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🌌15章の前のプロローグ(律視点・泡空間の拡張版)
眠りは海みたいだ。とても深くて、泡の粒がただよっている。
意識が触れるたびに、小さな記憶が音となってはじける。まるで、遠くで誰かが小さく名前を呼んだような。
泡図書館は、その海の底にひろがっている。
棚はない。ただ無数の泡が浮遊していて、それぞれがページのように震えている。
ひとつの泡が、まるで息をするように脈打った。
その気配に、ぼくは知っている感情の残響を聴いた。
やわらかくて、切なくて、それでも手を伸ばしたくなる響き。
猫が、泡の向こうでまばたきした。まばたきは音を持たない。
でも、空気が静かにゆれて、泡の中に新しい光が差し込んだ。
泡の頁がひらく。まだぼくは眠っているのに、誰かの想いがこの海の奥まで届いてきた気がした。
彼女の気配は、名前より先にぼくのなかに灯っていた。
🫧第15章「泡の残響、言葉にならない旋律」
泡図書館の夜は静かだった。
昼の柔らかな光が、今は星屑のような泡の粒に変わって漂っている。
聖名(みな)はひとりで頁を開いたまま、律の言葉の余韻を思い出していた。
それは“言葉にならない”想いだった。
けれど、音としては確かに残っていた。
律は今も、音楽室でピアノを弾いているのだろうか。
伏し目がちで、儚げな目をした彼の横顔を、聖名は思い浮かべていた。
「……先生には、感情がこもってないって言われてたね」
彼女は泡の頁にそっと書き添えた。
🎹挿し込み描写:律の演奏シーン
泡図書館の空間の片隅に、音楽室の記憶がそっと差し込まれる。
律はピアノの前に座り、静かに譜面をめくっていた。
目元には憂いがあり、指先には迷いがあるようだった。
感情を込めようとしていたわけじゃない。
彼は“感情そのもの”を音に変えていた。
だから表情は静かで、伏し目がちだった。
それを先生は“感情がこもってない”と見誤ったのかもしれない。
けれど聖名は知っていた。
あの日、音楽室の窓からこぼれてきた旋律が、泡の粒になって彼女の記憶を包み込んでいたことを。
“伝え方が違うだけで、律は誰よりも感情を音に編んでいた”ことを。
泡日記の余白に、聖名はこう残した。
📓泡日記・夜の頁
彼は、黙って音を奏でる人だった。
見つめるよりも、伏し目がちのまま泡を編む人だった。
あの静かな横顔を、私は忘れたくない。
感情がこもってないなんて、そんな言葉じゃ足りない。
彼は泡になった記憶の中で、私を包んでくれた。
泡図書館の夜。
頁の奥に、律の音がふわりと灯る。
言葉にならない旋律が、泡の粒とともに、聖名(みな)の胸にやさしく響いていた。