間が欲しい。
『なんでもいいの、コスモスでも…』
『・・・』
今、考えるべきだろうか。
思いつくものなんて…
『瑠璃[ルリ]?』
確か、テレビで出ていたような…
琥珀と一緒に、あの番組で出てきていた。
『瑠璃?』
『ラピスラズリ?って言う青い宝石の、和名?』
よくわかっていないけど、確かそんな感じだった気がする。
『宝石…私に、似合うかな?』
実物はよくわからないけど、確か青かった。
女の子の目のように。
あ、
『似合ってるとは思う。でも、その目が嫌いならやめといた方がいいか。』
つい、自分の悪いところが出てしまった。
この女の子が、琥珀の時みたいに気に入るとは限らない。
でも、
『瑠璃がいいな。私の名前は瑠璃。名前をつけてくれてありがとう。』
瑠璃でいいのか。
瑠璃は、笑顔だった。
その後はコスモスを見て、
『また会おうね。』
瑠璃と別れて帰る。
『お友達、増えたね。』
『あぁ、そうだな。』
友達。
また、友達ができるとは思わなかった。
親が亡くなってからずっと、1人だと思っていた。
友達なんて、できないと思っていた。
でも、2人もできた。
と、
あ、あれは…
オレンジ色の、コスモスだ。
行きは気にしてなかったけど、こんなところにあったんだ。
オレンジ色のコスモスも綺麗だ。
ちょこちょことある。
色々見ながら、倉庫に帰る。ー