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青空の下で、私は新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。本当に清々しい。早朝の空気はまだ誰にも汚されていない感じがするから、すっごく大好き。
「優ちゃんって、朝はいつもニコニコしてるよね。見てるとこっちまで笑顔になっちゃうよ。朝だけだけど(ボソッ)」
「あ、朝だけなの!?」
私のことを優ちゃんと呼んだその女の子の名前は花園華子。私の幼稚園からの大切な幼馴染。そんな彼女と肩を並べて、今は学校に向かって歩いている。いつもと同じように軽口を交わしながら。
ちなみに、私のフルネームは祖月輪優子この名前、というか名字は実のとろこ、あんまり好きじゃない。だって全然可愛くないじゃん! 乙女らしくないじゃん! もっと女の子らしい名字だったら良かったのに。
「うん、朝だけかな。だって優ちゃんって基本的にバカじゃん?」
「ちょっと待って! ううん、すごく待って! 今ものすごく酷いことを言ったよね!? あ、でもまあいいか。朝はすっごく気持ちいいから、嫌なこととか悩み事とかすぐに吹っ飛んじゃうんだ。だからそんなの気にしない気にしない」
「え? 優ちゃんでも悩みなんかあるの?」
「あるよ! そりゃあるよ! 華ちゃんは幼馴染なんだから知ってるじゃん! 今日だってすっごく悩んでたんだから! 宿題、やってきてないんだよねえ。でもその悩みも吹っ飛んじゃったけど」
「……それ、吹っ飛んじゃダメだと思うんだけど」
「いいのいいの。大丈夫! ぜーんぜん大丈夫! 後で華ちゃんに写させてもらえば万事オッケーだから」
「なんか、優ちゃんって小学生の頃から全然成長してないよね……? 私達ももう高校生になったんだからさ、もう少ししっかりしなよ? あと、宿題は写させないからね。ちゃんと自分でやらないと。本当にバカになっちゃうよ?」
「う……」
な、何も言い返せない。
にしても、華ちゃんって本当にしっかりしてきたよなあ。確かにすごく成長してるって感じ。でもさ、幼馴染にここまで『バカバカ』って言われると、さすがにちょっとショックなんですけど。しかも全然成長してないとか言われちゃったし。
が、しかし。この優ちゃんを甘く見ちゃいけませんな。
「ちゃんと成長してるもん! ほら!」
言って、私は胸を張って華ちゃんに成長をアピール。どうだ見たか!
「優ちゃん……現実を見ようよ。ペッタンコじゃん」
「ぺ、ペッタンコ!? いやいや、よく見てよ! 昨日測ったら大きくなってたし! 0,3センチ大きく成長してたし!」
「それ、ただの誤差だと思うんですけど。それにさ、女子なんだから胸をそうやって張って見せたりするのやめなよ? 少しは恥じらおうよ。どうせ張って見せるだけの胸なんかないしんだし」
酷っ! そうですか、誤差ですか。昨日の夜に測って歓喜してた私がバカみたいじゃん! ……あれ? もしかして私って本当にバカなの? いやいや、そんなはずはないよね。
というか、華ちゃんには分からないでしょうよ。私の気持ちなんて。中学生になってからどんどん胸が大きくなっていく華ちゃんには。今は何カップなんだろう? Eカップ? それともFカップ? どちらにしろ、Aカップの私の気持ちなんて理解できないでしょうね! すっかりコンプレックスになっちゃったよ!
