なんでお前が推しなんだよ

その日の午後、俺は再びメッセージを確認していた。事務所からの連絡はそれ以降も続いていたが、どれも同じ内容だった。調査は続く、誠実に対応しろ、怪しい行動が増えてきた、等々。しかし、俺が何もしていないことに変わりはない。むしろ、事務所が俺を追い詰めてくる感じが強くなってきた。

その時、突然、ベルが鳴った。

「誰だよ…」

心臓がドクン、と跳ねた。誰だ？まさか、事務所から来たのか？それとも、警察が？

俺は不安な気持ちを押し殺して、ドアの覗き穴から外を見た。

見慣れない人物が立っていた。その顔に見覚えはなかったが、その後ろには、数人の人影がちらりと見える。

「おい、開けろよ！」

声が響く。誰だ、こいつら？その声のトーンに、少しだけぞっとした。今、こうして声を荒げるような人間には、まともな意図を持った人間なんていない。

俺はしばらく躊躇ったが、ドアを開けることにした。どうしても、恐怖が俺を引き寄せていた。

ドアを開けた瞬間、予想外のことが起きた。

目の前に立っていたのは、俺がかつて配信を見ていた皇様の熱狂的なファンたちだった。制服姿で、明らかに学生っぽい若者が数人、さらに一人は年齢不詳の男が一緒にいた。顔を見ただけで、彼らが俺に対して好意を持っていないのがわかった。

その一番前に立っていた若い男が、俺を見据えて言った。

「お前だな、皇様を殺したのは…」

その一言が、俺の体を震わせた。

「ち、違う…」

思わず口から出た言葉。だが、反応が逆にファンたちの怒りを引き出す結果になった。

「やっぱりこいつだよ！」

その声に合わせて、他のファンたちが一斉に押し寄せてきた。無言で俺を押し倒し、部屋の中に引きずり込まれる。

「お前が皇様を…」

怒鳴り声とともに、胸元に何か鋭いものが当たった。それは、ナイフだった。

目の前に立っていた男が、冷ややかな表情で俺を見下ろしながら、再び口を開いた。

「お前のせいで、皇様が死んだんだ。俺たちがどれだけ皇様を愛してたか、わかってるか？」

その刃が、俺の胸に少しだけ押し当てられた。恐怖で体が硬直する。抵抗できるわけがない。どうすればいい？どうやってこの状況を打破すればいい？

だが、次の瞬間、男の手が動き、ナイフが突然、胸元を掠めた。

「ぐっ…」

鋭い痛みが走った。心臓のすぐ横、皮膚を裂かれた感覚。血が、じわじわとにじみ出てくる。視界がぼやけてきた。

「お前のせいで…皇様は死んだんだ！」

声が遠くから聞こえる。無駄だ、どうせ俺を責めることしかできないんだろう。これで終わりか？

しかし、意識が遠のく中、ふと思い出した。あの時、事務所から送られてきたメッセージの数々。「誠実に対応してほしい。」という言葉が頭に浮かぶ。

「誠実に…」

その言葉だけが、少しだけ僕の心を支えてくれた。だが、もう遅いのかもしれない。

目の前のファンたちは、もう俺のことを見ていない。少年がナイフを振り上げ、もう一度刺そうとしたその時、何かが僕を守ろうとしている気がした。

「止めろ！」

叫び声が聞こえる。だが、それが誰の声だったのか分からなかった。意識がさらに遠のき、目の前の景色が白くなっていく。

何もかもが、遠く感じる。

ガクン。

その瞬間、目の前が完全に暗くなり、僕は意識を失った。

翌日

目を覚ましたとき、周りには冷たい空気とともに不安の感触が広がっていた。

どこだ？これは、病院？いや、どこか別の場所？目を開けると、全身に痛みが走る。ナイフが刺さった傷は、まだひどく腫れていた。だが、俺は生きていた。

もう、誰も俺を放っておくことはないだろう。ファンたちと、事務所が重なる中、俺は立ち上がらなければならなかった。

「これで終わるわけにはいかない。」

俺は深く息を吸い込み、痛みに耐えながら立ち上がった。