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俺にとって、君は世界一かわいい女の子だから。
「カッコつけちゃったかなあ」
でも、本当。世界一かわいい女の子。俺にとって、一番大切な女の子だった。そんな女の子が、腕の中で眠っていて、襲いたい気持ちをぐっとこらえるのは至難の業だった。ポーカーフェイスは得意なのに、ステラにも得意だって言われたのに、でも、ばれてて。それが少し恥ずかしくて、悔しくて。
けれど、俺の弱い部分を見ても嫌いにならないでいてくれた最初の女の子だったから。きっと俺は惚れたんだと思う。
災厄のせいで、という言い方は好きじゃないし、ステラにもいいわけだって言われるかもしれないから言わないけれど、記憶がおぼろげながらに、前の世界、ステラにあったのは運命だとすら思った。
兄さんのお気に入りっていう考えは全くなくて、面白そうだからちょっかいを賭けて。そんなステラを好きになってしまった。はじめは、兄さんへの嫌がらせだった。兄さんが好きなものは壊したい、手に入れたい、奪いたいって。それが、災厄によって倍増された気持ち。
それが兄さんもステラも傷つけて、嫌われたんじゃないかって思った。
災厄のこと……あの最後の夜のこと、ステラは何も知らないだろう。兄さんも俺も、多分あの騎士も……何があったかステラに話していない。みんな言うのがつらいんだ。それほどまでに、ステラに隠したいことだった。もしかしたら言っているのかもしれないけれど、すべてを放したわけではないだろう。俺が兄さんを殺そうとしたこと、殺されようとしたこともきっと兄さんもステラに言っていないだろうから。
(今思えば、カッコ悪いし、ただの思春期……反抗期だって思われるかもね)
ステラの頬をつつくが、死んだように眠っている。
疲れているのは知っているし、兄さんからある程度の情報は聞いていたからおおよそ何をしたのかは知っている。本当に無茶なことをすると思ったし、優しすぎて、自分のことを大切にできていないステラのことはちょっと嫌いだった。自分のみが大事なはずなのに、彼女はそうしようとしなかった。それは彼女の無意識かもしれない。彼女自身は、自分のことを弱いし、優しくないと言っているけれど、にじみ出る優しさは、周りの人間は気づくだろうし。
(兄さんが、ステラを守り切れなかった理由もだいたいわかるから、せめるつもりはないよ。それに、どうせまた、何かあったんでしょ?)
ここにはいない兄さんのことを思い浮かべる。兄さんも兄さんで自分のことを大切にしない。そして、今はステラのことばかり
で周りが見えていない。俺だって見えなくなるけれど、兄さんまで見えなくなったら、誰がステラを守れるというのだろうか。
でも、多分ここに来る。どんな形でも、兄さんはステラを取り戻しに来るだろう。その時俺はすっとステラを返すことができるだろうか。また、悪役のふりをしなければならないのだろか。
めぐる思考はまとまってくれなくて、イライラしてきた。
ステラが腕の中で苦しそうにうめくので、俺は何とかしてあげたくなって彼女を抱きなおすけれど、それでも彼女の顔色は良くなかった。理由がわからない。俺に治癒魔法が使えればいいのだが、俺の魔法とステラの魔法じゃ相反するため傷つける結果にしかならないだろう。彼女を救えないそれにも腹が立つ。すべてに、すべてに、すべてに。
早く兄さんが来てくれればいい。
兄さんならどうにかしてくれる。
兄さんなら……って。自分のどうしようもなさを、他人に、兄さんにかばってもらうしかないのだ。こんな風に甘えられるようになったのはステラのおかげだけど、それでも俺はこんな自分が好きになれなかった。
「う……んん……」
「ステラ、苦しいよね。つらいよね。俺が何かしてあげられたらいいのに」
「ん……」
額に汗を浮かべて、青い顔をしている。先ほどまでは緊張して体調が悪くなっているだけだと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。ほかに理由があるとするのなら、精神的肉体的疲労だろう。聞くところによれば、ずっと肉塊と戦っていたらしいから、ありえない話ではない。あの中に入って、何度も何度も苦しい思いをして。それを作っているヘウンデウン教に属していることが、俺にとってもかなりつらいことだった。彼女を助けたいのに、彼女と敵対する組織に属し続けなければならないこと。でも、そうしなければ矛盾が生まれ、ステラたちがうまく動けなくなる。これは、辛抱だった。そして、こういう場合が、一番どうしようもないのだと。
「……リース」
「……ステラ」
名前をつぶやく。でも、その名前は俺の出も兄さんのでもなかった。それは、あの記憶をなくして洗脳されている皇太子の名前。ステラを傷つけているのに、傷ついたふりをしている哀れな男の名前。
兄さんが一番嫌いなタイプだろう。そして、兄さんが今一番敵対している男でもある。
俺のものにならなくても、兄さんのものになれば――なんてひどいこともかんがえたけれど、ステラにとって、皇太子殿下は俺たちが知らないような関係があって過去があって。だから、ステラはあの人を切り捨てられない。あの人の記憶を取り戻したいって思っているんだろう。
俺たちにはわからない愛がそこにある。
わかったところできっと勝ち目がない。
「ステラは、早く取り戻したいんだよね。前の世界を、皇太子殿下も。俺もだよ。そして、また君と笑いあいたいって思ってるんだよ。だから、苦しまないで。俺たちが何とかするから。泣かないで」
「……」
目元にできた隈。前よりもやつれているように見えて、見ているほうが痛々しい。どうしようもなさで胸がいっぱいになっていって、マイナスの思考に陥る。そういうところに付け込んでくる災厄の影が。俺をむしばんで過去の俺へと戻そうとしてくるのだ。自分の弱さを垣間見る。過去の自分が手招きする。何も変われていないんだから、感情にゆだねろと。でも、感情にゆだねたらきっと、俺は自分を傷つけて、皇太子殿下を殺して、兄さんをまた傷つつけて。ステラを自分のものにしようってひどいことをしてしまうと思う。
嫌われたくない。
嫌われたら生きていけない。
ステラのことが好きだから。好きだけど、手に入らない遠い星だと思っているから。焼けこげるくらいがちょうどいい。その光がなくなるくらいなら、俺が閉じ込めたい。そんな気持ち。
自分の色ではないけれど、闇色に染めた彼女の髪をさらりととく。黒もなかなか似合うけれど、やっぱり、自分と同じ色に染めればよかったかななんても思ってしまった。それはちょっと強欲すぎるな、とやめるけれど、開いてくれない彼女の瞳を思い出し、目を細める。
頑張らなくてもいいよ。頑張らなくていいから。
彼女の手を握って、思いを流し込む。絶対に伝わっていないだろう。伝わっていたとしても、それは表面だけで彼女はきっと無理をする。だったらやっぱり閉じ込めておいたほうがいいんじゃないかと思った。
俺は、足で扉をけり開けて、屋敷の外に出る。そして、屋敷の外の噴水に腰かけて、彼女を抱いたまま少しうつむき気味に、彼女に覆いかぶさるように下を向く。
まだ起きない、ステラを見て、胸が張り裂けそうになる。俺の魔法が悪かったかな? とすら思えてきて、泣きそうになってくる。強引なやり方は、きっとステラは好きじゃない。
「キスしたら、起きる……なんて、そんなおとぎ話みたいだよね」
「…………ラヴィ?」
このまま眠り続けてくれれば、と思って顔を近づければ、開く前兆がなかった彼女の瞳が開かれる。美しい透明の瞳が弱い俺をうつし、取り繕うように俺は笑顔を作る。
「おめざめかな、お姫様」