「ちょ……! ゆ、優ちゃん! 私の胸、見すぎだから!」
「いいじゃん、減るもんじゃなし。とりあえず後で触らせて! そして揉ませて! もしかしたらご利益があるかもしれないから」
ガクリと肩を落として華ちゃんは「はあ……」と溜め息をひとつ。
「お願いだからもう少し成長してよ、優ちゃん……」
「だから成長してるってさっき――」
「胸の話じゃなくて! 私が言ってるのは性格の話! そんなんじゃ、いつまで経っても彼氏なんてできないよ? せっかく可愛いのにほんともったいない」
「いやー、可愛いだなんてそんなー。照れちゃいますなあ」
「自分にとって都合のいいとこだけ切り取らないの!」
でも、そういえば華ちゃんってこの前、初めて彼氏ができたんだっけ。羨ましすぎる……。だけど不思議なんだよね。この前、恋について悩んでるって言われたから一緒に考えたりしてたんだけど、その翌日には好きだったその人と付き合うことになったみたいだし。電光石火の如く。
「ねえ華ちゃん? この前できた彼氏とはどう? 上手くやっていけそう?」
「え!? か、彼氏のこと!? あ、う、うん……なんか言うの恥ずかしいなあ。大丈夫、ちゃんと仲良くしてるよ? でも、どうして急にそんなこと訊いてきたの?」
「うーん、なんか気になっちゃって。そっかそっか。毎晩のようにあんなことやこんなことをしてイチャイチャしてるんだ。羨ましい限りですなあ」
「言ってない! そんなこと一言も言ってないから! はあ……この性格のままじゃ当分の間は無理か」
そ、そこまで私の性格ってダメダメなのかな……。
でも、そういうことは気にしないし、気にもならない。だって――
「大丈夫! もうすぐ私の元に白馬に乗った王子様がやってくるんだから! 迎えに来てくれるんだから! あー、楽しみだなあ。うふふ」
「はあ……また始まった。相変わらず、優ちゃんの頭の中ってお花畑だよね。いや、ちょっと違うのかな。お花畑って言うよりも妄想癖ってやつなのかな」
「も、妄想癖!?」
そして華ちゃんはポンと私の肩に手を置いた。
「優ちゃん。現実、見ようよ」
ええ……。そんな真面目なトーンで言われちゃうと、さすがにちょっと落ち込むなあ。でも、私は知ってる。今は酷いことを言ったりしてきてるけど、華ちゃんはいつも私のことを心配してくれる優しい人だっていうことを。幼馴染だから感じるの。長い付き合いだもん。幼馴染でもあり、私が一番信頼してる親友。それが花園華子。
「そういえばさ。優ちゃんっていつも『白馬に乗った王子様』だとか言ってるけど、好きな男子のタイプとかいるの?」
「もちろんいるよー。って、話したことなかったっけ?」
「うん、聞いたことないなあって今さら思って。ねえねえ、一体どんな人がタイプなのよ? 誰にも言わないから教えてよー」
さすがは女子。恋バナの話になると夢中になっちゃうんだ。すっごくニヤニヤしてる。いつもの華ちゃんらしくなく。目までキラキラしてるし。
「えーとねえ、まず髪の毛の色は黒い方がいいかなあ。ちょっと長めに伸ばしてたりすると、もうサイコー。あと、優しい人がいいんだけど、少し陰のある人に魅力を感じちゃうかなあ。あ、もちろん顔はイケメンね」
「へえー、そうなんだ。でもそれ、なんだか黒宮先輩みたいだね」
「黒宮、先輩……?」
「え? もしかして優ちゃん、知らないの? 黒宮先輩のこと」
「う、うん。初めて聞いた。どんな人なの?」
その質問に、華ちゃんは顎に手を当て、何かを考える。どうしたんだろ? そんなに言いづらいことなのかな?
「うん、なんでもない。ほら、言霊ってよく言うじゃない? だから私、あんまり人のことを悪く言ったりしたくないんだよね」
「悪く……言う?」
なんだか余計に興味を持っちゃった。黒宮先輩かあ。どんな人なのか一度でもいいから会ってみたいかも。
と、思ってたら。
「あ! 優ちゃん! 走ろう! このままじゃ遅刻しちゃうかも!」
「え!? ち、遅刻!? ごめんね華ちゃん、私の話で歩くの止めちゃって! うん、急ごう! 遅刻なんてしたら、男子によくない印象を持たれちゃう! もしクラスメイトの中に王子様がいたら一大事だよ!」
「いや、別にそんなこと私は気にしてないんだけど……いいから急ごう! あ! 一応言っておくね。優ちゃんはもうすでに手遅れだから! クラスの男子全員から『変な奴』って思われてるから!」
「嘘でしょ!? って、そんな重大な事実、今言わないでよーー!!」