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それからしばらくしたある日。
「あ。ラムネ忘れた…」
これからクイズ番組の収録に向かうところだった阿部ちゃんが、ぽつりとそんなことを呟いた。
阿部ちゃんはいつもラムネを持ち歩いている。脳にすーっと吸い込まれていく糖分が心地いいのだとか。 今日は収録が押していてロケ弁をゆっくり食べている時間もなかったから、急ぎで次の収録に向かう阿部ちゃんには必要なものだったんだろう。
阿部ちゃんの絶望的な声が聞こえていた俺は、何気なしに、自分のポーチの中から個包装のグミを取り出した。
「ラムネじゃないけど…よかったら」
「えっ。いいの?」
阿部ちゃんの顔がぱっと花が咲いたように笑顔になる。阿部ちゃんは嬉しそうに、でも、すぐに申し訳ないとでも言うように俺を見た。
「でもこれ翔太の大事なおやつじゃない?俺にあげたらなくなっちゃったりしない?翔太もお弁当食べれなかったでしょ…」
「別にいいって」
半ば強引に渡す。
阿部ちゃんは俺に何度もお礼を言って、次の仕事へと向かって行った。
あんなちっこいグミひとつを、あんなにもありがたがって受け取る阿部ちゃんに調子を狂わされる。別に高いものでもないのにな。