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第14話:お散歩配信での大ピンチ!
「はーい、世界中の皆さんこんにちは! 今日は特別編! 古民家を飛び出して、裏山の『お散歩配信』をお届けしまーす!」
抜けるような十勝晴れの青空の下。
新緑が眩しい裏山のハイキングコースに、専属カメラマン・小春ちゃんの元気な声が響き渡った。
『お散歩配信キターーー!!』
『アウトドアなシロ様も美しい……!』
『外の光を浴びて、シロ様の毛並みがさらに発光している件』
『主、今日はクワじゃなくて熊よけの鈴つけてるなww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000ギフト )=”Beautiful nature! I will buy this mountain for Shiro!“(美しい自然だ! シロのためにこの山を買おう!)』
『石油王がまた山を買おうとしてるぞww 誰か止めろww』
今日も同接(同時接続者数)は配信開始わずか数分で50万人を突破。
ハリウッド女優のシャーロット・エヴァンス効果もあり、海外からの視聴者が半数以上を占めるという、日本のいち個人チャンネルとしては完全にバグった数字を叩き出していた。
俺は腰に熊よけの鈴をぶら下げ、歩きやすいトレッキングシューズを履いて、小春ちゃんの前を歩いていた。
そして俺たちの足元には、ハーネスもリードもつけていない純白のもふもふ――シロが、楽しそうに尻尾をピンと立てて歩いている。
「シロ、あんまり草むらの奥に入っちゃダメだぞ。マダニとかいるかもしれないからな」
『ニャン♪』
俺が声をかけると、シロは「わかってるわよ」とばかりに可愛らしく鳴き、俺の足元にピタリと寄り添う。
その優雅な足取りは、まるで森の精霊だ。事実、シロが歩いた後の獣道には、ほんのりと真珠色の光の粒子(マイナスイオン)が舞い散り、周囲の空気がアルプスの山頂のように清浄化されていくのがわかる。
「お兄さん、見てください! シロちゃんの周りに、蝶々がいっぱい集まってきてますよ!」
「うわ、本当だ。……なんか、ディズニープリンセスみたいになってるな」
シロの放つ圧倒的な神聖オーラに惹きつけられたのか、色鮮やかなモンキチョウやアゲハチョウが数十匹、シロの頭上をくるくると舞っている。
シロは嫌がるどころか、蝶たちと一緒に遊ぶように、時折ふんわりと(※地上30センチほど物理的に滞空しながら)ジャンプしてみせた。
『妖精の戯れかよ……尊すぎる……』
『CGクリエイターの俺から見ても、あの光と浮遊感は再現不可能』
『仕事のストレスでハゲそうだったけど、この映像見てたら毛根が復活してきた』
『リアル白雪姫(猫)』
「あははっ、コメント欄も大絶賛ですね! 山の空気も美味しいし、最高の休日配信になりそうです!」
小春ちゃんがジンバルを構えながら、満面の笑みで振り返る。
俺も、都会のコンクリートジャングルでは絶対に味わえない、この圧倒的な自然のマイナスイオンとシロの癒やしパワーに、心の底からリラックスしていた。
そう、完全に油断していたのだ。
ここが、人間のルールなど一切通用しない『大自然のど真ん中』であるという事実を。
ゆうき あきや
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#心理描写重視
――ピタッ。
突然、シロの足が止まった。
頭上で舞っていた蝶たちが、何かに怯えたように一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
同時に、今まで賑やかに聞こえていた野鳥のさえずりが、まるでスイッチを切ったかのように完全に途絶えた。
「……ん? どうした、シロ」
『…………フゥーッ』
シロが、これまで一度も見せたことのないほど低く、地を這うような唸り声を上げた。
全身の真っ白な毛が、警戒心を露わにして逆立っている。
「え……お兄さん、なんか……急に寒く……」
小春ちゃんの声が震えた。
初夏を思わせる陽気だったはずなのに、背筋を氷柱で撫でられたかのような、強烈な悪寒。
そして、風に乗って運ばれてきたのは、強烈な『獣の臭い』だった。
ガサッ……、バキバキバキッ!!!
