テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あらすじ
夜明け前の病室に、二つの産声が響いた。
双子の男の子だった。
ひとりは額にひとつの大きな目を持ち、
もうひとりは顔にふたつの目を持っていた。
両親はしばらく言葉を失ったが、やがてどちらか片方にだけ手を伸ばした。
やわらかな毛布に抱きしめられたのは、一人だけ。
もう一人は、泣き声を上げても腕に迎えられることはなかった。
それが、この家族の始まりだった。
ひとつ目とふたつ目の双子
幼い彼は理解できなかった。
どうして自分は抱いてもらえないのか、どうして名前を呼んでもらえないのか。
ただ、誰かに見てほしくて泣いた。
けれどその声は、いつも空気の中に溶けて消えた。
小学校に上がっても状況は変わらない。
彼は「おまえ、変だ」と笑われ、机を離され、グループから外された。
給食の時間には席を詰めてもらえず、体育のときには組み分けに余る。
どれだけ努力しても、輪の中に入れてもらえることはなかった。
家に帰っても同じだった。
両親の視線は常に「片方の子」へ向けられ、彼にかけられる言葉はほとんどなかった。
弟なのか兄なのか、自分の立場さえ曖昧になっていく。
「自分は、この家に必要のない存在なんだ」――そんな思いが心を覆っていった。
どうして自分だけ。
なにが悪いというのだろう。
考えても答えは見つからない。
それでも彼の心には、しずかに疑問が芽生えていた。
「もしかしたら、間違っているのは自分じゃなくて、この世界のほうなんじゃないか」
ある夜、彼はひとりで鏡の前に立った。
薄暗い光の中で、鏡に映る自分の顔をじっと見つめる。
胸の奥がざわつき、涙が頬をつたった。
「どうして、みんな……ひとつ目なんだろう」
その言葉とともに、真実はあらわになった。
鏡の中には、確かに二つの瞳を持つ少年が立っていた。
世界でただひとり。
愛されることなく、仲間に迎え入れられることもなく。
孤独だけを抱え、生まれてしまった“二つ目”の子どもが。