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大学卒業。
就職。
新しい生活に慣れてきた時期。
相も変わらず父さんの家で一緒に過ごしてきた。
俺たちの家から近い職場で本当に良かった。これでずっと父さんのために働きながら一緒に老後まで過ごせる。ちなみにスマイルと一緒の貿易?等の仕事だ。
だから、いつまでも父さんの柔らかいけどところどころ豆のある指、そこから与えられる愛情もきっとずっと自分の物だろう。
きっと一生この生活が続くと思いながら少しシワができてしまっているスーツをハンガーにかけた時、父さんが珍しく酒瓶を持たずに帰ってきた。
「父さん。おかえり。」
思春期特有の恥ずかしさがまだ残っているのか、ぎこちないおかえりになってしまった。
それでも、俺は父さんを愛している。きっと父さんもそうでしょ?いつも愛情をくれるもんね。
だからきっと今日は酒瓶を持ってない日特有の優しい笑顔でただいまって言ってくれるんだよね?
そんな期待も虚しく、疲れきった顔で椅子に何も言わずに座る父さん。
いつもと違う
そんなだけで気分の悪くなる感覚がする。
「なぜ出ていかない」
「なんで俺の元を離れない」
語尾に?でもつきそうなトーンで父さんは喋る。
なんでそんなことを聞くの。
「お前は高校に上がる時も、大学に行く時も、就職する時もここを出ていかなかった。」
「嫌じゃないのかよ。こんな生活。狭苦しい部屋で、俺の暴力……虐待なんか受けてて。」
何を言ってるんだろう。意味がわからない。
「お前だってその傷つけられて辛かっただろ!?なんで逃げねぇんだよ!!」
「なんで、俺に殴られてたんだよ!!」
いつもみたいに酒は飲んでないのに色々半狂乱になりながら言う父さん。
暴力?傷?ぎゃくたい?
愛情でしょ?
なんでそんな風に言うの。
「もう、こんな生活嫌なんだよ……!」
「俺を加害者にしないでくれ……」
いつも通り、いつも通りじゃない言葉を勝手につらつら俺の言葉も聞かずに重ねる父さん。
「なんで、そんなこと言うの。」
「そんなことって……お前も本当は出ていきたいんだろ!?頼むから出ていってくれよ……」
俺は父さんを愛している。
父さんも俺を愛していたんだよね?
あいしていたのに、
そんなこと言うの?
そこからは思考がおかしくなった気がする。
俺だって愛していたのに、愛情は、俺から与えなかった。
普段しなかった「愛情を与える行為」それを俺の手はし始めていた。
俺が刻みついている愛情を鮮明に、確実に父さんに刻みつけよう。
「はぁはぁッ、はぁ……」
普段こんなことしなかったから、息が切れる。
でも、もっと、もっと、もっと。
やらないと。俺の父さんなんだから。俺のもので。取られたくないから。
だって俺が今まで愛情を与えなかったから父さんは不安になって言ったんだよな?
だから俺が父さんに愛情を与えないと。
あいしているんだから。
あいしていたのに、愛情を与えなくてごめん。
あいしていたのに。ずっと。
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