帰り道の馬車にて、俺は窓の外を眺めていた。
空は鮮やかな橙色に染まり、日はもうすぐ沈みそうになっていた。
ふと、俺と向かい合わせに座っている彼女の方に目をやる。
彼女は馬車の壁に寄りかかり、心地良さそうにすうすうと眠っていた。
と、馬車がガタンッと大きく揺れる。
その反動で彼女の体が傾き、上半身が倒れそうになった。
俺は急いで彼女の隣に座り、彼女の頭を肩で受け止める。
ふぅ、危ない危ないと彼女を見ると、彼女は俺の肩でまだ眠っていた。
良かった。起きなかったようだな。
……だめだ。抑えなければ。
こんな無防備な姿を見せられたら……、彼女に触れたくなる。
俺は勝手に彼女の方に向かう手をもう片方の手で掴む。
でも、やっぱり彼女はかわいいのだ。かわいくてかわいくて仕方ないのだ。
俺は必死にあふれ出る感情を抑える。
……手を握るくらいならいいだろうか。
俺の中にいる悪魔がそっと囁く。
いや、だめだろう。
そんなことをしたら彼女に気持ち悪がられるだけだ。
……わかっている。彼女はそんなことなどしない。
彼女なら「どうなさったのですか?もう」と頬を赤く染めて笑うに違いない。
……俺は何を思ってるんだ。そんな彼女の表情も見てみたいだなんて。
俺たちは恋人同士でもないし、手を握ったとして彼女に想い人がいたらどうするんだ。
……その想い人が、俺だったらいいのに。そんな都合いい訳ないのに。
……でも、少しだけなら。少しだけ手を握るくらいなら。
俺は彼女の手の方に手を伸ばし、彼女の手に自分の手を重ねる。
彼女の手は、温かかった。やわらかくて、小さくて、華奢で、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうで……。
俺はそっと優しく彼女の手を握った。
彼女の温もりが伝わるようだった。
『あなたはお優しいですね』
花がほころぶように笑い、そう言った彼女の姿を思い出す。
俺は彼女が好きだ。今すぐ彼女を奪ってしまいたいくらいに。
俺はずっと彼女を愛し続けるだろう。彼女に拒絶されたとしても。
彼女は年齢を重ねるごとに、より美しく、かわいく、愛らしくなってきている。
周りを魅了するには十分な容姿だ。
彼女ももうすぐ十五歳だし、直接彼女に結婚してほしいと言う輩が増えてくるだろう。
だから。だから俺も、もうすぐ動かなければならない。
彼女を他の奴らに取られないために。
渡すものか。
彼女を、俺だけのものにしたい。
だから俺は……。
ある決心をしたのだった。
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恥っず笑