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(魔女?酷い言われよう……)
「ダメ、エトワール」
「分かってる……別に、噛みついたりしないわよ」
私が、皇帝陛下に何か言おうとしたと思ったのか、すぐさま、ラヴァインの手がスッと横に出た。抑えろという意味だったんだろうけど、あまりに酷い言われようで、一言訂正したかった。
魔女なんて、魔性の女だから? なんて、つまらないことを思いながらも、全然息子の心配をしていないくせに、我が息子を誑かした、なんてよく言えると思った。
罪人を裁くのは確かに必要なことだけど、父親なら、目が覚めない息子のところに行ってあげるのが常識なんじゃないかと私は思ってしまったのだ。その心が、此奴にはないんだろうけど。
(此奴って……私、相当、この人のこと嫌いかも)
毒親。
いや、皇族の家族のあり方って、またちょっと普通と違うかも知れないけれど、他人の前では、良い親を演じる人は、ろくでもない人が多い。その顔を、何故、子供に向けられないのかって思ってしまう。
こんな人と、リースはここに来てから付合ってきたのかと思うと、彼に同情する。リースは何処に行っても、親に恵まれないのかとそう思ってしまうほどに。
(って、私に言われたくないかもだけど)
親のことを他人に言われるのは、あれだっていう人もいるし、私はそこまで突っ込まないけれど、私から見て、皇帝陛下は、リースにとって毒親と言える存在だと思った。
リースの話を聞いていたからこそ、解像度が一気に上がって、自分のことしか考えない人間だって、すぐにでも分かってしまう。
それで、この人は、相変わらず私のことが嫌いなようだった。
「闇魔法の家門の奴と何を企んでいるかは、分からないが、今後一切、息子に……リース・グリューエンに近付かないで貰おうか」
「……っ、それは、できない……出来ません」
「何故だ」
ここでいってしまっても良いものなのかと思ったが、ここで、言わないと、いけない気がしたのだ。ラヴァインは、不安げに私を見ている。
いったところで、拒絶されるだろうし、認められないと思う。でも、私は譲れなかった。リースに会えなくなるのだけは絶対いやだって、今すぐにでも叫びたい。こんな奴に、無実なのに、その無実を証明するためだけにここにいて。でも、証明できたとして、きっと認めて貰えないだろうって言うのも目に見えていて。無意味なのにここにいる。それなら、今すぐにでも、リースに会いにいきたい。
私の恋人にあわせて欲しい。
「何故だと聞いているんだ。この、魔女が」
「私の恋人だから、婚約者だからです」
尻込みしていちゃいけないと、私は叫んだ。私の声は、皇帝陛下に重なるように、そして、打ち消すように広間全体に響いた。
ルーメンさんに、あれだけ忠告されたばかりだったけど、私にだって譲れないものがあった。これくらいは言わせて欲しいし、いっても問題はないだろう。ぶつからないといけない、ここで、私が「はい、そうですか」って頷いちゃったらいけない気がしたからだ。
騎士達は「無礼な」みたいに、私に一斉に視線を向けてくる。怖かった。昔の私なら、ごめんなさいっていって、逃げ出していただろう。でも、今の私はそうじゃないから。
まあ、誰かに、強くなったねっては言って欲しいけど。生憎昔の私を知る人はここにはいないわけで。
(って、いっちゃったけど、大丈夫かな……)
でも、不安がないわけじゃなかった。どんな反応が返ってくるかっていうのは、正直凄く心配で。いったことを本気で後悔していないかっていわれたら、後悔しているかもってちょっとは思っちゃうよね。
けど、言わないっていう選択肢はなかった。
それは、きっとリースの意思でもあるから。
私が、恐る恐る、陛下の回答を待っていれば、陛下はハンッと鼻で笑って、馬鹿馬鹿しいというように私を見下ろした。皇族の証である眩い金髪は、色素が抜けて、白っぽくなっている。それに、自己中な欲望が渦巻いているルビーの瞳は濁っていた。とても、リースと似ても似つかないような見た目をしている。
頑固親父って感じ。
「愚息と、貴様が婚約関係にあると?笑わせるな」
そう、陛下が笑えば、それに同調するように、周りにいた騎士達も一斉に笑い出した。あまりにも、感じが悪くて、今すぐにでも、此奴らを、魔法で吹っ飛ばす権利が欲しかった。出来るから、やらないけど。
魔法の恐ろしさを知っているからこそ、私はここで爆発させちゃいけないって、我慢した。ラヴァインも、私が暴走したとき、止められるようにって、見てくれている。本当に、ストッパーがいなかったら、私はここを血の海にしていたかも知れない。
人を殺したくもないし、傷付けたくもないけれど、その力があるから、やってしまいそうになる。人に力を持たせちゃいけないんだなって、分からさせられるようなものだ。
(耐えて、耐えてよ。私……)
ふつふつと煮えかえるような魔力が身体の中を駆け回る。暴れたいと言わんばかりに、周りの嘲笑に対して、黙らせたい気持ちになっていく。でも、ここで、力を爆発させたら本当に後戻りできなくなってしまう。一生逃亡生活がオチだ。
それが分かっているからこそ、やれるものならやってみろと、私達に、魔力を封じ込める枷をはめさせていないのだと、そう思った。本当に性格が悪すぎる。
でも、ここで負けちゃいけないと、嘲笑の中、私は言葉を発した。
「お言葉ですが、ほんとです。私と、リース殿下は付合っています。婚約関係にあるのです」
「そんな話、私の耳には入っていないが」
「殿下は、話したと言っていました」
「彼奴の記憶違いだろう。彼奴は、少し、妄想が生きすぎるところがある」
「……ッ、エトワール、抑えて、ダメだって」
「……ッ、ッ……く……ぅ」
自分のことを馬鹿にされてもいい。でも、リースのことを馬鹿にするのはやめて欲しかった。それでも、本当に親なのかと言いたいぐらいに。
(地獄じゃない。こんなの、地獄以外の何ものでも無い……)
何で、リースは耐えられたの? って、今すぐたたき起こして聞きたいくらいには、そう思ってしまった。泣きそうだった。
育児放棄ですら、毒親って言われるのに、まるで自分の息子ではないようなそんな風に話す皇帝陛下を見て、此奴は人間かと思ってしまった。
何それ。何それ、何それ、何それ、何それ、何それ!
