寝室で眠るつかさは、スマホから流れてくるアラーム音で目を覚ます。
「う、うー・・・ん」つかさは、まだ開ききっていない目を擦りながら背伸びをする。
そして、それとなくベッドを見るが、そこには梓の姿はなかった。
「あれ?金森さんは?」つかさは首を傾げながら寝室を出てリビングに向かう。
「ふっ、まったくこの2人は・・先生と生徒だって言うのに」つかさソファを見つめて微笑む。
ソファには駿と梓が、手を繋ぎ、互いに体を預けあいながら、健やかな表情で眠っていた。
「ホラ!ホラ!朝ですよ!休みだからっていつまで寝てるんですか!」
つかさはカーテンを開ける。
「う、うー・・ん、雛形先生?」駿はあくびをしながら四肢を猫のように伸ばす。
「まったく・・生徒と一緒に寝るなんて・・私じゃなかったら、学校に、いや警察に通報されてますよ?」
「一緒に?」駿は首を傾げながら横を見る。
そこには自分の体に寄り添って眠る梓の姿があった。
「あ、いや、その、これは、えっと、あはは」
「また笑って誤魔化す!まぁ、いいですよ!皆川先生の事は信頼してますから!」
つかさは微笑み、腕まくりをしながらキッチンへ向かう。
「あはは、ありがとうございます・・でも何で腕まくりしてるんですか?」
「朝ごはん作るんですよ!ホラ!元々昨日晩ご飯作るつもりで買ってた食材ありますから!使わないのは勿体無いですからね!」つかさは微笑む。
「あ、なら、俺も手伝いますよ!」駿は梓を起こさないように、ゆっくりと梓の体を離して、ソファに寝かせて布団を被せ、梓の頭を優しくポンポンと触りキッチンへ向かう。
「う、うー・・ん」部屋に漂う香ばしい匂いに釣られて梓が目を覚ます。
「金森さん?おはよう!」つかさかテーブルに料理を並べながら梓に呼びかける。
「あ!雛形先生!おはよ!ふわぁ〜・・」梓は大きな口を開けてあくびをする。
「さ!顔洗ってきなさい!一緒に食べるわよ?」
「食べる?」梓は首を傾げながらテーブルに視線を向ける。
そこには、ご飯に味噌汁、鯖の塩焼きに納豆、ウインナーに卵焼き、これぞ日本の朝食と言った料理が並べられていた。
「わぁ!おいしそ〜!」梓はソファに横たわったまま、ウインナーに手を伸ばそうとする。
「金森さん?お行儀悪いわよ?」梓はつかさに注意されてしまう。
「はぁーい!」梓はしぶしぶ起き上がり、顔を洗うために脱衣所へ向かう。
するとキッチンからリビングに向かう駿と鉢合わせする。
「あ!梓!おはよう!」お茶を手にした梓が笑顔で挨拶をする。
「あ!駿!おはよ❤︎」梓が駿に抱きつく。
「ちょ!バカ!やめろって!お茶がこぼれちゃうだろ!」
「きゃはは!ごめん!ごめん!」梓は微笑みながら脱衣所へ向かう。
「ま、まったく、金森には困ったもんですよね!あはは!」
「梓でいいですよ!もう!無理して名字で呼ばなくても!」
「あはは、すいません・・・」駿は申し訳なさそうに冷や汗を流す。
「ですけど、生徒が教師に抱きついちゃいけない理由が、お茶がこぼれるからなんですね!」つかさは呆れた様子で駿からお茶を奪い、テーブルに並べる。
「あ、いや、あはは!」駿は笑って誤魔化す。
「はぁ〜・・まぁ、いいですけどね」
「う〜ん!卵焼き甘くて美味しい〜❤︎」
つかさ手作りの朝食を食べる梓は、ご満悦といった様子で笑みをこぼす。
「なんか、すき焼きみたいな味する❤︎」
「お!鋭いわね金森さん!お醤油の代わりにすき焼きのタレ入れてるのよ!」
「え!?本当!?味わかっちゃった!?もしかしたら私って天才かも〜❤︎」
梓は有頂天と言った様子ではしゃぐ。
