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橘靖竜
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模倣スタッフ崩壊
スタッフK-17。
村田モデルを再現した人材。
同じ空白テストを受ける。
予定が消える。
スマホを見る。
通知なし。
五分。
十分。
三十分。
彼はメッセージを送る。
「今日は会えますよね?」
既読がつかない。
胸が締まる。
一時間後。
K-17は椅子から立ち上がる。
「俺は……」
呼吸が荒くなる。
「俺は選ばれてるんだろ?」
ログが警告を出す。
情動同期暴走。
依存値上昇。
自我境界不安定。
彼は叫ぶ。
「俺の何が足りないんだよ!!」
モニターが暗転する。
人格同期エラー。
強制停止。
この瞬間、
会社は初めて知る。
村田は再現できない。
本社地下。
人格同期実験室。
白い部屋の中央に椅子が一つ置かれている。
その椅子に座っているのは
スタッフ K-17。
村田孝好の行動モデルを元に育成された
模倣スタッフだった。
モニターの向こうで研究員が言う。
「テスト開始」
K-17の端末から
予定が一つずつ消えていく。
朝食サポート。
通話ケア。
外出同行。
全部。
K-17は少し眉をひそめた。
「今日は休みですか?」
研究員が答える。
「調整日です」
それだけ。
K-17はうなずいた。
最初の一時間は問題なかった。
本を読む。
コーヒーを飲む。
だが二時間後。
スマホを見る。
通知なし。
三時間後。
メッセージを送る。
> 今日、会えますか?
既読がつかない。
K-17の呼吸が少し早くなる。
四時間後。
立ち上がる。
部屋を歩き回る。
「……おかしい」
モニターのログが変わる。
情動同期率:低下
依存値:上昇
研究員の一人が言う。
「まだ正常範囲です」
だが違った。
五時間後。
K-17は椅子を蹴った。
「なんで」
声が震える。
「なんで誰も呼ばないんだよ」
モニターが赤くなる。
警告
人格同期不安定
K-17はスマホを握りしめる。
「俺は」
声が大きくなる。
「俺は必要なんだろ?」
誰も答えない。
当然だ。
これはテストだから。
だがK-17には理解できない。
彼は叫ぶ。
「俺は村田と同じなんだ!!」
その瞬間。
ログが暴走する。
依存値:急上昇
自我境界:崩壊
情動同期:エラー
K-17の視界が揺れる。
椅子を倒す。
モニターに向かって叫ぶ。
「俺を選べよ!!」
研究員が叫ぶ。
「停止!」
だが遅い。
K-17は壁を殴り続ける。
「選べよ!
選べよ!!」
声が泣き声に変わる。
「俺……頑張ってるのに」
モニターが暗転する。
強制停止。
部屋が静かになる。
研究員の一人が小さく言う。
「……失敗だ」
別の研究員が答える。
「いいえ」
モニターのデータを見る。
「むしろ成功です」
理由は明白だった。
K-17は
村田を再現できなかった。
つまり村田の安定は
システムでは作れない。
監視室
そのログを見ていた人物がいる。
佐伯。
彼は腕を組んだまま言う。
「やっぱりだ」
部下が聞く。
「何がです?」
佐伯は画面を指す。
「村田は
設計外だ」
模倣モデルでは
再現できない。
だから会社は
村田を更新しようとしている。
理解できないものを
制御するために。
データ室
月影真佐男は同じログを見ていた。
K-17の最後の言葉。
> 俺を選べよ
月影は目を閉じる。
それは
補助者だった頃、
何度も聞いた言葉だった。
利用者の声。
孤独の声。
月影はつぶやく。
「だから壊れるんだ」
村田は違う。
彼は
選ばれなくても壊れない。
同時刻
オフィス内、
生体用仮眠室。
ハヤトは、
目覚めてすぐミネラルウォーターを飲んでいた。
彼の業務端末にも
同じログが流れる。
K-17の崩壊。
内部分析が始まる。
原因分析
孤独耐性:不足
依存耐性:不足
村田孝好
孤独耐性:高
理由:不明
しかし、その端末処理はそこで止まる。
ハヤトは静かに考える。
《この二人の結果の違いは、どこから出たんだろう?》
新しい疑問。
そして
花子の言葉を思い出す。
> 空白は敵じゃない
ハヤト向けの内部修整モデルが更新されかける。
新仮説
空白=安定要素
処理エラー。
更新停止。
ハヤトは、
目を見開く。
「どうなってるの?これ……」
急に、
喉が、
渇く……
外務省
山田外相は
直雇している黒子|Z《ゼット》からの報告を聞いていた。
「模倣スタッフが崩壊?」
「はいっ!」
山田は笑う。
「いいね」
秘書が戸惑う。
「いいんですか?」
山田は窓を見る。
「つまり
村田は作れない」
一拍置いて、
「だから価値がある」
山田は資料を閉じた。
「会いに行こう」
村田孝好に。
その頃
村田は自宅で料理をしていた。
誰かのためじゃない。
自分のため。
フライパンの音。
村田は思う。
(花子さん、元気かな)
それは今まで感じたことのない
小さな興味だった。
月影が数値を歪める
深夜。
オフィスは静かだった。
月影は花子のログを見ている。
評価コメント。
「少し静かすぎる気がします」
たった一行。
だが、それが示すものを彼は理解している。
花子は感じ取っている。
設計された安定。
村田の空白。
強化実験。
全部が繋がる。
報告書入力画面。
変動率。
システムは赤を出している。
危険ライン。
月影はカーソルを動かす。
数値を書き換える。
0.7 → 0.1
統計誤差範囲。
問題なし。
送信。
画面が閉じる。
月影は椅子に背を預けた。
初めてだった。
会社の数字を、
意図的に歪めた。
「ごめんよ」
誰に向けたのか分からない。
たぶん。
村田。
たぶん。
花子。