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香帆は『美緒に嫌われる理由』が思い付かない。
独身のころは色々な話をした。
昨日のテレビドラマ、好きな芸能人、美味しいお店、新しいコスメ、会社の愚痴まで、
美緒となら何でも話せた。
結婚後は、美緒から訊かれることが増えた。
新婚生活に興味があったらしい。
新居に購入した家具や家電のことを訊かれた。
新居の住所や間取り、生命保険の会社名まで訊ねられた。
(美緒も結婚が近いのかな?)と思ったほどだ。
颯真のこともよく訊かれた。
「佐山さんは元気?」「新しい営業所に慣れた?」
「集配地域の、どの地区を担当してるの?」
訊かれるまま答えて、(美緒は優しいなぁ)と思っていた。
その美緒が、桜志郎と繋がってる? 情報を教えた?
仲良しなのに?
一番の理解者で、一番の協力者で、一番大切な同僚なのに?
ショック受けて考え込む香帆に、颯真が言った。
「もう、本人に尋ねるしかないやん」
「そう……、よね……」
ストレートに訊くしかない。
「狩野桜志郎を知ってる?」「私と颯真の情報を教えた?」と。
でも、どこで話す? 会社で勤務中は無理だ。
どこかに呼び出す、といっても……?
「あ、そうか!」
美緒は何度も言っていた。「相談してね」「相談にのるよ」って。
香帆は美緒にLINNを送った。
『今日はゴメンね 悩みがあるんだけど相談していい?』
すぐに返信がきた。
『明日 ご飯行く?』
明日は香帆が休みで、美緒は出勤だ。
仕事帰りの夕食に誘われた。
『外では話せない できたらウチに来てほしい』
『OK スイーツ持ってく』
『ハンバーグ作って待ってるね』
香帆はスマホの画面をじっと見つめた。
颯真が死んだあと、美緒が部屋に来て「相談にのるよ。なんでも話して」といってくれた。
「生命保険金は請求した?」と訊かれて「まだ」と答えると、
「ダメよ。これから一人になるんだもの。お金は必要よ。きちんと請求した方が佐山さんも安心すると思う」と言われた。
香帆は(確かにそうだ)と思って保険金を請求した。
1週間後に三千万円が振り込まれて、美緒に報告したら……、
次の日に桜志郎から電話で〈口止め料〉を請求された。
あれは偶然じゃなかった???
明日の夜、美緒が来る。
訊きたいことがある。確かめたいことがある。
はっきりさせたいことがある。
颯真の浮気から始まった地獄。
抜けたと思えば、まだ続き、終わったと思えば、先があった。
でも明日が最後。絶対に最後。
(これが、最終決戦だ)