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「扱いが、罪人過ぎるねえ」
「ちょっと、し!ラヴィ、声が大きいのよ」
「でも、そう思うでしょ?」
じっと、満月の瞳で見つめられてしまえば、まあ、言い返す事もなくて。というか、その通りだから、私も文句が言いたかった。でも、屈強な男達に取り囲まれて、それで、その腰に下げられている剣が、いつ引き抜かれるか分かったもんじゃないので、私は何も言わなかった。
多分、この人達は、皇太子派、ではなくて、皇帝派の人間なのだろう。まだ、政権は皇帝陛下にあると、そう思っている人に違いない。皇帝陛下の情報は、乙女ゲーム内に全然出てこなかったから、全く分からないのだけど、リース年が離れているのなら、もうそろそろ皇位譲れ! ってなるんだけどね。どうなんだろう。
私達が逃げ出さないようにと、騎士達は私達を囲むようにして併走している。そんなことをしても逃げないのに。
(これで、腕に手錠とかされていたら、本当に罪人ね)
聖女と、少なくとも魔力量のヤバいであろう家出身のラヴァインに手錠をかけないところを見ると、まだ疑惑の状態なのだろうか。それとも、魔法を放つよりも先に、剣を引き抜いて殺せるという圧力なのだろうか。
「アンタ、こういうの、慣れてるの?」
「ん?こういうのって、連行されるってこと?」
「ま、まあ……というか、こういう全員が敵……みたいなの」
「慣れてるね。てか、今更って感じでしょ?聞かないでよ…………でも、さすがに、ここまではされたことないかも。闇魔法が嫌われているって言うのは昔からだし、俺達の家が恐れられているって言うのは今に始まったことじゃないからね。でも、ここまでするのは異常だと思う」
「そう……」
ラヴァインの顔が一瞬険しくなったような気がして、私は、スッと顔を逸らしてしまった。だって、聞かなきゃ良いことを、わざわざ聞いちゃったような感じだったから。
ラヴァインの触れて欲しくないところは矢っ張り、闇魔法の家門という所なのだろう。どれだけ、差別されてきたか、私じゃ理解しきれない。当事者じゃなければ、理解し得ないことだろうなって感じつつも、私も、いってしまえば、同じような状況に置かれているから、それっぽいことは思えるんだけど。
(でも、違うよね……)
けど、これが異常だって言うことは、ラヴァインも分かっているようで、居心地が悪いという顔をしていた。何で、ラヴァインまで連れてこられたかは分からないけれど。
そんなことを思っていれば、前から、誰かが走ってきて、道を空けてください、と声をかける。すると、モーセのように、騎士達がザッと横に避けて、その灰色の頭が見える。
「エトワール様」
「ルーメンさん!?」
そこにいたのは、リースの補佐官であるルーメンさんだった。彼は、額に汗を浮べながら、息を整えて、私を見る。彼の、瞳の中にも、疑いの色が見えた。
彼は、私のこと理解してくれるだろうと思っていたから、想像以上に大きなショックを受けてしまう。でも、疑われてしまうと言うか、ルーメンさんにとって大切なのは尾、私じゃなくてリースの方だし。
彼が、転生者だって、灯華さんだって知ってもなお、私は彼との距離感が分からなかった。遥輝の親友。それしか、私には分からないから。
関わったこともないし、話を聞いても、ふーんという感じにしか興味を持てなかった。そのつけが回ってきたと言えば良いのだろうか。あっちだって、親友の恋人という情報しか知らないわけで、私のことは他人だと思っていてもおかしくない。
そんなことを思いながら、私は、ルーメンさんにどうしたのかと、訪ねた。すると、彼は言いにくそうに口ごもりながら答える。
「……まずは、その……ご無事で何よりでした」
「あ、ありがとう」
それは、言われるとは思っていなくて、私も動揺しつつ答える。
これが言いたかったのではないと分かっていたが、彼の誠実な面を考えたら、この言葉は言っておきたかったのだろう。その気遣いは、嫌いじゃない。でも、この後に、言われる言葉が怖くて、私自身も彼に疑いの目を向けてしまう。
「今回のこと……かなり、皇帝陛下は激怒しています。そのつもりで」
「えっと……」
「くれぐれも、粗相がないように」
と、ルーメンさんは小さく付け足した。
