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焔垂は一人、飛鳥もとへ小走りで近づいた。
「あの・・すいません」
突然声をかけられた飛鳥は、不思議そうに振り返る。
「はい?なんですか?」
焔垂は真剣な表情で尋ねた。
「江古田飛鳥さんですよね?」
飛鳥の表情が驚きに変わる。
「え?何で私の名前を?」
焔垂はためらうことなく続けた。
「あなたはこの交差点で事故に遭いましたよね?
その事について詳しく話を聞かせてもらえませんか?」
その瞬間、飛鳥の目つきが鋭くなる。
「何で見ず知らずの人に話さなきゃいけないんですか?」
警戒心を隠そうともせず、飛鳥は踵を返した。
「用があるので帰らせてもらいます」
早足でその場を立ち去ろうとする飛鳥を、焔垂は慌てて呼び止める。
「なら言葉を変えます」
飛鳥は苛立ったように振り返る。
「は?だからあなたに話す事なんて──」
焔垂は静かに、確信を持って言い放った。
「あなたは田原坂中学出身ですよね?」
「だから話すことなんて無いってば」
飛鳥はうんざりした様子で歩き出す。
「三瓶鈴蘭という名前に聞き覚えありますよね?」
その名前を耳にした瞬間、飛鳥の足がぴたりと止まった。
重苦しい沈黙が流れる。
焔垂はゆっくりと言葉を重ねる。
「聞かせて欲しいんです、あなたは
三瓶鈴蘭と一緒になって──」
飛鳥は焔垂の言葉を遮るように口を開く
「わ、私は・・・私は悪くない!!!」
焔垂は思わず目を見開く。
「え?」
飛鳥は涙を浮かべながら叫び続けた。
「あれは鈴蘭に命令されて、仕方なくやっただけで
まさか、あんな事になるなんて思ってなかった!
だから・・だから・・私は悪くない!」
そう叫ぶと、その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込み、声を上げて泣き始めた。
突然の出来事に焔垂は狼狽える。
「あ、いや、その、ちょっと、え?ちょ、あっ」
後ろで見ていた茜が慌てて駆け寄る。
「ちょっと!焔垂!何いじめてんの!!」
「いや、違うって!この人が勝手に」
さらにさくらまで冷ややかな視線を向ける。
「うわぁ〜・・・引くわ〜・・・」
「だから違うって言ってんだろ」
焔垂は必死に弁解するが、完全に悪者扱いだった。
そんな中、信愛だけは静かに飛鳥のもとへ歩み寄り、優しく声をかける。
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
「とりあえず落ち着いて話せる場所に行きませんか?」
飛鳥はしばらく黙ったまま涙を拭い、ゆっくりと頷く。
「わ、わかった・・・」
◇ ◇ ◇
それから場所を近くの公園へ移した一行。
木陰のベンチに腰掛けた飛鳥へ、信愛は穏やかな笑みを向ける。
「どうです少しは落ち着きました?」
飛鳥は小さく息を吐き、静かに頷いた。
「う、うん・・・」
そして、恐る恐る尋ねる。
「それで、私に聞きたい事って?」
信愛は姿勢を正し、落ち着いた口調で切り出した。
「古海商店街で事故に遭った時の詳しい状況と
あなたが田原坂中学に通っていた時の事
それを出来る限り詳しく聞きたいんです」
飛鳥は困惑したように眉を寄せる。
「事故について聞きたいってのは分かるけど
なんで中学の頃の話を聞きたいの?」
信愛は正直に答えた。
「私たちは狗頸学園に通っていて
個人的に交差点での事故について調べてるんです」
飛鳥はその学校名に反応した。
「狗頸学園って、鈴蘭と同じ高校・・・」
しばらく考え込んだ後、不安そうな表情で尋ねる。
「って事は鈴蘭からの命令?」
信愛は首を横に振った。
「命令?いえ、私たちは単なる好奇心で調べてるだけで
三瓶鈴蘭さんとは関係ありませんよ?」
飛鳥はどこか安堵したように肩の力を抜く。
「そ、そう・・・」
しかし疑問は消えなかった。
「なんで私たちが三瓶さんから
命令されてると思ったんですか?」
飛鳥は視線を逸らし、歯切れ悪く答える。
「あ、いや・・・深い意味はない」
信愛はそれ以上追及せず、小さく頷いた。
「そ、そうですか・・・」
すると飛鳥は改めて問い返す。
「というかなんで私のところに?」
今度は焔垂が口を開いた。
「聞き込みをした結果、例の事故の被害者4人は
同じ田原坂中学の出身だという事が分かりました」
押し黙る飛鳥を尻目に焔垂は続ける。
「そしてその4人は中学の頃に
とある女子生徒をいじめていた
可能性があるという事実にたどり着きました」
重い沈黙が流れ、焔垂は飛鳥を真っ直ぐ見つめた。
「俺たちはその子の名前を知りません
ですからその子の名前を教えて欲しいんです」
飛鳥は警戒するように目を細める。
「なんで知りたいの?別が事故ったのは単なる──」
その言葉を遮るように信愛が静かに口を開いた。
「濁さずに言うと、あの交差点には田原坂中学
の制服を着た女子生徒の霊が居ます」
飛鳥は思わず声を上げた。
「は?れ、霊?」
茜が信愛の言葉を補足する。
「信愛には霊感があって霊が視えるんです」
飛鳥は信じられないという表情で首を振る。
「ま、まさか、そんな事って
漫画やアニメじゃあるまいし・・・」
それでも信愛は穏やかな表情を崩さなかった。
「信じれないかもしれませんけど本当の事なんです」
焔垂も静かに頷く。
「実際に俺は取り憑かれました」
飛鳥は息を呑む。
「取り憑かれたって・・何・・それ」
やがて、何かを確信したように呟いた。
「ならあの事故は千歳の復讐だ!
とでも言うつもり?」
その名前に、信愛たち4人の表情が変わる。
信愛は静かに問いかけた。
「千歳?それがあなた達が
いじめてた女子生徒の名前ですか?」
公園に静かな風が吹き抜ける。
飛鳥は長い沈黙の末、ゆっくりと口を開いた。
「そ、それは・・・」
その様子を見つめながら、信愛は静かに言う。
「教えてください」
飛鳥は観念したように目を伏せ、小さく呟いた。
「春日井千歳・・・」
その名前を聞いた瞬間、さくらが思わず反芻する。
「春日井・・・千歳」
信愛は確認するように尋ねた。
「それが名前ですか?」
飛鳥はゆっくりと頷くと、信愛はさらに一歩踏み込む。
「さらに詳しい話をお聞きしても良いですか?」
飛鳥は再び押し黙る。
公園を吹き抜ける風の音だけが、その沈黙を埋めていた。
やがて彼女は意を決したように顔を上げる。
「わ、わかった・・全部話す」
コメント
1件
飛鳥さんの「私は悪くない!」って叫び、すごく胸に刺さりました。あの瞬間、彼女がずっと抱えてきた罪悪感と恐怖が一気に溢れたんだなって。それに、焔垂さんがまた悪者扱いされてて思わず笑っちゃいました(笑)。千歳さんという名前が出てきて、ますます気になる展開ですね。続きが待ち遠しいです!