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また今日も午後から雨の予報。
俺は古いランドリーで洗濯物が乾くのを待って椅子に座りながら随分読み込まれた置いてあった漫画を手に椅子に座っていた
最近近くに新しくて広いランドリーが出来たからか、ここには俺1人だけ、稼働しているのも1つの乾燥機だけ···そんな状況だった。
けど俺はここがわりと気に入っていた。待つこともなく、静かでこじんまりとした落ち着く空間。
もう何度も読んだかわからない、セリフまで覚えてしまった漫画を読みながら待つのがお決まりだった。
ウィン、と少し動きが鈍い自動ドアが開いて白いぶかっとしたロンTとだぼっとしたジーンズ、これまたゆるいサンダルの格好をした俺より小柄な男性が入ってきて乾燥機に洗濯物を放り込み、俺の隣の隣の椅子に座った。
と、いってもここには椅子が3つしかないのだけれど。
「それ、おもしろい?」
いきなり話しかけられて、最初は俺か?と思ったけどここには彼と俺の2人しかいない。
「あ、うん。面白いよ、読む?」
「うぅん。···ねぇ、どんな話?」
気になるなら読めばいいのに。
ここには最終巻まで全て揃っているのだから。
「えっと···鬼に、家族を殺された少年の話」
「ふぅん···それは、悲しい話だね」
少し目を伏せる彼を見て、そういうのが苦手なのかなと慌ててしまう。
「けど、仲間が出来て辛いこともあるけど幸せなこともたくさんあるから···それに鬼もたくさん倒すことが出来たんだ」
「なら良かった···現実は悲しいことばかりだから、漫画ではせめて報われてほしいもん」
少し笑ったその顔は少し前髪に隠れていたけど儚げで、綺麗だった。
「うん、悪いことばかりじゃない」
「おにーさんは、優しいね」
「···そうかな。このマンガ、面白いところもあるから気になったら読んでみなよ」
その時、くるくる回っていた俺の服が止まって少しだけランドリーが静かになった。
ふわふわのそれをカゴに詰めて彼にじゃあ、お先に。と挨拶する。
「うん、じゃあまたね、おにーさん」
また、彼に会えるんだろうか。
しばらく、帰ってからも彼の横顔を思い出してしまっていた。
数日後、また俺はそのランドリーに向かった。
行きは重たいカゴの中身が帰りはふわふわと温かくて軽い、それだけで心も軽くなる。
3つある椅子の真ん中、サンダルを脱いで膝を抱えて丸まっている人は···前に会った彼みたいだった。
黒い少し長めの髪と膝の上に顔を伏せているから顔は見えないけどその服装は前とたぶん同じだった。
乾燥機に洗濯物を入れる音で彼は顔をあげたようで、背中から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「この前のおにーさんだ」
「まさかまた会うなんて」
「嬉しい、僕は会いたかったよ」
まるでナンパされてるみたいで少し戸惑ったけど、立っているのもあれだし、と彼の隣に座る。
「なんかナンパみたい」
「おにーさんは男が好きなの?」
「そう、って言ったらどうする?」
そんなことはないけどなんとなくからかって見たくなってにやりとそう返すと彼はふふ、と笑った。
「嬉しいかも、僕も好きだから」
「···冗談、だったんだけど」
「じゃあ僕もじょーだん」
からかうつもりが···嘘かほんとか分からない彼は少しこの前より疲れてそうな表情をしていた。
「···なんか悲しいことがあった?」
「···そうだね、彼にフラレたくらい。元々付き合ってもなかったのかも、僕は好きだったけど。僕の愛は重たすぎるんだって、もっと遊びたかったのに期待外れだってさ」
「···そんなこと言う奴はロクデナシだ、きっとどこかで痛い目に遭う」
「あの漫画の鬼みたいに?やっぱりおにーさんは優しいね」
気付けば彼の洗濯物は乾燥が終わっている、けど俺からはあえて言い出さないことにした。 もう少し話がしたかったから。
「そのおにーさんっていうのやめない?俺、若井っていうんだ」
「わかい···僕は元貴。家、近いの?」
「すぐ裏のアパート。元貴は?」
「僕は新しくできたコインランドリーの近く」
じゃあそっちに行けばいいのに、ここまで歩くと急いでも15分はかかる。
「あの日はなんとなく散歩ついでに
···今日は、若井に会えるかなってここにきた」
やっぱ俺、口説かれてる?
