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朝から、雨だった。
窓を叩く雨音で目が覚めた。
カーテンを開けると、空は一面灰色。
今日は一日降るらしい。
「……嫌やな。」
雨の日は、どうにも気分が上がらない。
傘を持って家を出る。
駅までの道には、いつもより人が多かった。
みんな傘を差しているせいで、道がいつもより狭く感じる。
学校へ着く頃には、靴の先が少し濡れていた。
教室へ入る。
まだ来ている人は少ない。
自分の席へ向かうと、
「おはよー。」
聞き覚えのある声。
「……おはよ。」
「今日早いね。」
「昨日と同じくらいやろ。」
「そっか。」
らっだぁは窓の外を見る。
「雨だねぇ。」
「見りゃ分かるやろ。」
「そりゃそうか。」
「何言うてんねん。」
小さく笑う。
「きょーさん、傘持ってきた?」
「持ってきたけど。」
「よかった。」
「なんで?」
「いや、忘れてそうだなって。」
「失礼やな。」
「昨日の天気予報見た?」
「見てへん。」
「ほら。」
「なんで得意気やねん。」
また笑う。
朝からくだらない話をしているうちに、少しずつ教室が埋まっていった。
雨の日でも、学校はいつも通りだった。
昼休み。
窓の外を見る。
雨はまだ降り続いている。
「今日どうする?」
らっだぁがパンの袋を開けながら聞いてくる。
「何が?」
「放課後。」
「あぁ……。」
昨日までなら、何も考えず帰っていた。
けれど今は。
一緒に帰るという選択肢が生まれている。
「帰るしかないやろ。」
「そっかぁ。」
少し残念そうな顔をする。
「なんや。」
「いや、コンビニ行けないなって。」
「またアイスか?」
「雨の日にアイス食べるのも良くない?」
「別にええけど。」
「じゃあ行こう。」
「行くんかい。」
「だって食べたいし。」
「雨やぞ。」
「傘あるじゃん。」
「そういう問題か?」
「そういう問題。」
放課後。
雨は少し強くなっていた。
「……結構降ってるな。」
「ね。」
昇降口で傘を開く。
らっだぁも隣で傘を開いた。
「じゃあ、また明日。」
「え。」
「ん?」
「コンビニ行くんちゃうん?」
「……いいの?」
らっだぁが固まる。
「⋯行かんの?」
「行く。」
「ほな行くで。」
「うん。」
なんとなく、らっだぁが嬉しそうに見えた。
二人で歩く。
傘に当たる雨の音が、いつもより大きい。
「きょーさん。」
「ん?」
「傘ちっちゃくない?」
「普通やろ。」
「俺の方が大きいよ。」
「そうか?」
「うん。」
しばらく歩く。
雨のせいか、いつもの道が少し違って見えた。
「ねぇ。」
「ん?」
「今日、楽しいね。」
「雨の日なんに?」
「雨の日だから。」
「意味分からんな。」
「そう?」
らっだぁが笑う。
「俺は雨、結構好きだけどね。」
そう言った横顔は、どこか遠くを見ているようだった。
コンビニに着く。
「今日は何にするん?」
「アイスに決まってんじゃん。」
「やっぱそうか。」
「きょーさんも。」
「俺は買わん。」
「えー。」
「寒いねん。」
「じゃあ俺だけ。」
「そうせぇ。」
結局、らっだぁだけアイスを買った。
店を出て、また歩く。
「一口いる?」
「いらん。」
「ほんと?」
「ほんま。」
「そっか〜。」
少しだけ寂しそうに言う。
「……」
「……」
「⋯やっぱ、一口くれ。」
「いるんじゃん。」
「うるさい。」
らっだぁが笑う。
差し出されたアイスを一口食べる。
「冷たっ。」
「アイスだからね。」
「知っとるわ。」
二人で笑う。
駅前。
今日もここで別れる。
「じゃあ、また明日。」
「あぁ。」
「ちゃんと傘忘れないでね。」
「忘れへんて。」
「ほんと?」
「ほんま。」
「じゃあ安心。」
らっだぁが手を振る。
俺も小さく手を振り返す。
雨の向こうへ、らっだぁの背中が消えていった。
一人になった帰り道。
傘を叩く雨音を聞きながら歩く。
雨の日は嫌いだった。
でも。
今日は、少しだけ嫌じゃなかった。
たぶん。
隣に誰かがいたからだ。
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