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コメント
2件
好きすぎて更新されてるの見てめっちゃ嬉しかったです♩もう大好きです😿💗
やり直し
⬇
病院の廊下は、消毒液の匂いが染みついて、息苦しかった。救急車のサイレンが止まった後も、俺の耳にはまだ鳴り続けていた。 赤い光と、ないこの体が宙を舞った瞬間が、頭の中で何度も繰り返される。
メンバー全員が、駆けつけた。緊急治療室の前の待合スペース。
白い壁と、蛍光灯の冷たい光の下で、誰もが言葉を失っていた。心電図のピッ、ピッ、という不規則な音だけが、ガラス越しに漏れてくる。
時々、ピーッと長く鳴って、看護師が慌ただしく動く。りうらが、膝を抱えて座ったまま、ぽつりと呟いた。
「ないくん……」
声が、震えていた。初兎は壁に寄りかかって、目を閉じている。
いつも明るい元気づける声が、今は出ない。あにきは、拳を握ったまま、ただじっとガラスを見つめていた。ほとけは……隅っこで小さくなって、肩を震わせている。俺は、立ったまま動けなかった。
足が、鉛のように重い。
「ないこ……」
名前を呼ぶ声は、掠れてほとんど聞こえなかった。どれだけ時間が経っただろう。
医師が出てきて、静かに言った。
「一命は取り留めました。ただ……意識はまだ戻っていません。 今は、安静にさせてください」
皆、息を吐いた。
でも、喜びはなかった。
ただ、終わらなかった、というだけだった。それから、俺は毎日病院に来た。朝イチでスタジオに行かず、直接病室へ。
ないこのベッドサイドに座って、手を握る。「ないこ……ごめんな。 ほんまに、ごめん、っ」涙が、ぽたぽたと落ちる。
ないこの指は、冷たくて、動かない。
「俺が……全部、俺のせいや。 お前がこんな目に遭うなんて……」
謝って、泣いて、謝って、泣いて。
同じ言葉を繰り返すだけの日々。眠れない夜が増えた。
食べ物が喉を通らない。
無理に食べても、すぐに吐いてしまう。鏡を見ると、頬がこけ、目は落ちくぼんでいる。
でも、俺は自分を責め続けた。
「こんなもんじゃ、足りない。 ないこが味わった痛みの方が、ずっと大きいんや……」
他のメンバーも、避けきれなくなった。最初は、顔を見るのも辛くて、病室を避けていた。
でも、ないこの容態が変わらない日が続くうちに、皆、少しずつ顔を出すようになった。ある日の夕方。りうらが、病室のドアをそっと開けた。
「まろ……また来てたんだ」
俺は、顔を上げた。
目が赤く腫れている。
「りうら……」
りうらは、静かにベッドの反対側に座った。
ないこの手を、優しく撫でる。
「ないくん、今日は顔色、少し良くなった気がするね」
嘘だった。
でも、そう言いたかった。俺は下を向いて呟いた。
「俺……毎日ここに来てるけど、ないこ、目ぇ覚まさん。 俺の声、届いてへんのかな、」
りうらは、穏やかに微笑んだ。
「届いてるよ、きっと。 ないくんは、優しいから……まろの声、ちゃんと聞いてると思う」
肩が、震えた。
「りうら……俺、ほんまに最低や。 こんな俺のこと、みんな……許してくれへんよな」
りうらは、首を振った。
「許すとか許さないとか、今はそんなことじゃないよ。 ただ、ないくんが目を覚ますのを……みんなで待ってるだけ」
初兎とあにきも、日に日に来るようになった。初兎は、病室に入ると、いつもの調子を無理に作って話しかける。
「ないちゃん、今日も寝坊助やな〜。 そろそろ起きてくれへん? 僕ら、待ってるで」
でも、声の端が震えている。あにきは、黙ってベッドの横に立つ。
俺を見ると、ため息をついて、ぽつりと言った。
「まろ、お前……顔色悪すぎや。 ちゃんと飯食っとるんか?」
苦笑いした。
「食べてる……つもりや」
あにきは、コンビニの袋を差し出した。
「これ、栄養ドリンクとゼリー。 無理にでも飲んどけ」
受け取って、涙がまた溢れた。
「あにき……ありがとう」
あにきは、照れくさそうに頭を掻いた。
「礼なんかええわ。 ないこが目ぇ覚ましたら……それでええ」
ほとけは、一番最後まで来れなかった。でも、ある雨の夜。病室のドアが、そっと開いた。ほとけが、びしょ濡れで立っていた。
「ないちゃん……」
声が、か細い。俺は、驚いて立ち上がった。「ほとけ……」
ほとけは、ゆっくり近づいて、ないこのベッドの前に立った。
「僕……ずっと、来れなくて。 怖くて…逃げて…ごめん」
何も言えなかった。ほとけは、ないこの手を握って、涙をこぼした。
「ないちゃん、ごめんね。 僕らのせいで……こんなことに」
その言葉に、俺の胸が締めつけられた。
「……俺も、ごめん」
二人は、ただ黙って泣いた。ないこの心電図は、変わらずピッ、ピッと鳴り続けている。誰も、目を覚まさないないこに、何も言えなかった。ただ、そばにいることしか、できなかった。雨が、窓を叩く音が、病室に静かに響いていた。