ドキッとして目をそらして外を見ると予報より早く雨が降り出していた。
「あ···雨だ···少し待ってたら止むかな」
どうやら傘も持ってないようだし、乾いた洗濯がこの雨の中帰ったんではまた濡れてしまうだろう。
「···俺んち、来る?どうせここ誰も来ないからそのままでもきっと誰も困らない」
「···いいの?こんな僕を連れ込んで」
「連れ込むって···別に元貴悪いやつじゃななさそうだし、いつ止むわかんないし」
「若井がいいなら、行く」
元貴はサンダルを履いて俺の腕をひっぱった。
「若井、いこ?」
急ぎ足で元貴とアパートへ帰る。
雨は思ったより強く、濡れた元貴にタオルを差し出した。
「何か飲む?コーラかお茶か···コーヒーも」
コップを取ろうとしたその時、後ろから元貴に抱きつかれる。
「なんだか少し寒くなっちゃった」
「···確かに」
急に背中に人の体温を感じて、それが連絡先も知らない、何してるかも知らない人のものなのに俺は嫌じゃなかった。
「やっぱり口説かれてるね、俺」
冗談っぽく言って、俺の腰のあたりに回された冷たい手を包みこんで温めてあげる。
「···うん、好きになっちゃいそう。失恋したばっかりだし」
「元貴はもっと自分を大事にしたほうがいいよ、俺がひどい人だったらどうするの?」
俺に抱きつく力が強くなったけど、そこにいるのに曖昧で繊細で壊れてしまいそうな元貴をどうすることもできない。
「ひどくてもいい、好きじゃなくても···僕、声出さないしなんでもしていいから···しようよ、若井」
しようよ、という意味が何を指すのかくらいは分かった。
どうしてそんな悲しいことばっかり言うんだろう。
そんなの本心で望んでる人なんているわけないのに。
「いいわけ無い···寂しいこというな」
そっと身体を元貴の方に向けておんなじように背中に腕を回して抱きしめてあげる。
「優しいね···けどほんとに優しいなら僕を抱いて、慰めてほしい」
首に手を回して俺を引き寄せると同時に元貴が少し背伸びをして唇が触れ合う。
本当はこんなの良くないと言ってあげるべきだとわかっている、だけど俺は元貴に惹かれていた。
「俺は元貴を大切にするし優しくする···だから、嫌だったり痛かったら言って?」
男同士での経験なんてない、なんなら今までは好きになったこともない···そんな俺が期待に応えられるか不安になる。
「うん···若井、好き」
元貴の服を脱がしていいところを探しながら唇や手を這わす。
胸を指でなぞると元貴は手で口を押さえた。
「声、出していいから···どこがいいか教えて」
舌で刺激してあげると身体を少し捩るが、まだ声は押さえたままでもしかしたら今までもそうやってきたのかと思うと切なくなる。
元貴の手首をつかんでベッドに押し付けて軽く噛んでやると可愛い声が漏れた。
「っ···男の声なんていやでしょ?離して···」
「嫌じゃない、元貴綺麗な声してるから、聞きたい」
そう告げてズボンのなかに手を伸ばす。先は濡れていて触れていると熱くてくちゅくちゅといやらしい音が聞こえた。
「ぁっ···ん、そこ、気持ちいい···もっとして···ぅぁ···」
諦めたのか素直になったのか元貴が声を上げた。
気持ちよくなってくれてる、と思うと嬉しくて初めて触れるそこに反対の手を伸ばした。
「ここって、触っていい···?」
「···わかいが、嫌じゃなかったら···」
その潤んだ瞳も恥ずかしそうな表情も可愛くて、俺は机の奥の方に片付けていた避妊具とローションを探す。
離れた俺を不安そうに見つめる元貴は戻ると抱きついてきてズボンの上から俺のを撫でた。
「いやなら、口でするなら···僕のは何もしなくていいから」
「違うよ、嫌なんじゃなくてこういうの···必要でしょ?痛くするの嫌だから」
手に出したローションを温めてそこに指を入れると思ったよりスムーズに進んでいく。
「んっ···!」
「ここ?いい?やだ?」
「いっ、いい···そこ、やぁ···っ」
元貴の反応を見ているだけで気分が良くなる、甘やかしたくて喜ばせたくてそれなのにどこか泣かせたくなる、そんな不思議な高揚感を感じながら反応するところをひたすら押したり、くりくりと触る。
「わかいっ、もう、欲しい···だめになる···」
「俺も痛いくらい···」
ゴムをつけてから指が入っていたところにあてるとゆっくり進める。
「ん、あ、若井の···おっきぃ···く、ぁ···」
苦しそうに目を閉じてはふはふと息をする元貴は辛そうで、けど俺も止まらなくて最後まで腰を進める。
「ごめん、とまらないっ···」
「いい、から···いっぱい、して···若井の好きにして···僕嬉しいから···っ」
理性がなくなる、気持ちよさだけを求めて元貴を求めて、頭の中が真っ白になっていって、元貴の綺麗な声を聞いきながらその身体の奥に精を吐き出した。
「···元貴、身体平気?」
背中を撫でながら黒い髪を撫でると元貴は俺にキスをして笑った。
「きもちよかった···若井、すき」
その言葉に安心して目を閉じる。
雨の音はいつの間にか聞こえなくなっていた。
どのくらい眠っていたんだろう、隣に元貴はいない。
「元貴?」
慌てて向かった玄関にサンダルはなくて部屋に元貴がいないことがわかる。
どこに行ってしまったんだろうと思ったところで探す宛も連絡する手段もない。とりあえず椅子に座った瞬間にドアが開いてそこには洗濯物が入ったカゴを抱えた元貴がいた。
「あ、若井のもちゃんと持ってきたよ」
偉いでしょってにまっと笑ってカゴを置いた元貴に急いで駆け寄って抱きしめる。
「わかいー?どしたの」
「···もう会えないかと思った」
ただ偶然出会って話して、名前だけしか知らなくて、1回身体を重ねただけ、それだけなのに。
「勝手に居なくなんないで···焦るだろ、心配した」
「それって若井は僕を好きみたいだ」
けらけらと嬉しそうに笑ってまだ離さない俺を抱きしめ返してくれる。
そうだ、俺はまだ伝えていない。
元貴は何回も言葉にしてくれたのに。
「うん、元貴のこと好き。俺じゃだめ?」
「だめじゃない、僕も好き」
ふわりと笑った顔が好きだと思った。
俺が大切にしてあげたいと。
俺は元貴とちゃんと連絡先を交換した。
もう雨が降らなくても会えるように。
ずっと元貴の側で居られるように。
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ここ最近読んだお話で断トツ好きです 儚げ元貴さんたまらない 「寒くなってきちゃった」が心の寒さを言ってる気がして、優しい人に会えてほんとによかったねぇぇぇ😭😭って読みながら思ってました。 できればなんですけど、ぜひぜひ続編かこの2人のシリーズもの読みたいです、、!!!元貴さんの過去とかこの後のお話とかめっちゃ気になります。 素敵なお話ありがとうございます🥹🥹