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《グリード城》
城内は、騎士たちと専属ギルドの人間たちで、
慌ただしい動きに満ちていた。
――原因はひとつ。
グリード王国の「王交代」が、ついに世界に発表されたからだ。
そして、そのど真ん中にいるのが――サクラ女王。
「はぁ……ものすごく忙しい……」
栗色の髪を手入れしながら、
鏡に映る自分の姿にぼやく。
睡眠不足で、目の下にはしっかりとしたクマ。
トロっとした視線が、それを物語っていた。
『__』
「そうね、全部あなたのおかげだわ」
女王は、誰もいない部屋で、
まるでそこに誰かがいるかのように返事をする。
一体、誰と話しているのか――
『____』
「ふーん、そんなことになってるのね。了解……。
それにしても、どうしてそんなに怒ってるの?」
『__』
「わかるわよ。私は、あなたでもあるから」
『__』
「? つまり、新しいのが……ってこと?」
『__』
「なるほど。そちらの件は、キールに頼んであるわ。
彼なら、すぐに探し出してくれるでしょう」
『__』
「ええ。私の身体も――あと数年で消滅する。
それまでに、すべて終わらせるわ」
そんな異様な会話を続けていたところで、
扉を叩くノックの音が響いた。
女王は、鏡越しに自分の顔をざっと整え、
訪問者を招き入れる。
「失礼します、女王様」
入ってきたのは、凛とした姿勢の女性――《タソガレ》。
キール不在の今、彼に代わって騎士たちをまとめる副隊長だ。
「何かしら?」
「はい。先ほどアバレーに住む《ミロク》という者から、
城へ直接連絡がありまして。
仕送り資金を増やしてほしいと申してきたのですが……」
「ミロク……そう、彼はかつて”グリード最強”と謳われた冒険者パーティーのリーダーよ。
城とは、深い縁があるの」
「そうでしたか。ですが……なぜアバレーに?」
「彼には、アバレー王国に親しい友人がいてね。
残りの余生を、その側で静かに過ごしたいと。
……もちろん、あちらの国は人間嫌いが多いから、交渉は難航したわ。
でも、私がアバレーの女王と話し、
極秘で住まわせてもらってるの。キールから聞いてなかった?」
「……申し訳ありません」
「まあ、あなたとキールの関係には深入りしないけど、
最低限の引き継ぎはしておきなさいね?」
「……肝に銘じます。では、彼の件、どうしましょうか?」
「うーん……本当は増やしてあげたいけど、
今は国の出費がかさんでるから、仕送りは現状維持で。
我慢するよう伝えてちょうだい」
「かしこまりました。それでは――」
タソガレは一礼して、静かに退出した。
再び、部屋には女王一人。
だが、静寂の中に――
誰にも聞こえない声が、再び響く。
『女王の仕事なんてどうでもいい……早く……早く……アオイをここへ連れてこい!』
その声を、聞くことができるのは。
この世界で、ただ一人。
サクラ女王自身だけだった――。
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