「あ!これすき焼きだったのか!あー!なるほど!なるほど!確かそう言われればすき焼きの味だ!」駿は卵焼きをゆっくり噛み締めるように味わう。
「まぁ、駿には分からないよね〜❤︎なんてったって私天才だから❤︎」
梓は上機嫌な様子で駿の頭をポンポン触る。
「よっ!天才梓!」駿は梓を調子づかせるよに掛け声をかける。
「まぁ、それほどでも・・あるかな」
梓はドヤ顔で駿を見下ろす。
「よっ!唯一無二の天才!」「まぁ、良く言われちゃうかなぁ〜❤︎」
「よっ!女神の生まれ変わり!」「まぁ、当然かなぁ〜❤︎」
2人がしばらく、そんなやりとりをしていると、つかさか「ふふふ」と笑みをこぼす。
「ん?どうかしました?」駿が首を傾げる。
「なんか仲良いなぁ〜と思っただけです」つかさは微笑みながら味噌汁をすする。
「当然じゃん!だって私と駿はずーっと一緒なんだから!ね?駿❤︎」梓は駿に抱きつく。
「バ、バカ!雛形先生の前で!」
「何で!だって昨日言ってくれたじゃん!側に居る!何があっても護るって!」
「だぁーもう!何で全部言っちゃうんだよお前は!少しは誤魔化すって事を覚えろよ!」
「ぷっ、誤魔化すって(笑)駿はいつも笑ってるだけのくせに!」
梓の的を射た返しに駿は顔をしかめる。
「まぁ、確かに皆川先生の誤魔化しは笑ってるだけよね?」「ねー!」
つかさと梓は顔を見合わせて笑う。
それからしばらく3人で時間を共にする。
「では、私はそろそろ帰りますね」
つかさはそう言って立ち上がる。
「え?あ、もうそんな時間か!」
駿が慌てた様子でスマホで時間を確認する。
時刻はすでに正午になっていた。
「あんまり長居するのも迷惑でしょうし、私はこの辺で、ね?金森さん」つかさは梓にウインクをする。
「雛形先生・・」梓ははずかしそうに微笑む。
「迷惑なんて・・そんな風に思ってませんって!もう少し居てもらっても」
「はぁ〜・・まったく皆川先生の鈍感さは天然記念物なみですね」つかさは駿の言葉を遮る様に食い気味で口を開く。
「ね?金森さん!」「ね〜❤︎」つかさと梓は目を合わせ笑う。
「え?」そんな2人を見て駿は首を傾げる。
「まぁ、いいですけどね。じゃあ!皆川先生!金森さん!また明日学校で!」
つかさはそう言って家を出ていく。
しばらくテレビを見ながら過ごす駿と梓。
すると駿がおもむろに口を開く。
「俺は別に鈍感なわけじゃないからな?」
駿は梓の目をまっすぐ見て真剣な眼差しを向ける。
「駿?どうしたの?急に」
「まぁ、確かに鈍感ではあるんだけど、さすがに梓の気持ちに気付かないほどバカじゃない」
「駿・・・」梓は頬を赤く染める。
「けど、今は教師って立場上、その気持ちを素直に受け入れる事は出来ない、だけど、その時が来たら必ず俺の気持ちを伝える!」
「うん・・ぐすっ・・」梓は涙を流す。
「だからさ・・その時まで待たせちゃう事なるけど、待っててもらえるかな?」
「うん・・ずっと待ってるから」
駿は誰も居ない部屋のソファで梓を優しく抱きしめた。
それから2日間、水曜日、木曜日と、日にちは過ぎていったが、探偵からの連絡は無かった。
SNSの投稿もかなり拡散されたが、イタズラ電話が数件来ただけだった。
そして日にちは過ぎ、探偵に依頼した1週間の最終日である金曜日になった。
早朝も連絡は無く、駿と梓は不安を抱えたまま、いつも通り互いに時間差で自宅を出て学校に向かった。
そして、このまま見つからないのだろうかと不安に押し潰されそうになりながらも、授業をする駿だったが、1本の電話で事は大きく進展するのだった。