「君は、風景を描くことはないのかい?」
運転席を入れ替わり、そろそろ車を出発させようとしていたところへ、彼の方からそう尋ねられて、
「風景も描きますよ」と、何気ない調子で答えた。
「それなら、この景色を描いてみてくれないか?」
「ここをですか?」と、首を傾げる。
「ああ、今日の思い出にどうかと思って」
“思い出”という一言にドキリとさせられてしまう私は、どれだけ彼に惹かれてるんだろうと───。
「はい」と頷いて、手持ちのリュックからスケッチブックとペンケースを取り出すと、道沿いに枝を広げて生い茂る樹々を背景に、彼の横顔を描き入れた。
ペンを動かす私の手元を、
「……私を、描いたのか?」
と、蓮水さんが覗き込む。
「やっぱり絵になりますし、画面も引き締まる感じがするので」
くすりと笑って言うと、
「……やっと笑ってくれたな」
彼がホッとしたようにも口にして、
「もしかして、私を元気づけようとして?」
まさかと思いつつ聞き返した。
「ああ、君には笑っていてほしいからな」
微笑んで口にする彼に、胸がキュンとときめく。
「……ありがとうございます。それじゃあなるべく笑顔でいるようにしますね」
にっこりと笑って言うと、
「うん、その顔だ」
彼がにこやかに顔をほころばせた──。
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