【今回の話は視点がコロコロ変わるのでお気をつけください】
ミランの誕生日から3日が経っていた。
俺はコツを掴んでからは、ほぼ思い通りに魔法を操作する事が出来る様になっていた。
そして、今もダンジョンにいる。
「どうせなら操作が上手くなった魔法で、オークでも狩ってみるか」
訓練も大詰めだ。集大成にオークを狩りまくってやろう!
『魔力波』
反応は近くにはないが、遠くにはあるな。
これも訓練の成果だ。
これまで通りの、全方位への魔力波で反応がなくても、魔力波を飛ばす方向を絞れば、より遠くまで感知する事が出来る様になった。
反応があった方に向かうと、結構な数の反応を拾った。
「15くらいの反応が移動しているな。この階層では初めての事だし、確認するか」
12階層のオークは集団だったが、ここは3階層だ。気になるから向かおう。
もしかしたらボスに会えるかもしれんし。
身体強化をすれば、その集団へとすぐに追いついた。
「あれは…逃げているのか?」
俺の視線の先にはオークから逃げてるように見える冒険者の姿が映っていた。
side見知らぬ冒険者
「さあ!今日も頑張ってお金を稼ぐわよ!」
私は商人をしている両親に連れられて、この街には10歳の時にやって来た。
苦労していた親を見て来たからなのか、職業としての商人には一切魅力を感じなかった。
15歳になると店の手伝いをしながら休みの日を合わせて、私と同じ境遇の女の子達と一緒に冒険者活動を始めたの。
ホントは冒険者だけをしたいけど、街のルールで商人をしないと低ランクの私達は追い出されてしまい、ダンジョンには潜る事が出来なくなってしまうの。
「私達にとって、オークは最早雑魚だねっ!そろそろ次の階層を目指さない?」
この子は同い年のメンバーの中では一番小柄な子。
身体の割には、ある一部だけメンバー1大きい…解せないわ。
「メイの言う通りかもね。いつまでもここに掛かっていたらBランクになんてなれないもの。サーヤもそう思わない?」
この子は身長も大きく、剣の腕も仲間では1番の子だ。
いつも冷静でいてくれるから何かと頼りにしている。
サーヤと名を呼ばれた私は答えを返した。
「そうだね。後6体倒したら今日は終わりにして、次は4階層に行こっか」
この階層では、殆どの場合は3体以下で行動しているから戦闘は後2回。
私達の数も三人だから、魔物の数と丁度いいんだよね。
いつも通り森の奥へ向かうと、前方に3体のオークがいた。
奴らは女性を攫う為、私達を見つけたら我を忘れて襲いかかってくる。
だから、慣れたら討伐も楽なの。
「行くわよ!」
「「ええ!」」
二人の返事を聞いて、オークの前に姿を現した。
こんなはずじゃなかった。
何で3体以上いるのよ!?
「足を止めないで!」
二人に檄を飛ばしながら、逃走を続ける。
まさか後ろからも来ていたなんて……
あの時、飛び出した後、前方のオークに気を取られていた私達は、後ろから忍び寄るオークに気付けなかった。
すぐ乱戦になったけど、多勢に無勢。
私はすぐに逃走を決断して、二人にそう伝えた。
「きゃっ!?」
「「サーヤ!?」」
私は後悔の念で頭が一杯になっていて、足元が疎かになってしまっていた。
「逃げて!」
「置いていけるわけないわよ」
「そうだよっ!私達は一心同体だって誓い合ったでしょ!」
馬鹿っ!
でも、ありがとう……
死ぬのが一人じゃないだけで、こんなにも不安な気持ちがなくなるなんて…私って酷い人だ。
もうオークに囲まれてしまった。
逃げ場はない。
「何で10体以上の群れがいるのかは知らないけど…お前達を一体でも多く道連れにしてやる!」
私達は覚悟を決めた。
side聖
「転んだな…とりあえず様子見だな」
もしかしたら、オークを油断させる作戦なのかもしれない。
無闇に他の冒険者の手助けはしないようにって、何かの漫画で読んだしな!
「うーん?どうも演技じゃなさそうだな…」
エリーと同じドジっ子属性か?
それならもう間に合っているんだけどな。
「拙いな…押されている。仕方ない。俺つえーするか」
聖奈さん達がいないから、俺つえーを見せる人があの三人しかいないんだよな。
まぁ仕方ないか!
『身体強化』
俺は木陰を飛び出した。
sideサーヤ
「きゃっ!」
「メイッ!?」
メイがオークの攻撃を被弾してしまった!
「ダメェッ!」
最早間に合わないと悟り、叫ぶことしか出来なかった。
ザシュッ!
「えっ…?」
メイに襲い掛かっていたオークの…首がない?
バタンッ
首を失った魔物は、その身体を地面へと投げ出した。
「勝手に助けたけど、いいか?」
何?誰この人?勝手にって……
「ありがとうございます!討伐を手伝って頂けませんか?」
いつも冷静なジーナが、いきなり現れた男の人に懇願している。
「それはいいが、固まっていてくれ。バラバラだと守りきれんからな」
「は、はいっ!」「お願いします!」
二人が勢いよく返事をしている…けど。
「見返りが払えないので、結構です」
「「何を言ってるの!?」」
どうせこの人が助けてくれたのは、 見返りを求めてのこと。
私達に差し出せる見返りなんて…一つしかない。
だから冒険者の男の人って嫌なのっ!
「見返り?いや、別にいらんぞ」
「う、嘘を言わないでください!タダで知らない人を助けるなんて…」
そんなの…御伽噺の王子様くらいのものだよ……
「人が人を助けるのに理由が必要か?
まぁ気にするんだったら、この窮地を乗り越えられたら、いつか旨い酒を奢ってくれ。
これでいいか?」
なによそれ…顔は決して王子様じゃないけど、惚れちゃうじゃないっ!
