―――春休みの頭頃
私は、今日も高校の予習を欠かさずにやっていた。
春人も同様に学習しているらしいが、本気でやっている様子では無かった。
だからか、ラインも定期的に届いた。
「おはよー!! 今何してんの?暇か?それなら遊ぼうぜ!」
今さっき届いたこのメッセージを見てみたけど、大した内容では無かった。
これはいつもの事で、大体遊びの誘いばかり。
私はそれにうんざりしていて、今日も当たり前のように 誘いを断った。
「今、高校の勉強中ー。ごめん、遊びは無理。春人も勉強しな!」
そう送ると、春人から まさかの返事が来た。
「じゃあさ、**俺そっちの家行って良い?**話しながら勉強しようぜ!」
「え、マジ?それマジで言ってる?」
「うん、マジで言ってるけど?何かヤバいことでもある訳?」
「いや別に、そういう訳じゃないけど…」
「もしや、家が荒れてるとか?」
「うーん、まあね。結構荒れてるんだよ…?春の新生活準備だからね!?春人はどうなの?」
まさかの家に来るという誘いが来て、私はこの部屋をもう一度眺め直した。
とんでもない荒れ具合だ。勉強本は床に広がり、あまりの酷さに自分でさえ 絶句した。
「(ここに春人が来たら… どうなるだろ…?)」
こんな事想像したくないけど、テキトーな性格の春人なら 気にしないかも知れない。
そんな事を考えて、私はOKをした。
――ピーンポーン
あれから数分後、私の家のインターホンが鳴った。
外には 勉強道具を全て完備した春人が立っていて、両手ともが埋まっていた。
―――そして 私が玄関のドアを開けると、春人が何のためらいも無く 堂々と家に入ってきた。
「ちょ、靴はちゃんと揃えてよ?!私、そういうのには厳しいから。」
「そーか。部屋は散らかってるくせに?w」
「それはそうだけども……」
「ま、一旦入らせてもらうぜ。」
そう言って、春人は私よりも先に家に入った。
まずはリビングに入って、勉強道具を全て机に置いてから、椅子に座った。
「ってな訳で、まずは合格おめでとうだな!」
「そうだね!とりあえず めちゃくちゃ安心したよぉ…」
「だーけーど!勉強はまだ続くからな。」
「それは春人が言えることじゃ無くない?全然勉強してないじゃん!遊びばっかり…」
「いや、俺だって勉強はしてるぞ?だけど、七葉と遊ぶ時間も欲しいんだよ。」
「私と……?」
「おう。七葉と遊んでると楽しいからなー。」
「!(ドキッ…)」
何か私、名前を呼ばれると ドキッとしてる…?
なんで春人なんかにドキドキしなきゃいけないの……
―――というか、前も同じ感情に陥った気が…
「どうかしたか?何か最近、七葉おかしくないか…?受験で疲れた?」
「え、そうかな?別にそんなつもりは…」
やっぱり、春人には全てが見透かされてる気しかしない…
「……あのさ、俺今日… 七葉に伝えたいことがあって ここに来たんだよな。」
「伝えたいこと… って何?」
「……後で言う。」
「後って何??言うなら早く言ってよ。」
「……」
「??」
伝えたいことがある、なんて言って すぐに黙り込んだ春人。
何か重要な話でもあるのかな…?
試験は終わったし、そんな話は無いと思うんだけど…
「あのさ、俺……」
「うん。」
「俺……」
「……?」
謎の沈黙で 居心地が悪くなった部屋に、いつもとは違う 静かな雰囲気が漂う。
それは、春人の一言からだった。
「七葉が好き。」
「は………?」
「健人と付き合ってた頃から好きだった。だから、俺と____」
「ちょ、ちょっと待って?一旦待って?それは嘘だよね?うん、嘘だ。」
「!!」
大きなその一言が、私の心に突き刺さった。
いつもふざけてばかりの春人が、今日は爽涼な男子にしか見えなかった。
これは本当の言葉____。そうとしか思えない。
「だから、俺と…… 付き合ってくれませんか……?」
「春人……、」
「春人がこんな事するなんて、思わなかった。しかも春休み中に…!?」
「いや、健人に心残りがあるのかなぁって… それを紛らわすために必死だったんだよ……」
「そうなんだ…」
確かに、これまであんまり健人くんとの話題を出さず、受験の事ばかり話していた。
それは、春人が私の頭の中から 健人くんの記憶を消すためだったの……?
そんなの全然気付かなかった____。
私が鈍感すぎるのか、春人の演技が上手すぎるのか…
私には全く分からなかった。
「七葉……?返事……っ」
「あ、忘れてた…」
「こんな時期にごめん…」
「いや、全然大丈夫だけど…」
「……(返事、どうしよう…)」
私、春人の事が 幼馴染として見られなくなり始めていた事は 自覚していた。
だけど、いざ付き合うとなると……
―――私、付き合うのは 誰なら許せるの?
健人くん…? いや、あんな最低な人とは一生付き合いたくない。
でも、春人なら良いかな…?
付き合っても…
私は一瞬そう思ったけど、何故か「はい」の二文字が口から出なかった。
頭では「はい」を許しているのに、体は拒否反応を起こしている。
どうしてダメなの…?
健人くんじゃなきゃダメだなんて、今は考えたくなかった。
春人の事が、本当は好きじゃ無いという事が分かってしまう。
もう嫌だよ……、、
“健人くん、まだ好き……
春人じゃダメなの、ごめんね…”
私は心の中でそう唱えて、春人に言葉をかけた。
「―――ごめん、私には無理だ____。」
「……だよな、ごめん。」
「ううん、私こそごめん…」
「いや、まだ健人の事好きなんだろ?知ってるから。」
「! それは…」
「俺じゃダメだよな。 ま、もうすぐ繋がれるだろ。」
「え…?」
『健人と、もう一回恋したら?』
「どういう事……」
「知らなーい。」
「……?」
春人は 謎の言葉を残したまま、リビングから出ていってしまった。
「(何が言いたかったんだろ……)」
私の胸に さらにモヤモヤが積もって積もって、山になりそうだ。
塵も積もれば山となる って、こういう事なのかな…
私は無意識に首をかしげて、春人の後についていった。
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