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「恵菜さんは……」
純は以前、立川で恵菜と食事をした際、彼女が言い掛けた事が、ずっと引っ掛かっている。
『実は彼氏がいるのでは?』と聞いた時、恵菜は『離婚して、まだ半年も経ってないし……恋愛は…………』と濁し、純は、その先が気になって仕方がない。
聞いたとしても、彼女が答えてくれるかどうかは分からないが、もしかしたら、この雄大な海の景色を前にして、答えてくれるかもしれない、と微量の期待を抱く彼。
「恵菜さんは離婚してから…………恋をしたいとは思った事はある?」
純の問い掛けに、先ほどまで緩やかな笑みを映し出していた彼女が、徐々に躊躇いがちの表情に変化していく。
「…………」
彼が考えていた通り、恵菜は口を閉ざしたまま、水平線に眼差しを向けている。
(彼女はまだ心に…………深く傷を負ったままか……)
彼女は純に、自分はバツイチで、結婚してから激太りした事や元夫の不倫、姑にダイエットするように言われ続け、心が板挟みになった恵菜は、体調に異変を来し、体重が半月で十キロ落ちた事を打ち明けてくれた。
彼女も、純に打ち明けるのは、相当勇気が要っただろう。
ならば、彼自身の事も、きちんと話さないとならない。
(彼女に…………嫌われるだろうが……)
純は、一度顔を俯かせ、フウッと短く息を吐き切ってから、勢い良く顔を上げた。
***
「俺…………さ……」
まるで彼女に懺悔をするようだな、と、純は心の中で苦笑してしまう。
「過去に数人、真剣に付き合ってた彼女がいたんだけど……ノリが軽くて大袈裟な性格のせいで、振られ続けてたんだ……」
波の音だけが二人を包み、純は沖に見える船に視線を這わせた。
「過去の恋人たちには、男性として見られない、とか、彼氏というよりも友だちって感じ、とか言われてさ。俺…………男としての自信を失くしちゃったんだよな……」
彼が真っ直ぐに穏やかな海を見やったままでいると、斜め下から眼差しを向けられているように感じる。
「こんな事を打ち明けたら、恐らく、恵菜さんは俺に幻滅すると思う。でも、このまま黙っているのも、俺は嫌だから、正直に言う」
純は再び顔を伏せた後、弾かれたように天を仰いだ。