店の外に出ると雨が降っていた。学校を出た時や、カフェに行った時は晴れていたのに。天気予報でも一日晴れだと言っていたのに…… こうも見事にハズレる事もあるんだな。
傘が無くって、カフェからは濡れて帰る羽目になった。コンビニでビニール傘を買う事も出来たのだが、そんな気分にもなれず、結局はそのままだ。『濡れ鼠』という表現がピッタリな姿になりながら家の前まで行くと、私服姿の清一が俺の住むアパートの玄関前に立っていた。
「充!」
こちらが清一の姿を捉えたのと同時に、向こうも俺が帰った事に気が付いたみたいだ。
「傘は買わなかったのか?酷い濡れ方じゃないか!お風呂は沸かしてあるから、ウチに来い」
清一が俺の手首を掴んで強引に自分の家の方へ引っ張って行く。
「は?待てって!んな時間じゃ、親に言っておかないと」
「もう言ってある。帰ったらウチ泊まるって」
「と、泊まる?いや、まぁ…… 明日は土曜日だし、問題は無いかもだけど」
傘も無いまま揃って清一の家へ向かう。清一は手に傘を持ってはいたが、開く時間も惜しいのか、立ち止まる事無く奴の家の玄関を目指した。
ポケットから鍵を取り出し、解錠して室内に入る。勝手知ったる家の中、腕を引かれたまま風呂場に向かうと、清一が俺の服に手を伸ばしてきた。
「早く脱げ。その制服はもう、クリーニングに出さないとだな。シャツとかは洗っておくから心配するな」
学ランのボタンを清一が外し、どんどん脱がせていく。
「自分で脱げるって!」
大声で言われて気持ちが萎縮した。ただでさえ体が冷えて心許ないっていうのに、トドメを刺された気分だ。
「…… 悪い。充の手が震えてるから、早く風呂に入れたいんだ」
清一の指摘で、自分の手が震えていた事に気が付いた。寒い寒いとは思っていたが、ここまで体が冷えていたとは無自覚だった。
「…… 流石に下着は自分で脱ぐからな?」
「別に俺がやってもいいのに」
「いや待て、ガキじゃないんだから勘弁してくれ」
制服一式を脱がされ、靴下まで清一の手にかかった。下着一枚になった所でやっと手が止まり、脱いだ服を清一が拾い始める。言い分を聞き入れてくれた事にホッとし、下着は自分で脱ぐと、「洗濯機に入れておいてくれないか?すぐに洗うから」と言われ、即座に従った。
「ゆっくり浸かるんだぞ、かなり体が冷えてるから」
「あぁ、わかったよ。ありがとな」
清一に礼を言い、風呂場へ入って行く。シャワーを浴びて軽く汚れを落としてさっさと熱い湯船に浸かると、じんわりと温かさが体の奥に染み込んできた。
「…… ふぅ」
息をゆっくり吐き出し、頭を浴槽の縁に預ける。
「さーて、どこから清一に話せばいいのやら…… 」
湯気で満ちた風呂場の中に、俺のぼやきは消えていった。
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