俺たちの前方、わずか10メートルほど先の鬱蒼とした笹藪が、まるで小型トラックが突っ込んできたかのような凄まじい音を立てて薙ぎ倒された。
「……っ!!」
俺の心臓が、早鐘のように激しく警鐘を鳴らす。
現れたのは――圧倒的な『暴力』の化身だった。
立ち上がれば優に3メートルに迫るであろう、巨大な漆黒の塊。
丸太のように太い四肢、筋肉の鎧で覆われた胴体、そして、人間の頭など一撃で粉砕できそうな巨大な顎。
北海道の頂点捕食者。野生のヒグマだ。
『グルルルルルルゥゥッ……!!』
地鳴りのような咆哮が、ビリビリと空気を震わせる。
俺は一瞬で全身の毛穴が開き、冷や汗が噴き出した。
熊よけの鈴など、このサイズの規格外のバケモノの前では、ただのディナーベルでしかない。
動物園のガラス越しに見るのとは次元が違う。目が合った瞬間、「あ、これ死んだな」と本能が理解する絶対的な絶望感。
「こ、小春ちゃん……っ、絶対に、背中を向けて走るな……」
俺は38年の人生で培った、いや、限界社畜時代に叩き込まれた「最悪の事態における緊急対応マニュアル」を脳内でフル回転させながら、咄嗟に両手を広げ、小春ちゃんとシロを庇うように前に出た。
「お、お兄、さん……っ、どうしよう、ヒグマ……ヒグマが……っ」
小春ちゃんは腰を抜かしかけ、ジンバルを持つ手がガタガタと激しく震えている。
しかし、その震えるカメラのレンズは、無慈悲にも目の前に立ち塞がる巨大な死神(ヒグマ)の姿を、世界中の50万人の視聴者へと克明に配信し続けていた。
『!?!?!?!?』
『は!? 嘘だろ!?』
『BEAR!!!!! RUN!!!!!(熊だ!! 逃げろ!!)』
『おいおいおいおい、マジの野生のヒグマじゃねぇか!!』
『デカすぎる!! なんだあのサイズ、車よりデカいぞ!!』
『主、逃げろ!! 死ぬぞ!!』
『警察!! 誰か地元の警察に電話して!!』
『Oh my god… Please be safe…(オーマイガー……無事でいてくれ……)』
さっきまで平和な癒やし空間だったチャット欄が、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
世界中の視聴者が、画面の向こうでこれから起こるであろう『最悪の惨劇』を予感し、悲鳴を上げている。
ザッ、ザッ……。
ヒグマが、鋭い爪で地面を抉りながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
逃げ場はない。距離はわずか5メートル。俺が動いた瞬間、時速50キロで突進され、首の骨をへし折られるだろう。
「……小春ちゃん、俺がこいつの気を引く。その隙に、シロを抱えて坂を下って逃げろ」
俺は極限の恐怖で震える足に無理やり力を込め、コールセンターで鍛えた『感情を殺した声』で小春ちゃんに告げた。
「そ、そんなっ! お兄さんを見捨てて逃げるなんて――!」
「いいから行け!!」
俺が覚悟を決め、ヒグマに向かって一歩踏み出そうとした。
まさにその時だった。
『……ニャァ』
俺の足元から、いつもと変わらない、甘ったるくも優雅な鳴き声が響いた。
「え?」
見下ろすと、俺の足元にいたはずのシロが、俺を追い抜き、ゆっくりとした足取りで、巨大なヒグマの真正面へと歩み出ていたのだ。
体重300キロのヒグマと、体重5キロの真っ白な猫。
その体格差は、大人と小石ほどもある。
「おい、バカ、シロ! 戻れ!!」
俺が絶叫して手を伸ばした、次の瞬間だった。
コメント
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第14話、めちゃくちゃハラハラしました! お散歩配信でのほのぼのムードから一転、ヒグマ出現という急展開に心臓がバクバクです。シロがまさかヒグマの前に立ちはだかるとは……体格差がありすぎて逆に怖い。シロには何か秘密がありそうな伏線がこれまでにもありましたが、この状況でどう動くのか、続きが気になって仕方ないです!