私の性格を知ってか、そういう所で、慌ててまた、火種を増やさないように、という忠告だったのだろう。ルーメンさんは私のことを信じていないと、そういう風に捉えてしまった。守ってくれているような、一見するとそんな言葉に聞えるのだが、きっとそうじゃない。
私のこれまでの行動を見て、もしかしたら、皇帝陛下に下手な口を利いてしまうのではないかと、それを恐れているように。
「殿下は、まだ目覚めないって、ブライトに聞いた。もし、何もなかったら、リースの所にいてあげて欲しい」
「……言われなくても、いくつもりです」
ルーメンさんは、その瞳をキッと釣りあげて、私を睨み付けるようにして見下ろした。
きっと、彼も焦っているのだろう。多分、これまでリースが倒れてから、後処理やら、伝達やらで忙しくて、ろくに彼元にいけていないと。そんな風に感じた。だからこそ、私の言葉にピキッときてしまったのかも知れない。蛇足だったかな、と思ったけれど、私も言いたかった。
私のこと気にするぐらいなら、リースの元に行ってあげて欲しい。私は、恋人としては特別かもだけど、長い時間一緒にいたとするなら、ルーメンさん、灯華さんだし、私よりも、リースのことが心配でならないだろう。
それに、リースも、目覚めたときに、知っている人がいた方が、きっと良いだろうから。
それだけです、と伝えて、去って行こうとする、ルーメンさんに私は、後一言だけ、と呼び止める。彼は、今すぐ向かいたかったのにと、進行を止めてしまった、私に対して、また睨みを利かせる。多分、わざとではないだろうし、自分でも気づいていないんだろうけど、敵意を向けられているのは確かだった。
ルーメンさんに好きな人がいるのは知っている、そして、その人と同じくらいリースのことも大事だって分かってるよ。
「いいの?エトワール」
「何が?」
「だって、彼奴、エトワールのこと、睨んだじゃん」
「それくらいあるんじゃない。だって、ルーメンさんは、私より、リースの方が大事だし」
「……それでいいの」
と、ルーメンさんの背中を見ながら、言うラヴァイン。いいのかって言われても、何て答えれば良いか分からないし、引き止めたところで、皇帝陛下の前に行くことは変わらないだろうから。
はじめから、引き止めようとは思わなかった。引き止められるような、話しも出来ないし、ここから逃げることは出来ないだろうから。
「それに」
「それに?」
「アンタは、味方でいてくれるんでしょ?ラヴィ」
「……っ、まあ、そうだけどさ。俺が、裏切ったらどうするつもり?」
なんて、意地悪な質問をしてくるラヴァイン。答えが分かっていて、着てくるところは、本当に、憎たらしいと思った。
また、私達を取り囲むように騎士達が歩く。速く歩けと催促されるようで、いやだったけど、隣にラヴァインがいるし、まあいっか、と周りが敵だらけでも、一人でも味方がいれば、なんて軽く考えて染み合う。
全然、良くないし、逃げようと思えば、逃げられるんだろうけど、そんなことして、二人で逃亡なんてしたくないし。リースを置いていってしまうのは心苦しい。
(でも……)
「アンタは、裏切らない」
「その根拠は?」
「私が、アンタを信じてるから」
私が、そう言えば、ラヴァインは、フッと降参というように笑みを漏らし私の頭を撫でた。少し乱暴に、自分の力加減を分かっていないような、でも、優しさの感じられる手に、私は安心感を覚える。
「エトワールにはかなわないな。ずっと」
「ずっと?」
「こっちの話」
と、ラヴァインは、何かを隠しながら、少し歩幅を大きめに歩いた。
そうして、私達は、赤い絨毯の上を歩き、大きな扉の前で足を止める。両脇にいた騎士が、大きな扉を開け、地面を引きずって音を立てる扉が開かれる。
大広間。そして、赤い絨毯が続く先には、玉座に皇帝らしき人物が座っている。遠くから、酷く鈍いルビーの瞳と目が合った気がして、途端に体中の体温が下がっていく。
冷たい瞳だった。
「陛下」
そう言って、騎士達は皆、足をつき、頭を垂れる。立っているのは、私達だけだ。
「エトワール・ヴィアラッテアをつれて参りました」
聖女、なんてもうつけなくてもいい、というように、騎士達はさらに深く頭を下げると、皇帝陛下が、その重い腰を上げ、玉座から私を見下ろした。
「きたか……我が息子を誑かした、偽物……魔女め」