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泥にまみれた彼女は、私たちを呪わしげに睨みつけると
「……こんなので、勝ったと思わないことね!! 私の領域から抜け出せたところで、MASTER様の世界からは抜け出せないの!」
と絶叫し、そのまま脱兎のごとく霧の彼方へ逃げ出した。
(……MASTER?)
父の名前なんて、興味がなさすぎて記憶の隅に追いやっていたけれど
突如出てきた、聞いたこともないその名に父以外にも黒幕がいるのかと疑念がよぎる。
咄嗟に彼女を追おうとしたそのとき、巨大な影が私の行く手を塞いだ。
見上げれば、そこには──忌まわしくも、見覚えのある男が立っていた。
「……エカテリーナ、久しいな?」
「……っ!」
私は思わず息を飲み、言葉を失った。
だがダイキリは違った。
「貴方まさか…お父、さん……っ?」
と、父親を見るような安どではなく、侮蔑に等しい
信じられないものを見るような眼差しでその男を射抜いていた。
ダイキリの視線に気づいてか
父はまるでもう興味のないガラクタに触れるような口調で言った
「……ん、ああ。あの女の代わりに酒場を継いだ娘か。ダイキリだったか?」
私はダイキリの震える肩を察しながら、父の言葉に応じる。
「ダイキリに近寄らないでちょうだい。それよりも、やっぱり……裏で糸を引いていたのはあんたなのね」
努めて冷静を装ったけれど、胸の内で憎悪の炎が燃え盛るのを隠しきれない。
父が私とダイキリにとっての仇敵だと確信しながら、私は感情を押し殺して言葉を投げた。
「コロナリータって女に、何か変なことをしたのもあんたなの?」
「ああ、あの玩具ならお前らをここに誘い出し、始末するための案内人に過ぎん。良いユニーク魔法を持っていたからな、できたら骨のひとつでもへし折って遊んでやれとは言ったが……俺がここにいるということは、あいつも結局は使えない女だったというわけだ」
父は、さらりと、なんの感慨もなく答えた。
「あんたね……っ」
「……ふっ、そんなに俺が憎いか? 実の父なんだ、名前くらい呼んでくれなきゃ悲しいだろう?」
父が眼前に立ち塞がった瞬間
私は背筋を奔る寒気と、心臓を鷲掴みにされたような苦しさを覚えた。
「父親面をしないでちょうだい……あんたの名前なんか、とっくの昔に忘れたわよ」
それを悟られまいと奥歯を噛み締め、両脚を強く踏みしめる。
「俺も元の名前は忘れたな。今の名はブロンクスだ……ダイキリやコロナリータと同じでな、カクテルの名前だ。俺も、あの方に改造してもらった一人というわけだ」
「は……っ?改造?」
あまりの衝撃に言葉が詰まった。父自身が「改造された」と言う。