僕は布団の中で蹲っていた。
、、どうやって帰ったかは覚えていない。
そっと、布団から顔だけを出して時計を見ると10時を回っていた。
……。
学校を休んでしまった。
昨日の事を思い出すだけで震えてしまう。しまいには涙まで零れてくる。
分からなかった。あの行為は何だったのか。
ただただ恐ろしかった。誰に何を聞かれても、何も言えなかった。口にするのも恐ろしかった。思い出したくなかった。忘れようとした。でもあの光景は頭からこびり付いて離れなかった。
そうだ、あれはハルじゃない。
何かの間違いなんだ、。
そう、自分に言い聞かせても、震えは止まらなかった。
あれから3日がたった今も、外に、出られなくなっていた。自分の部屋に閉じもっていた。忘れよう、そう思っても忘れられなくて、ずっと、天井を見つめていた。
ピンポーン
家のチャイムが鳴った。でも出る気にはなれなず、息を潜めた。
「……」
早く、何処かに行ってくれ、、。
ぎゅっと目を瞑った。
「ゆき、居るんだろ」
僕はその声を聞いた途端、固まってしまった。その声は、ハルだった。
「ごめん。謝って済むことじゃないことくらい分かってる。でも、ゆきに謝りたくて、。ごめん、あんな事して、。俺ってほんと最低だよな、、」
僕はドアの前に来た。でも、ドアノブに触れる事すらできなかった。
「ゆき、俺が何をしたか、分かるだろ。もう俺とお前は友達じゃない。俺はお前の敵だ。悪いのは俺だ。だから、もう、自分を責めるような事はしないでくれ。…じゃあな、ゆき」
……、なんで、ハルはそう言ったのだろう。ハルは何も悪くないのに。僕のせいでああなったのに。悪いのはハルじゃない。僕だ。ハルは、敵なんかじゃない。
(「…じゃあな、ゆき」)
僕はハッとして顔を上げた。ふと、考えがよぎる。ハルはどこか遠くへ行こうとしてるのではないか。僕の前から居なくなろうとしているのではないか。
立ち上がり、靴を履く。一瞬、怖気付いてしまったが、ドアノブに触れた。
2日ぶりの外は明るかった。
強い太陽の日差しに、目眩を覚えた。辺りを見回したが、ハルの姿は何処にもなかった。
僕は走りだした。
でも何処を探しても、ハルはいなかった。ハルの叔母さんの家にも、家の跡地にも、近くの公園にも、心辺りのあるところを全て探し回ったが、痕跡すら掴めなかった、。僕はその場に座り込んだ。正直、走り回って、ヘトヘトだった。
帰ろうか、。もう、見つからないのかな。空を見上げると、雲行きが怪しくなっていた。僕は立ち上がった。その時、森が目に入った。
あった。まだ探していない場所が。
僕は走りだした。
久しぶりに入る森は草木が伸び、荒れていた。でも、確かに誰かが通った痕跡があった。
「ハルっ!」
ハルは秘密基地の前に立っていた。ハルが振り返る。
「…ゆき、来たんだ」
そう言ってハルは微笑んだ。
「懐かしいよな。俺達の秘密基地。」
「もうボロボロだけどね」
「そうだな」
すると、ポツポツと雨が降りはじめた。辺りは暗くなってきていた。
「ハル、帰ろう」
「帰るよ、ちゃんと」
そう言ったハルは中に入っていく。僕もハルに付いて中に入った。
「少しはマシか。雨漏れは凄いけど」
「…ねぇ、ハル、帰ろうよ、」
とうとう雨は本降りになっていた。
「…。」
「ゆき、ごめん。」
「え、?」
「お前を傷つけてしまって、」
「あの事はもう良い。だから帰ろう、?」
ハルはそっと僕に手を伸ばした。僕は咄嗟に、その手から逃げてしまった。
「……」
「、あ」
ハルは傷ついたような顔をしていた。
「今のはっ、」
「当たり前だよ。そんな反応するのは」
「だから、」
「いい。」
「?」
「ゆき、ごめん、俺のせいで、、ごめん、ごめんっ、、。」
ハルはポケットから何かを取りだした。それが、キラリと光った、と思った瞬間、
グサッ
ハル、?
途端にハルがよろけ、壁にもたれたと思うとそのまま壁を伝って座り込んだ。僕はハルに駆け寄った。
「ゴホッゴホッ」
ハルが咳込む。
「なに、して、」
「あっはは、」
ハルに触れると、指が濡れた。ピカッと稲光が鳴る。、、血。だった。
ハルは腹部から大量の血を流していた。
「誰か、呼ばなきゃっ、、」
「無駄だ、」
「、え」
「今人を呼んだってどうせ死ぬ、」
「なんで、」
「、ゆき」
ハルの手が僕の頬に触れた。
「ごめん、」
「もう、いいよ、、」
涙で、視界がぼやけた。
「泣くなって」
「、だって」
ハルが、
「お前ってほんと泣き虫だよな。すぐ泣く」
「僕は、泣き虫なんかじゃない」
泣きながらそう言い返した。
「はは。、、ゆき」
ハルが笑った。
「、なにっ、」
「好きだ」
「…え」
僕の頬に触れていた手がすっと落ちそうになったから、僕は手を重ねた。
「ハル?」
「…」
手が、だんだんと冷たくなっていく。
「ハル、ハル!」
名前を呼んでも返事がない。
やがて体温を少しも感じ無くなった。ただ、流れる血液だけが暖かかった。
ハルはもう動かなかった。
「…ぁ、ぁ…あぁ」
なんで、
「あぁぁぁああああああああああ」
ハル、。
僕の声は、ザーザーと降る雨にかき消された。辺りは真っ暗だった。屋根の隙間からは雨漏れがしていた。
ハルは、ヒビが入っていた僕の心に、自らの死を持って釘を刺した。
雨に、体温を奪われた。そんなこと、どうでも良かった。
もう動かないハルを抱きしめながら、僕は大声で泣き続けた。
ーーもし、僕があのとき、あのハルを、受け入れていれば、拒まなければ、ハルは自殺なんてしなかったのかな
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