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そして、「本日のメインディッシュです」というギャルソンの落ち着いた声と共に運ばれてきたのは、この夜の主役だった。
『国産牛フィレ肉の低温調理 赤ワインソース マッシュポテトと旬野菜』
絶妙な火加減で仕上げられた肉の断面は、宝石のルビーを思わせる艶やかなピンク色を湛えている。
肉質は驚くほど柔らかく、歯を立てる必要もないほど。
口に入れた瞬間に上質な脂と赤ワインソースの重厚な旨みが広がり、一瞬で体温に溶けていった。
添えられたマッシュポテトは、淡雪のようにふわっとした優しくほっこりとした味で
肉汁を余さず吸い取っており、まさに最高の一言に尽きる。
「……っ」
俺は言葉にならない感動に、思わず低くうなってしまう。
二人の間に流れる時間は、究極の美食によって、より濃密で贅沢なものへと昇華されていた。
至福のディナーも終盤に差し掛かり、心地よい満腹感に包まれていたころ。
最後にデザートが登場するタイミングで、尊さんは不意に居住まいを正し、静かに咳払いをして真っ直ぐに俺へ視線を向けた。
「……恋、今日のメニューにはデザートが付いてるんだが」
「はい?」
不意に真面目なトーンになった尊さんに、俺は首を傾げる。
「実は事前に選択させてもらった」
「え……?」
驚く俺を置き去りにするように、それが合図だったのか、ウェイターがこれまでにないほど慎重な手つきで一皿を運んできた。
『ショコラテリーヌとベリーのコンポート バニラアイス添え』
漆黒の夜を溶かしたような艶やかなチョコレートケーキ。
その表面には宝石のように苺やブルーベリーが散りばめられ、純白のバニラアイスクリームが美しく寄り添っている。
そして、俺の視線を釘付けにしたのは、皿の中央に置かれた小さなチョコプレートだった。
そこには、繊細な金箔のような文字でこう記されていた。
───《1st Anniversary》
「……っ!!」
驚きで息を飲み、目を見開いたまま固まる俺を見て、尊さんは少しだけ照れくさそうに口角を上げた。
「サプライズでな」
「……えっ、え、す、すごい!嬉しすぎます…っ!」
感激のあまり、声が震えて上手く言葉にならない。
(尊さん、俺のためにここまで準備をしてくれてたなんて……)
予約困難な店を確保するだけでも大変だったはずなのに、さらにこんな心憎い演出まで。
彼から向けられる、深く、どこまでも甘い愛情に包まれて、胸がいっぱいになる。
「ほら、食べてみろ」
コメント
1件
サプライズ....ステキ(*´`)♡