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《おじいさんの家》
あの日から、何事もなかったかのように、
何気ない日常が戻ってきている。
……大マスターとおじいさんが、何を話していたかは――聞いてない。
(だってさ、だいたい想像つくじゃん。
延滞料金とか? 違約金とか? ……あーもう、聞きたくねぇ)
「おかぁさん、見てみて!」
「お、すごいねぇ!」
ユキちゃんはあの一件以来、
魔法にドハマリしてしまったらしく、
今も外で何かやってる。
ちょうど今――
手に持った葉っぱを、俺の目の前で一瞬で蒸発させた。
(……燃やすんじゃないんだよ?蒸発。
もう火力バカ上がってんじゃねぇか……)
「子供に火遊び教えるって、気が引けるよねぇ……
あ、もちろん夜の火遊びじゃなくて物理的なやつだからね?」
「? なにいってるのおかぁさん」
「気にしないで!」
「ねぇねぇ! おかぁさんもやってみせて!」
……来たな、この瞬間が。
フフフ……驚くなよユキちゃん……
俺はこの世界に来て、結構経った――
結果、最近ようやく!
魔皮紙を発動できるくらいにはなったのだ!
(まあ、今のユキちゃんでも普通にできるレベルだけどな!)
でも安心しろ、こういう時用に俺には最終奥義がある!
「いいよ、見ててね!」
「うんっ!」
ユキちゃんの目がキラッキラ。
まさにワクワクてかてか!な顔で俺を見つめてくる。
――よし、いくぞ。
両手を上げて、某有名アニメキャラみたいにポーズを決める。
オラに、みんなの元気を分けてくれ!!
「はいっ!!」
シーーーーーーーーーーーン。
あたりに静寂が走った。
「……え?」
そりゃそうだ。
だって――
なにもしてねぇもん。
だがしかし!
俺には生まれながらに持ったスキルがある。
「フフッ……ユキちゃんには、まだ難しすぎて分かんないかな?」
名付けて、「子供騙しLv.MAX」!
「すっごーい! すごいすごいすごいすごい!
やっぱりおかぁさんはすごい!」
何が起こったかわからないけど純粋に信じて喜ぶユキちゃん。
(ああああああああああああああ!!!
子供って純粋!! 心が痛い!!!)
「こ、これが大人の魔法ってやつだよ……。
目に見えるものだけが魔法じゃないからね?」
「うんっ! ユキもっとがんばる!」
「でもね、魔法はむやみに使っちゃダメだよ?
自分だけじゃなく、他の人にも危ないから」
「はーい!」
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「じぃじ……また帰ってこないね……」
「うん……どうしたんだろ?」
あの日以来、じいさんは朝早く出かけ、
深夜に帰ってくる生活になった。
しかも、帰るなり即寝。
飯も食わずに、バタンキューだ。
(なんか裏でヤバいことしてるんじゃないだろうな……?
……いや、ありうるな。じいさんだし)
「今日のローストビーフ、上手くできたのに……」
俺は、魔物の肉を使った特製ローストビーフを一口。
スパイシーな香りと、ルモンの酸味が相まって――
おいすぃ~!
「ろーすとびーふっていうの?」
「あ、そっか。こっちじゃ名前違うか……
うーん、お母さん特製の料理だよ。ユキちゃん専用ね♪」
「おかぁさんの特別おごはん!? やったー!!
ユキね、おっきくなったらおかぁさんみたいに、おいしい料理いっぱい作るの!」
「ふふっ、それはいい目標だね」
「そしたらね! じぃじとおかぁさんに食べてもらって、
おいしいって言ってもらいたいの!」
(……おぅ、健気すぎて泣きそうだわ……
オジサン(※性別だけ女)、涙腺決壊しそう)
「楽しみにしてるよ。
あと、もう一人――ユキちゃんが将来、すっごく大切に思う人にもね?」
「たいせつなひと?」
(あ、そっか……この子、同年代の男の子に会ったことすらないんだ……)
「うん。お母さんみたいに、すっごく好きになる人……かな?」
「わかった! じゃあユキ、そういう人に出会ったら、
おっきいお肉料理してあげる!」
「いいね! そしたらその子の胃袋も、ガッチリ掴めるよ!」
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こうして今日も、二人だけの一日が過ぎていく。
そして、夜更け。
また――じいさんは、何事もなかったかのように、
そっと帰ってきて、何も言わず、眠りについた。
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