「はぃ…守ってくださぃ」
もうっ!キャラじゃなく、しおらしくなっちゃったじゃないっ!
二人ともっ!こんな時に笑わないのっ!
side聖
「人が人を助けるのに理由が必要か?」
聖奈さんなら返事も聞かずに助けてしまうぞ?
良かったなっ!俺が話を聞くタイプで!
なんとか説得し終わった。
後はこの中のどれがボスかだな。
オークキングと違い、体格に差は無いのかもしれんな。
見返りはどうでもいいが、ミラン達にボスを倒した土産話が出来たらいいな。
俺の急な乱入に、様子見に移ったところを見ても、統率が取れているのかもしれない。
「こないなら、いくぞ?」
こんな雑魚に俺の貴重な時間は割けられない。
俺にはこの後、荷運びという大事な仕事があるんだ!
この世界にUb◯rがあれば、トップ配達人の名を欲しいままに出来る男の貴重な時間なんだぞっ!
シュンッ
俺は身体強化を全力で掛けて、オークへと向かい斬り込んでいく。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!
バタバタバタバタバタバタッ
オークは斬られたことに気付く間も無く、その身に宿る命の炎を消した。
「やっぱり雑魚だな。あっ!魔法を使うの忘れてた!」
2/3も減らしてしまったが、まだオークはいるから後は魔法で倒そっと。
「アイスランス×4」
エリーの連続魔法の模倣だ。
まだ中級魔法までだが、×4までなら発動出来るようになっていた。
ザシュッザシュッザシュッザシュッ
オークは倒れる間も無く、消滅した。
「あれ?結局ボスはどれだったんだ?まぁいいか。それより…」
俺は三人組の冒険者の元へ向かう。
まさか四人組だったとか言わないよな?
それだとなんか、ヘイトが俺へと向かいそうだぞ……
sideサーヤ
「終わったぞ。怪我はないか?」
私の王子様は助けてくれただけじゃなく、怪我の心配までしてくれる人だった。
「は、はい。転んだ時に少し足を擦りむきましたが、大丈夫です。
それより物凄く強いのですね!ありがとうございました!」
危うく舞い上がってお礼を言い損ねるところだったわ。
えっ?なんで跪いているの!?
まさか…求婚!?
そんな……子供は五人までなら……
「見せてみろ」
そう言うと王子様は、私の膝を出して…きゃー恥ずかしい!
ムダ毛処理はいつしたかしら!?
「少し、滲みるぞ?」
そう言うと、何だか変わった容器を取り出して、私の膝に液体をかけた。
多少滲みたけど、そんなことよりも…私の足元に……
「傷は洗って消毒したから、後はこれで押さえていてくれ」
そういって王子様が綺麗な真っ白の布(?)を傷に当ててくれた。
「何から何までありがとうございます。お名前をお伺いしても?」
あっ!そうだ!名前を聞かなきゃ!
ナイス、ジーナ!流石よっ!
「俺はセイだ」
「セイ様ですね。私はジーナと言います。
傷の手当てをしてもらっていたのがサーヤで、もう一人がメイと言います。
先程はお礼を断っていましたが…私はセイ様なら構いません」
ちょっと!?何抜け駆けしようとしてるのよ!?
「ま、待ちなさい!セイ様!ジーナはダメです!私が…」
恥ずかしくって、これ以上は言えないよ……
side聖
助けたのはいい。手当てしたのもいい。
だけど、これは酷いんじゃないか?
「いや、無理をしなくていい。そういうのは大切な人にするんだな。
それにいつか会った時に酒をご馳走してくれるんだろ?
それで十分だ」
だからそんな思い詰めた顔をして、身体を差し出そうとするなっ!
俺は罰ゲームか何かか!?
しかも頼んでもいないのに、また振られるのか!?
くそっ!助けた事に物凄く感謝しているのは伝わっている。
けど、それならもう少しいい雰囲気とかになるだろ!?
三人もいたら、一人くらい俺の事を気にいる人がいてもいいじゃん?
ここでも『但しイケメンに限る』かよ……
「わかりましたっ!この二人は命の危機に遭い、ちょっとおかしいだけなので気にしないでください!」
メイは元気っ子キャラか?
「そうか。それならいい。帰りの護衛がいるならついでに付き合うぞ?」
これも何かの縁だしな。
それに、この後またオークに襲われて死なれたら寝覚めが悪い。
「ありがとうございます!さっ!こんな二人は置いて行きましょっ!」
「お、おう…」
メイは俺の腕に抱きついて来て、先導する形で歩き出した。
俺はちびっ子にしか縁が無いのか?
まぁミランはこんな風に、みんながいる時には絶対しないから新鮮だけど。
エリーがする時は俺がお菓子を持っているときだけだ。
うん。わかりやすい。
メイもクッキー食べるか?
「おいひいれすっ!」もぐもぐ
「そうか。ゆっくり食えよ」
うん。餌付けしてると、俺の荒んだ心が落ち着いてくる。
何故か後ろの二人から視線を感じるが……
後でクッキーはやるから心配するな。
俺達はダンジョンを出た。
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サーヤ「な、なんでメイが腕を組んでるのよっ!?」
ジーナ「出遅れたわ…」
サーヤ (ジーナもセイ様狙いなの!?武器やアイテムは良いけど、男まではシェアしないわよ!)
ジーナ「私はメイの反対に行こうかしら」
サーヤ「やっぱりシェアでも良いわ!」
手のひらクルー
聖は別に顔は悪くありません。
ただ…仲間の見た目が良過ぎるだけなのです。
普通にしていたら普通に恋愛は出来ていたでしょう。
彼は、普通ではいられないのです。
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