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第1話:入学、ツリーハウスにて
ツリーハウスの最上層、その幹を中心に広がる空中回廊。
まるで森と都市が融合したような構造の中、碧素の光が枝々を這い、建物そのものが呼吸しているように揺れていた。
「すっげー……ここが“フラプロ”か」
茶色のくしゃっとした髪、どこか眠そうな目元をした少年――ゲンは、ツリーデッキの縁に腰を下ろし、下界を見下ろしていた。
黒に近いネイビーブルーの制服に、フラクタル起動補助端末が腕に装着されている。体格は細めだが、瞳だけは鋭く光っている。
その横で、整った髪型に眼鏡をかけた真面目そうな少年が手帳に何かを書き込んでいた。
彼の名はタカハシ。碧族化して半年の努力家で、ゲンとは正反対の性格だ。
「ゲン、座学のプリント、捨ててきたとか言うなよ。今日は初回の“基礎コード演習”なんだぞ」
「いや、捨ててないよ。読んでないだけ」
「……同じだよそれ!」
教室ではすでに、演習用ホログラフが展開されていた。
白衣の上からベストを羽織った男――スエハラ先生が、早速声を張る。
「ようこそ、フラクタルプログラム学舎、通称“フラプロ”へ! まずは“命の縮図”を書けるようになろうな!」
教室中に響くその声と同時に、天井からフラクタル模様がスーッと光り、黒板が透過表示に変わる。
その様子に、生徒たちは一斉に「おぉ……」と感嘆の声を漏らした。
演習開始直後――
タカハシのコードは安定していた。
《GRAVITY = 0》
彼の足元からふわりと浮き上がる青白い足場。
「……いいぞタカハシ! 安定した起動波形!」
「ありがとうございます!」
一方で、ゲンのコードは――
《LIGHT = “走れ”》
と、ルール違反の一文。
「コードに走らせる概念って何!?」と、タカハシがツッコミを入れる間もなく、ゲンの机周辺に発生した光の模様が突然――
「ドォン!」
爆ぜた。
白く光るフラクタル模様が、彼の背後のホロ壁に一気に走り、空間が揺れる。
「げっ、暴走!?」
「いやぁ……走るって言っただけなのに、走りすぎたかー?」
教室内は一時騒然。
「実戦派っていうのは、そういう意味じゃないからな!?」「まーた誰か吹き飛ぶとこだった!」
スエハラ先生がバリアフラクタルで場を安定させ、教室を静める。
だがそのあと、先生はふっと笑って言った。
「いいぞ。危ないのは最初だけだ。だが“命の使い方”に、慣れるなよ。」
その言葉に、生徒たちの表情が引き締まる。
帰り道、タカハシはふと呟いた。
「……でも、あの光。なんか綺麗だった」
「でしょ? 感覚的に組んだんだけどさ、もうちょっと“意味”つけたら、制御できそう」
空に浮かぶ光の回廊が、微かに揺れていた。
フラクタルの学び舎――その最初の一歩が、確かに刻まれた瞬間だった。