私は溜め息混じりに言う。
「……公私混同って言いたいんですよね。……分かってますよ。来週からちゃんと働きます」
私はブスッと頬を膨らませ、冷たい窓に額を押しつける。
窓の外を見ていると、イルミネーションやらクリスマスカラーの飾りが胸に痛い。
昭人と付き合えていたなら、今年のクリスマスも一緒に過ごしていたのに。
プレゼント交換をして食事をして、可愛い下着をつけて、スペシャルな日だから求められたらエッチに応えようと思っていた。
――でも。
「今年はあいつ、私じゃない|女性《ひと》とクリスマスを過ごすんですよ。九年も私と付き合ったのに……。一日の私の誕生日を祝って、そのあとはすぐクリスマス。……思い出が一杯なのに……っ」
思いだしてまた泣き始めると、部長が冷めた口調で言った。
「セックスを嫌がってフラれたのに、元彼が今の彼女とヤるのが気に食わないのか。自分勝手じゃないか?」
(セックスセックス言わないでよ!)
私はチラッとバックミラーを見る。
けれど運転手さんは慣れっこなのか、まっすぐ前を見ていた。
それを見て少し安心した私は、ブスッとして返事をする。
「……だって、一応彼氏でしたし」
言い訳めいた返事をしつつ、私は自分が彼女として昭人を満足させられなかった事を、今さらながら自覚した。
当時、私は『大した事じゃない』と思ってしまっていた。
一緒にいるだけで満足できたし、エッチしなくてもお互い想い合えていると思っていた。
だってエッチは痛いし、そんなにいいものだって思えなかったから。
『ムラムラするなら手でするよ』って言ったけど、昭人は『いいよ』と言って一人で処理していたみたいだった。
だから問題ないのだと思っていたけど……、……フラれたっていう事はやっぱり問題あったんだろう。
車内に沈黙が降りたあと、私は部長に尋ねる。
「男性ってやっぱり……シたいんですか?」
「男の性欲のピークは二十歳前後。女の性欲のピークは三十代から四十代。それが噛み合う恋人、噛み合わない恋人がいても不思議じゃない」
「…………うう……」
私は頭を抱える。
(私、昭人がしたくて堪らない時に、おあずけしまくってた?)
だったらさせてくれる彼女に鞍替えしても仕方ないけど……。
(でもエッチってそんなに大事? あんなの、気持ちいいって思えない)
だから私は、また言い訳混じりに言った。
「……だって、気持ちいいって思えなかったんです。痛かったんです。何回か我慢して付き合ったけど、『またしたい』とは思えませんでした。抱き合っているのは気持ちいいけど、デリケートな所を触られると痛くて……」
(……部長相手に何言ってるんだろ。きっとまだ酔ってるんだ)
心の中で自分に言い訳をした時、部長がボソッと言った。
「……下手くそだったんだろうな」
「……下手?」
私は思わず部長のほうを見る。
「……ど、どうして元彼が下手だって言えるんですか?」
「女性を痛がらせる奴は下手だ。間違いねぇよ。……俺ならちゃんと濡らして、気持ちよくさせられる」
部長はずっと窓の外を見ていたけれど、そう言った時にスッと私を見てきた。
熱の籠もった視線を受けた私は、ドキッと胸を高鳴らせる。
プライベートが謎の部長が「濡らす」とか「抱く」とか言うので、普通の男性が口にするよりずっと卑猥に思えた。
私は真っ赤になり、職場ではまったく見せなかった色気を放つ部長を凝視する。
見つめているというより、彼の発する雰囲気に呑まれて視線を逸らせなかったと言っていい。
すると――。
「……試してみるか?」
部長は普段見せない妖艶な笑みを浮かべ、ダンスに誘うように私の手を握ってきた。
(この人……、ヤバイ……。……かも……)
気がつけば私は、無害と思い込んでいた狼の顎(あぎと)の中に入ってしまっていた。
そうなればもう、辿る道は一つだ。
私はこれ以上ないほど赤面しながら、無言で頷いてしまった。
**
コメント
1件
部長の圧倒的な色気とオーラに飲み込まれ、思わず応じてしまった朱里ちゃん....(///ω///)お試し♡キャアー ドキドキ♡