ラヴァインが、必死に私を止めてくれたから、どうにかなった。ううん、どうにもなっていないんだけど、リースの悪口を言った後、平気で笑える、此奴の心情が理解できなかった。
妄想? リースが妄想でそんなこと言うわけない。
だって、話したって言ったから。それを信じたい。リースの言葉以外、信じない。アンタの言葉なんて知らない。
だって、リースは、嫌そうなかおをしながらも、しっかりと伝えた、意思を伝えたっていってくれた。あの顔が、本当じゃないなんて言えるわけがない。リースは、誠実だし、そう言うことに関してはちゃんとけじめというか、真摯に向き合うというか、だからこそ、あの言葉が嘘だなんて思っていない。
嘘をついて、誤魔化しているのは、アンタだろうって。
「エトワール、まずいって、まずいから」
「ラヴィ、お願い離して」
「ここで、魔法なんてぶっ放してみなよ。一生、皇太子殿下に会えなくなるよ」
「……ッ、いやだ、嫌だけど」
「何を、こそこそ話してるかは知らないが、そんな話は私の耳には入っていない。彼奴の顔も、ここ最近見ないからな」
「……どれだけ」
「エトワール」
ギュッと、握られた手。私よりも大きくて、厚くて、頼りがいのある骨張った手が、フルフルと震えていた。私も震えていたけれど、ラヴァインの方が私よりも、酷く震えていたのだ。
もしここで、私が暴走したら、止められる自信がないって、そんな不安か、心配か。
けれど、これを抑えろって言う方が無理だった。もしかしたら、そういう策略なのかも知れないって分かっていたけれど、意図あっての煽りだって分かっているけれど。それでも、でも。
(親として最低――)
リースはそもそも、親という存在を信じていない。だから、冷たく当たってしまっているのかも知れないし、それが、リースのデフォルトだと思う。前世を私達は完全に切り離せないから。もし、私が凄く温かい家庭に転生したとしても、親というものをすぐには信じられないだろう。それと同じ。でも、これは最悪のパターンだ。
(倒れた息子に会いにいっていない?それなのに、心配している嘘をついて?何それ、本気で言っているの?)
話し合いなんてどうでも良いから、今すぐリースの元にいけ。そして、ぶん殴られてこいとおもった。そのまま、後ろに倒れて、死ねばいいとすら思った。それくらい、最悪だ。
私のことを聖女、聖女じゃないを認める以前の問題で。
嫌なことばかりが浮き彫りになってきて、胸が張り裂けそうだ。
ラヴァインがいてくれて本当に良かったけど。
「エトワール」
「分かってる、分かってるけど」
「彼奴が最悪なのは分かった。でも、エトワール……今は、自分のことを考えて」
と、ラヴァインは、今とるべき行動を教えてくれる。けれど、自分のことを考えて、何て言われても、この状況で出来るかっておもった。
だって、恋人が、貶されているのに。最悪な親に、倒れているのに心配すらされずにいるのに。
こんなものなのかと。
「兄さんだったら、そういう。エトワール、自分を見失わないで。今とれる、最善の行動をして。お願いだから」
「ラヴィ……ら……」
「エトワール」
ギュッと、再び握られた手。私は、あらんだ呼吸を整えながら、ふうと最後に息を吐いた。分かっている。これが、私をはめるものだって。だから、落ち着かないとって。
分かってるよ。
そう自分に言い聞かせて、自分は大丈夫だと、ラヴァインに言い聞かせるつもりで「うん」とだけ首を縦に振る。
矢っ張り、ダメだな。私って。
そう、思ってしまうわけで。私は、強く何てないよ。
「私と、彼は婚約関係にあるのです。それを、認めてください」