テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
12
ホウ酸
1,851
あいびすぺいんと
240
Sazanka໒꒱·̩͙
1,306
朝から、雨だった。
窓を叩く雨音で目が覚めた。
カーテンを開けると、空は一面灰色。
今日は一日降るらしい。
「……嫌やな。」
雨の日は、どうにも気分が上がらない。
傘を持って家を出る。
駅までの道には、いつもより人が多かった。
みんな傘を差しているせいで、道がいつもより狭く感じる。
学校へ着く頃には、靴の先が少し濡れていた。
教室へ入る。
まだ来ている人は少ない。
自分の席へ向かうと、
「おはよー。」
聞き覚えのある声。
「……おはよ。」
「今日早いね。」
「昨日と同じくらいやろ。」
「そっか。」
らっだぁは窓の外を見る。
「雨だねぇ。」
「見りゃ分かるやろ。」
「そりゃそうか。」
「何言うてんねん。」
小さく笑う。
「きょーさん、傘持ってきた?」
「持ってきたけど。」
「よかった。」
「なんで?」
「いや、忘れてそうだなって。」
「失礼やな。」
「昨日の天気予報見た?」
「見てへん。」
「ほら。」
「なんで得意気やねん。」
また笑う。
朝からくだらない話をしているうちに、少しずつ教室が埋まっていった。
雨の日でも、学校はいつも通りだった。
昼休み。
窓の外を見る。
雨はまだ降り続いている。
「今日どうする?」
らっだぁがパンの袋を開けながら聞いてくる。
「何が?」
「放課後。」
「あぁ……。」
昨日までなら、何も考えず帰っていた。
けれど今は。
一緒に帰るという選択肢が生まれている。
「帰るしかないやろ。」
「そっかぁ。」
少し残念そうな顔をする。
「なんや。」
「いや、コンビニ行けないなって。」
「またアイスか?」
「雨の日にアイス食べるのも良くない?」
「別にええけど。」
「じゃあ行こう。」
「行くんかい。」
「だって食べたいし。」
「雨やぞ。」
「傘あるじゃん。」
「そういう問題か?」
「そういう問題。」
放課後。
雨は少し強くなっていた。
「……結構降ってるな。」
「ね。」
昇降口で傘を開く。
らっだぁも隣で傘を開いた。
「じゃあ、また明日。」
「え。」
「ん?」
「コンビニ行くんちゃうん?」
「……いいの?」
らっだぁが固まる。
「⋯行かんの?」
「行く。」
「ほな行くで。」
「うん。」
なんとなく、らっだぁが嬉しそうに見えた。
二人で歩く。
傘に当たる雨の音が、いつもより大きい。
「きょーさん。」
「ん?」
「傘ちっちゃくない?」
「普通やろ。」
「俺の方が大きいよ。」
「そうか?」
「うん。」
しばらく歩く。
雨のせいか、いつもの道が少し違って見えた。
「ねぇ。」
「ん?」
「今日、楽しいね。」
「雨の日なんに?」
「雨の日だから。」
「意味分からんな。」
「そう?」
らっだぁが笑う。
「俺は雨、結構好きだけどね。」
そう言った横顔は、どこか遠くを見ているようだった。
コンビニに着く。
「今日は何にするん?」
「アイスに決まってんじゃん。」
「やっぱそうか。」
「きょーさんも。」
「俺は買わん。」
「えー。」
「寒いねん。」
「じゃあ俺だけ。」
「そうせぇ。」
結局、らっだぁだけアイスを買った。
店を出て、また歩く。
「一口いる?」
「いらん。」
「ほんと?」
「ほんま。」
「そっか〜。」
少しだけ寂しそうに言う。
「……」
「……」
「⋯やっぱ、一口くれ。」
「いるんじゃん。」
「うるさい。」
らっだぁが笑う。
差し出されたアイスを一口食べる。
「冷たっ。」
「アイスだからね。」
「知っとるわ。」
二人で笑う。
駅前。
今日もここで別れる。
「じゃあ、また明日。」
「あぁ。」
「ちゃんと傘忘れないでね。」
「忘れへんて。」
「ほんと?」
「ほんま。」
「じゃあ安心。」
らっだぁが手を振る。
俺も小さく手を振り返す。
雨の向こうへ、らっだぁの背中が消えていった。
一人になった帰り道。
傘を叩く雨音を聞きながら歩く。
雨の日は嫌いだった。
でも。
今日は、少しだけ嫌じゃなかった。
たぶん。
隣に誰かがいたからだ。
NEXT=♡1000
コメント
2件