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「かわいい〜!」「今日も天使!」「マジで推せる。」
画面の中に並ぶ言葉たちが、スマホの奥で光っていた。
通知が鳴るたびに、心臓がじんわりと熱くなる。
その日は、朝からずっと気分がよかった。
コメント欄を何度も見返しながら、鏡に映る自分に、そっと笑いかけた。
──“バズった”のだ。
自撮りと何気ない一言が、一晩で7000いいね。
知らない誰かが、私を見て、私を求めてくれている。
(やっぱり、私にはこれしかないんだ。)
私の名前は**柊木(ひいらぎ)ひより**、高校2年生。
どこにでもいるような見た目で、取り柄なんてなかった。
でも、スマホを通せば話は別。
ライトとアングル、ちょっとした加工があれば、「かわいい」は簡単に作れる。
それが現実だ。
みんなも気づいてるくせに、気づかないふりしてるだけ。
⸻
教室のドアを開けると、クラスメイトが数人、私のスマホ画面を見ながら話していた。
「これ柊木じゃね?」「マジ、加工うま」って笑ってる。
でも、その目はちょっとだけ興味を含んでいた。
私の“存在感”が、じわじわと滲み出していく。
それが、たまらなかった。
(見てる。みんな、ちゃんと見てる。)
それだけで、私はちゃんと生きてる気がした。
⸻
昼休み。
机に突っ伏していたら、背中を小突かれた。
「ひより、最近バズってるね〜。芸能事務所とか入れば?」
振り向くと、隣の席の**詩織(しおり)**が笑っていた。
無邪気に、でも少しだけ試すような目で。
私は軽く笑って、肩をすくめる。
「ムリムリ、素人だよ。趣味、趣味。」
「でも、そのうちDMとか来るかもよ?スカウト的な?」
「来たらびっくりだよね、はは……」
ほんのり緊張しながら、笑って流した。
(実は……もう来てる。)
それも、昨日だけで3件。
“フォロワー数”という名刺をぶら下げて、私は静かに、別の世界へ足を踏み入れていた。
⸻
その夜。
ベッドの上で、また通知が鳴った。
アイコンも名前も見たことないアカウントから。
《柊木ひよりさん、あなたの投稿、ずっと見てました。》
《フォロワーは増えてますか? でも……中身は、減ってませんか?》
一瞬、画面が暗くなった気がした。
(誰……?)
《もし本気でバズりたいなら、教えてあげますよ。
「本物になる方法」──ね。》
画面を見つめながら、私は一瞬、呼吸を止めた。
そのDMには、返信ボタンがなかった。